体験価値から考える、待ち合わせ場所のデザイン

Tech & Experience Design / テクノロジーと体験デザイン

「じゃあ、いつものところで待ち合わせで!」「中央改札出て右側あたりに18時に。」待ち合わせ場所を決めるシーンでよく聞くフレーズです。いまの時代は1人1台スマートフォンをもっており、メールやメッセンジャーアプリ(日本ではLINE、海外だとWhats App、中国だとWeChat など)で逐次お互いの場所などやりとりができる便利な時代です。遅刻しそうなときも簡単に伝えることができるので、わざわざ固定の場所で待ち合わせをせずに、現地集合も簡単にできます。それでもやはり「待ち合わせ場所」を決めて待ち合わせすることが多いのではないでしょうか。そして待ち合わせ場所でSNSや動画を見て時間を潰している人も多いようです。

さて、その待ち合わせ場所はどうして待ち合わせ場所になるのでしょうか?友人との居酒屋でも、仕事先の現地集合でも、その具体的な場所はどういう条件で決めているのでしょうか? みなさんはどんな条件や理由で待ち合わせ場所を選択していますか?今回は「待ち合わせ場所になる理由」を体験デザイン視点で解いていきます。

世界中の待ち合わせ場所でみつけた4つの待ち合わせ要素

なぜその場所は待ち合わせ場所になるのか、人はそこに集まるのか、そこで待つことを選ぶのか、その理由を見つけるために日本だけでなく世界の有名な待ち合わせ場所も含めてリサーチしてみました。

日本の待ち合わせスポット
世界の待ち合わせスポット

これらの待ち合わせ場所の写真をみて共通するモノコトを感じましたか?

では日本の有名な待ち合わせ場所のひとつである渋谷ハチ公前広場を具体的に取り上げ、待ち合わせ場所になる要因などを考えてみましょう。そのために以前、渋谷ハチ公前広場に足を運び、どのように待っているのかなど、人々の行動を観察してきました。渋谷ハチ公前広場へ行ったことがある方は、もしこのあたりで待ち合わせするならどのポイントで待ち合わせしますか?行ったことがない方は、下記の写真をみてどのあたりで待ち合わせるか考えてみてください。

ハチ公とその周辺エリア

渋谷ハチ公前広場を観察していると、人は多く密集しているように見えて、実はその中でも待ち合わせをする場所が限られていることに気がつきました。

  • 改札のそば
  • ハチ公の銅像周辺
  • ベンチや樹木の下
  • 建物の壁の前

このように、大きく4つに分けられます。上記以外の場所にいる人は、スクランブル交差点を撮影する観光客、声かけをするキャッチの人、ヒューマンウォッチングをしている人、スマホゲームの都合で居る人……だいたいこんな感じでした。待ち合わせする人は先ほどの4つの場所にほぼ固まっています。これはどうしてでしょう?

ここで改めて世界の待ち合わせの場所の観光写真やGoogle Streat Viewで現地をじっくり検証すると、渋谷ハチ公以外の待ち合わせになる場所において以下の4要素のいずれかがあることが分かりました。

  1. ランドマークや分かりやすい場所(銅像、時計台、改札等)
  2. 心地よく過ごせる、休める場所(ベンチ、木陰、水や自然がある、壁面等)
  3. 動くものがある(時計、公共の乗り物、サイネージなど)
  4. 他人がいる(1人ではない)

さて、これらの4要素から待ち合わせ場所の体験の価値を抽出してみます。

体験価値から見る待ち合わせ場所の要因

1.ランドマークがある
待ち合わせするときに大切なのは、待ち合わせする人たち全員がその場所を分かること、これが当然ながら重要になります。たとえ知らない場所であっても、行きやすい場所、わかりやすい場所、見つけやすい場所であることが重要です。昨今、GPS付きのスマホを持ち歩いていますが、室内だと精度はかなり落ちます。また異国の地においては、その名称をいえばタクシーや周囲の人が教えてくれるようなロケーション名のほうが都合良いはずです。中央改札出て左側、時計台の前、ビルエントランスホールなどがこれにあたります。
つまりここでの体験価値としては、「わかりやすい」「覚えやすい」「伝えやすい」ことになります。

2.心地よく過ごせる、休める場所
できれば心地よい空間で気分よく待っていたいですよね。都市部の待ち合わせ場所においても、噴水や緑のある自然の多めが選ばれているのはそういう体験価値を求めているかもしれません。

またベンチや椅子、芝生など気軽に座って待てる場所も選ばれています。店舗に流れるBGMや内装や家具などが自分にとって居心地がよいカフェを愛用している人は、そういうお店で待ち合わせするのではないでしょうか。ここでの体験価値は「居心地がよい」「休める」です。

3.動くものがある
昨今はスマートフォンでSNSチェックや動画をみたりと暇つぶしはいくらでもできます。しかしながら、スマートフォンがない時代には、ぼーっと景色をみたり本を読んだりして待ち合わせの時間を潰したものでした。その名残りなのか、なにか動きがあるものが目に入る場所が好まれるようです。水が流れていたり、時計があって音楽が流れていたり、大きなサイネージディスプレイに広告や映像がながれていたり。また、電車や飛行機などの往来やヒューマンウォッチングをして時間を潰すこともあるようです。ここでの体験価値は「飽きない」です。

4.他人がいる
たった1人でぽつんと待ち合わせすることを想像してください。なんだか寂しいし不安になりませんか? ここで待ち合わせ場所は合っているのだろうか、初めての場所でなにかあったとき大丈夫かな……。渋谷ハチ公前広場には交番がありました。ビルなどでは警備員がいたり監視カメラがあったりと見守られてる感があります。店舗内での待ち合わせなどにおいても、スタッフなどがいる安心感があります。ここでの体験価値は「安心できる」です。

以上の分析から待ち合わせ場所の体験価値を5つに分類して整理しました。(下記図参照)

「わかりやすい・覚えやすい・伝えやすい」「居心地がよい」「休める」「飽きない」「安心できる」これらの5つの体験価値のすべてがなくても待ち合わせ場所として成立はします。どの体験価値が重要かで待ち合わせ場所が選ばれているはずです。たとえば、仕事での待ち合わせにおいては、間違えずに全員が揃う「わかりやすい・覚えやすい・伝えやすい」場所が好まれるはずです。

待つ時間や季節などでも変わってくるでしょう。どちらにしても、これらの体験価値を多く満たす場所が、どうやら世界的にも有名な待ち合わせ場所になっている、そんな気がしています。

銀座の「ハナドケイ」は待ち合わせのためにデザインされた

銀座マロニエゲート2のハナドケイ

今回の待ち合わせ場所に関する考察は、かつて私が手がけた銀座マロニエゲート2のハナドケイと空間体験デザインをしたときに行ったものです。銀座マロニエゲート2のリニューアルの際に、この空間を「銀座の待ち合わせ場所にする」というミッションを掲げました。当時は銀座、有楽町において待ち合わせ場所になっていなかったマロニエゲート(旧プランタン銀座)を待ち合わせ場所にしたかった理由は、商業施設として「人を集める」ことは当然ですが、自然と「人が集まる」要素も大事だと考えたからです。そこで自然と人が集まる場所をリサーチしたところ「待ち合わせスポット(場所)」がそのひとつだったことを突き止めました。

買い物や観光の起点、それが待ち合わせスポットです。誰もが記憶してくれている場所にする、それが体験デザインとしての狙いでした。その狙いは的中し、メディアではこのハナドケイから買い物をしていくレポートをして下さり、実際にハナドケイ前で待ち合わせしてくださる人もいました。

そばに案内所もあるので「安心」体験もしっかり提供しました。なお、このハナドケイには、円形のベンチも設置予定でしたが、諸般の事情で実現されませんでしたが、それがいまでも悔やまれます。「休める」価値提供をいれたかったのです。

まとめ

なんとなく分かりやすいからと決めている「待ち合わせ場所」について、(空間)体験価値デザイン視点で分析してみました。ぜひ次の待ち合わせ場所決めでは、5つの体験価値のどれを重視したいかという点から場所を決めてみてはいかがでしょうか。

また「なぜここが指定されたのだろう」という理由を実際に分析しながら待ち合わせの時間潰しをしてみてください。そして、私のあげたこの5つ以外の体験価値を見つけたらぜひお知らせください。

Written By

河野 道成

BXUXディレクター&デザイナー。ソニーで22年間、PS3, PS4等のグローバル向けプロダクトのUIUXデザインに携わる。独立後は次世代UIUXのコンサルをしつつ、フィットネスクラブ・テーマパークアトラクションの企画やディレクションなど、基本的に何でも屋。好きな体験はダンスミュージカル出演と4輪レース参戦と犬の散歩。

Partners

Thanks for supporting Spectrum Tokyo ❤️

fest partner GMO fest partner note,inc.
fest partner DMM.com LLC fest partner Gaudiy, Inc.
fest partner Cybozu fest partner Bitkey
partners LegalOn Technologies fest partner SmartHR
fest partner Morisawa partners Design Matters

Spectrum Tokyoとの協業、協賛などはお問い合わせまで