ゲームはデザインのヒントに溢れてる
Tech & Experience Design / テクノロジーと体験デザイン
私はかねてから「UIデザインやUXデザイン、 インタラクションデザイン(IxD)を学びたいならゲームをプレイ(体験)しなさい」と話しています。ここでいうゲームは、PlayStation、Nintendo Switch、パソコン、 スマートフォンなどのプラットフォームで動くビデオゲームと呼ばれるものを指します。
ゲームで遊んでいる暇があるなら、UIやUXデザインの名著のひとつでも読んだり、ネットの学習コンテンツをみたりして勉強する人もいるでしょう。もちろんそれも良いアプローチです。しかし、UIにしろUXにしろ、ゲーム以外のエンターテイメント、ビジネス、教育など現代のデジタルデバイスでの体験にはゲームを進化させてきたさまざまな技術やデザインが想像以上に応用されています。また、ゲームは世界中に子供から大人までプレイヤーがいて、時にはハードな環境下でのプレイが求められます。それに対応するために、物理的にもシステム的にも直感的でタフな優れたデザインが必要とされています。
そういった理由から、ゲームで遊ぶだけで優れたUI、UXデザインや最新技術を体験できたり、その落とし穴や成功事例をいち早く学ぶことができるのです。今回はゲームから得られるUI、UXデザインの4つの要素を詳しく解説します。
- UI, IxDはゲームの要
- インタラクションに対するシビアな要求
- 次世代テクノロジーとゲームの組み合わせの相性の良さ
- ネット時代のコミュニケーションプラットフォームへの先駆者
UI、IxDはゲームの要
コントローラー、ゲームパッド、キーボードやマウスなど、ゲームのハードウェアのインターフェースは非常に過酷な状況で使用されています。これらはテレビのリモコンや家電のボタンなどに比べると遙かに操作される頻度が高く、かつ、乱暴に扱われることも多いインターフェースです。かつてゲームは、ジョイスティック(または十字キー)と2つのボタンだけで操作するというシンプルな構成でした。いまやゲームのコントローラーには、アナログジョイスティックが追加され、コントローラーの上部にはL1/L2/R1/R2トリガーボタン、タッチパッド、さらにコントローラー自体がモーションセンサーになっていて両手の指を駆使して遊ぶスタイルになっています。
同様にゲームでは、一般的なアプリやSNSなどに比べるとUI画面が複雑で、さらにさまざまな操作を要求されます。また、同じ操作を何度も繰り返すような長時間のプレイになることも多いです。そのため、長時間プレイしても疲れない、わかりやすく使いやすい、本来やるべき動作を邪魔しないなどあらゆる厳しい条件が求められます。
どんなにストーリーが練られていて、面白いゲームシステムと世界観であっても、UIが良くないと「つまらないゲーム」というレッテルが貼られてしまうほど、UIはゲームにとって重要なのです。他の商品やサービスのUIと比べてもゲームのUIデザインは考慮すべき要素が多く難易度が高いので、ゲームのUIを知っておくのはどんなデジタルUIデザイナーにとっても良い糧になります。私がソニー及びSIE(旧SCE)勤務のころの知見ですが、日本人はゲームやシステムのUIに非常に繊細で評価が厳しい印象があります。そういったユーザーの厳しいクライテリアをくぐり抜けたゲームのUIを見たり体験したりして、参考にしてみてはいかがでしょうか。
インタラクションに対するシビアな要求
ゲームは1秒未満で勝負が決まる非常にシビアな世界です。キャラ同士が銃や魔法で戦うFPS(ファーストパーソンシューティング)、 TPS(サードパーソンシューティング)ゲームやカプコンのストリートファイターシリーズ、ナムコの鉄拳シリーズなどの格闘型対戦ゲームなどでは、数フレームでの判断と行動が求められます。セガのバーチャファイターの大会で上位入賞常連の有名なプレイヤーは1フレーム、つまり 16.6msec (60fpsの場合)の時間を認知できていたそうです。それぐらいシビアな世界なのです。なので、技術開発側は遅延など極力排除しなければなりません。
昨今のテレビに備わっているゲームモードは、ゲームに最適な画質にするのが主目的ではなく、画像を低遅延で出力するのが本来の目的で、ゲーム機器から出力された画像の処理を極力省いて低遅延で画面に表示しているのです。もちろんコントローラーの感度と伝送速度もゲーム性に左右します。一瞬のシステムの処理遅れが勝負を決めてしまうのですから、ゲーマーにとっては1msecでも速く正確に認識しアクションできることが求められています。よってFPSや格闘ゲームでは、無線ではなく有線LANと有線のコントローラーが利用されるのです。
このようにゲームのインタラクションにおいては、ビジュアル(映像)・サウンド(音声)・ハプティックス(触感)などさまざまな入力と出力を低遅延で、かつ、正確に何度も激しく行われる、という厳しい条件下で設計がされています。
次世代テクノロジーとの組み合わせの相性の良さ
ゲームと進化するUI
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)これらを総称して最近は、XR(クロスリアリティ)とも言われています。メタ社の Meta Quest シリーズ、PlayStation VRなどのVR用ヘッドマウントディスプレイや2023年に米国で発売された Apple Vision Pro のようなビデオシースルー型のディスプレイなど、XR業界のハードウェアは非常に注目されています。このハードウェアで動くソフトとして真っ先に対応されるのがゲームです。映画鑑賞やネットサーフィンもできますが、XRらしさ、仮想空間の特徴を活かしたゲームも日々開発されています。
また、Natural UI (NUI)もゲームにマッチしたUIです。SF映画などで声、手のジェスチャーや視線などで機器を操作するシーンをみたことがあるでしょうか。これらはNatural UI と言われ、コンテキストにあった自然で直感的な人間の動作がそのままUIとして成立する次世代のUIと呼ばれています。NUIで有名になったのが、Microsoft XBOXの付属品にもなっていたKinectを使った手や腕のジェスチャーで操作するゲームUIです。
PlayStation®4以降、音声で操作するVoice UI (VUI)に対応したシステムやゲームも増えてきました。Nintendo Switchのコントローラーは、テニスのラケットを振る、ボーリングのボールを投げる、バレーボールのトスをあげる、といった動作をコントローラー所持状態で行うと、ゲーム内のキャラクタがその通りの動作をするので、ボタンばかりのコントローラー慣れしていない人でもすぐにゲームに慣れて遊ぶことができます。レースゲームのハンドルコントローラーは、路面の凹凸やスリップした感覚などタイヤから伝わる状態を本物のように伝えるフォースフィードバック機能が当たり前になっています。これはハプティックス(触覚)技術の応用例のひとつです。
ゲームで活用されるAI
生成AI (Generative AI) もゲーム業界では注目されています。近年、ゲームではオープンワールド型のゲームがトレンドです。オープンワールドとは、プレイヤーが自由に行動できる広大な仮想空間が用意され、自由に探索し目的を達成していくよう設計された世界です。かつてのゲームは行動範囲が制限されクリアするとそのエリアは用無しになるなどが当たり前でしたが、いまはリアルの世界のように自由に動けるのです。とはいっても、そこに存在するNPC(ノンプレイヤーキャラクター)はあらかじめシナリオやプログラミングされた通りのアクションをします。当然ながらオープンワールドになるとNPCの数は膨大になり、セリフやアクションなどの設定設計する時間も天井無しになります。そこで期待されているのが生成AIです。
Ubisoft 社はGDC2024にてゲーム内のNPCと自然な対話ができる技術NEO NPC を発表しました。同様な技術は NVIDIA社がCES2024にてデジタルアバター開発ツールセット NVIDIA ACE を発表しています。これらは対話の文面だけではなく表現なども含めたAI生成です。その他にもシナリオ、背景、属性などをプロンプト情報としていれておき、ChatGPT などの生成AIでセリフをその場で自動生成させるといった試みも2023年から始まっています。
このようにハードウェアであれソフトウエアであれ、新しい技術はゲームUIやエンジンとして真っ先に導入され、さまざまな業界に展開されることも多いのです。
コミュニケーションプラットフォームの先駆者
いまの時代、LINE、WhatsApp、Messenger などのメッセージアプリで家族や友人知人とやりとりしている人が多いのではないでしょうか。個人ではなくグループを組んで話をしたり、画像を送ったりもらったりと非常に便利でなくてはならないサービスになっています。このようなコミュニケーション機能は、大規模多人数オンラインロールプレイングゲーム、通称MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game) では 2000年前後、いまから20年以上前に実装されていました。
ゲーム内で仲よくなった人をフレンドリストに登録して直接メッセージを送ったり、アイテムをプレゼントしたり、チームや同盟グループでチャットをしたりと、いまのメッセージアプリとほぼ同等なことができていたのです。ただ当時はスタンプ機能がなかったので、アルファベットなどで顔文字をつくって感情を表していました。笑顔表現を :−) や ^_^ なんて表現していたのです。
メッセージのやり取りだけでなく、人を集めるための機能やサービスをゲームディベロッパーは考えていきますが、一方で人が集まることで起こる弊害についても考える必要がでてきました。いわゆる迷惑行為をする人への対処です。ブラックリストやブロック機能、GM(ゲームマスター)といわれる警察的な管理者がユーザを見張り、場合によってはアカウント休止などの処置を行う機能などがどんどん実装されていきます。
オンラインゲームを通じて他のプレイヤーと交友を深めゲーム内アイテムをオンラインで購入し誕生日プレゼントとして贈ったら、そのプレイヤーが喜んでる動画をSNS経由で見ることができた… スマホさえあれば世界のどこにいてもこんな体験ができる。ゲームプラットフォームでは数年前から当たり前のように実現されています。このようにオンライン上でのコミュニティやコミュニケーションの在り方とサービスについては、ゲームが何十年も前に実証してくれています。先駆者の知見を学ばないわけにはいかないでしょう。
まとめ
現状の Webを越えたメタバースやWeb4.0などは、仮想空間での人の交流(コミュニティ)、デジタルコンテンツの体験と売買、現実と仮想空間の融合などの新しい体験価値の場として期待されています。前述の通り、いまのゲームはXR領域と非常に親和性が高く、かつ、生成AIの導入も活発的です。そしてオンラインゲームにおいてはコミュニティやコミュニケーションといった人と人とのプラットフォームサービスについても20年以上前から日々進化しています。
ゲームはどうしてもラスボスを倒す、制覇するなど具体的なゴールが提示された世界です。しかしそのゲームもいまやオープンワールド化していき、その仮想世界でいかに楽しく長期にわたってプレイ(生活する)できるか、その体験価値提供がゲームの善し悪しを決めています。サービスやヒューマンマネージメントなどに活用されている「ゲーミフィケーション」ですが、これもゲームのサービスデザインやゲーム要素を応用した手法です。
UI、UXデザインに興味がある、携わっている方はぜひ今回の記事のような視点でプレイしてみてください。ゲームの進化にびっくりするでしょう。
では、私はエオルゼア※に戻りますね……。
(※エオルゼアは、スクウェアエニックスのMMORPG『FINAL FANTASY XIV』の中の仮想世界の名前です)