宇宙建築の第一人者であるSebastian Aristotelis氏が語る宇宙のためのデザイン

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Designing for Space – Interview with Lead Space Architect and co-founder Sebastian Aristotelis

火星の研究が始まって数十年。最新の調査結果や技術開発、そして食い止めることのできない気候変動によって、他の惑星に移り住むことは、もはや遠い未来の話ではなくなってきています。SAGA Space Architectsは、社会の維持と精神衛生をサポートする観点から、未来の宇宙旅行者のために宇宙を住みやすくするための居住をデザインしています。

SAGA Space Architectsは将来的に宇宙に住む人のための家を作る、近未来のデザインの担い手です。SAGAの目標のひとつは、宇宙で一緒に住むことができる居住区や住みやすい家を作るという考えに、人々が親しみを持てるようにすることです。私たちは地球で暮らしていることですでに「宇宙に住んでいる」ということを忘れがちです。つまり、他の惑星のためのデザインも地球のものと同様に作ることができるのです。SAGAはこれをすでに実践しています。

この試みと建築をデザインする新たな方法は、なぜデザイナーにとって宇宙のデザインが重要なのかという議論を呼んでいます。未来への新しいパラダイムとして、このテーマは私たちの全員の頭のなかを駆け巡っているトピックです。クリエイターやデザイナーは、宇宙で使用できるデザインの作成や構想を検討しはじめるべきでしょうか? 結局のところ、なぜ宇宙に行くかではなく、いつ、どのように行くかが重要なのです。

宇宙のためのデザインは多くの人が見落としています。SF映画やテレビ番組、書籍、そして宇宙に行くため作られた宇宙船に触れることでしか、私たちが宇宙について考える機会はありません。しかしそのような状況だからこそ、デザインによるさまざまな解決策を考えることができます。宇宙におけるインテリアもエクステリアも、宇宙で使うモノも、あらゆるものをデザインすることができます。宇宙には、無限の可能性があるのです。

北グリーンランドで撮影された日暮れ時のlunark pod

最近、SAGAの宇宙建築家とエンジニア、プログラマーが共同でLunarkというポッドを作り、月での生活をシミュレートするためにグリーンランド北部に設置しました。また、Mars LabとDandelionという火星向けの小さな住居をイスラエルのネゲブ砂漠に展開し、火星での生活をシミュレートしました。Dandelionは、火星の基本条件とよく似たイスラエルの砂漠の気候をもとに、設計の制約と解決策を考慮してデザインされました。この建物のバルブと外壁は火星の膨大な量の塵に作用し、静電気に変換することができるのです。

Dandelionのプロトタイプ
イスラエルのネゲブ砂漠のMars lab

DandelionとLunarkは、「パラメトリックデザイン」と呼ばれているものの別々の側面をそれぞれが表しています。デザイナーはコンピューターによって算出された、複雑で刺激的なビジュアル構造を作るためにソフトフェアを使います。このようなパラメトリックデザインとは、建造物でよく見られます。より効率的なデザインを作り出すために活用され、幅広いデザインを追求することができます。パラメトリックデザインはプロジェクトのキーとなるパラメーターを指定することで、相互的に数値が連動し動かしやすいのです。

パラメトリックデザインの見た目は、月のクレーターや岩層、タネや植物にある曲線やシワに似ています。テクノロジーを利用することで、デザイナーはある特定の環境の基本的な状況やデザインソリューションを取り入れた複雑なデザインを作り出すことができるのです。前述したように、私たちは地球に住んでいるという時点で「宇宙に住んで」います。機能性と形、造形美において、地球の環境で作り出した効果的なデザインは、宇宙でも応用できることを心にとどめておきましょう。

地球上でその惑星の生活をシミュレートするためには、多くのパラメーターを研究しなくてはいけません。SAGAがグリーンランド北部で行ったLunarkの実験では、月のパラメーターを反映した過酷な気候条件を考慮しなければなりませんでした。極めて短い日照時間と厳しい寒さ、完全な孤立、そして外部資源の不足。グリーンランド北部の猛烈な吹雪は、月にはない制約条件でした。

Sebastian Aristotelis氏は、SAGA Space ArchitectsのCEOであり、the Royal Danish Academy of Fine Artsの卒業生です。彼はDesign Matters 21で、宇宙に行くこととその重要性について講談してくれました。

Sebastian Aristotelis氏

私たちはSebastianにインタビューする機会を得て、彼の仕事や「宇宙デザイナー」たちが直面している課題、そして宇宙の環境をデザインに組み込む方法について詳しく聞きました。

── LUNARKのような宇宙に対応した住居を設計デザインし、試作する際に直面した課題はなんですか? 人に優しくはない環境下で狭く退屈な空間を生活できるようにする必要がありますよね。

まさにスペース、空間です! 住居を7.5倍に拡大したとしても、不自由なく暮らせる機能的な空間を確保するのは非常に困難です。また、耐久性と耐火性があって手入れがしやすい上に、快適で手触りのいい素材を見つけなくてはいけないことも課題です。

設置されたLunarkとSebastian、Karl
7.5倍に容積を拡大した場合のイラスト

── あなたの3DCP(建築向け3Dプリンティング)の見通しと、今後10年間の宇宙におけるコミュニティのデザインアイデアについて聞かせてください。気候変動は私たちの地球の未来に、どのような影響を与えるのでしょうか?

気候変動は建築家が常に考えているパラメーターです。私たちが地球のためにできる最善のことは、これ以上新しいものを作らないことです。しかし、人類がますます多くの住宅を必要としているいま、それは解決策ではありません。そこで私たちは宇宙での生活について学んだことを使って、地球にとって最適な空間を持つ家を作ろうと試行錯誤しているのです。

Lunarkを組み立てる前のSebastianとKarl
Lunark設置開始の様子
Lunark設置工程の終盤

── デザインプロセスについて話すとき、あなたはTabula Rasaの話をされましたね? ゼロから何かを生み出すときに、モチベーションや刺激となっているものはなにですか? 

自然と進化です。私たちは、進化と自然から可能な限り多くの解決策を盗もうとしています。どこを見るべきかを知っていれば、そこにはよくできた構造が数多くあるのです。

── デザインを試すために、宇宙や他の惑星の環境と類似した環境を再現するにはどうしていますか? 北グリーンランドのように人間にとって過酷な場所はありますが、重力の違いなどはどうするのでしょうか。Parmitano飛行士の事故のことも考えると、液体の動きは設計をテストをする上で無視できない要素のはずです。

端的に答えると、重力の欠如は建築のレベルでは再現できません。生理的なスケールではベッドレスト研究、植物のスケールでは回転ジャイロの中に入れてもらうことで低重力研究を行うことが可能です。しかし私たちは、宇宙飛行士たちが宇宙で経験した骨と筋肉の衰退の原因が、スペースがなかったことよる運動不足だということを突き止めました。重力の減少は、人間が宇宙空間で経験するストレスのひとつでしかありません。そして隔離状況や孤独、刺激不足などといったその他のほとんどのストレス要因は、地球上でも簡単に再現できるものなのです。

実験中に時間潰しをする KarlとSebastian

── 非常に狭い空間を2人で共有する設計となっていますが、呼吸可能な空気を保つためにポッドはどのようにデザインされているのでしょうか?

ありがたいことに、私たちはNASAやESAなどの宇宙関係の組織を頼ることができたので、すべてをゼロからデザインする必要はありませんでした。私たちは実際にあるECLSS(環境制御および生命維持装置)に合わせて住居を作っており、ECLSS自体を新しく作ることは考えていません。しかし室温は乗組員の健康や活動に甚大な影響を与えるので、建物内部の環境の制御を個々で可能にするなどの微調整は試みています。

── あなたが講演で窓についてお話ししたとき、私はすぐに映画「Aniara」のことを思い出しました。この映画では、人々は何年にも渡って宇宙を旅しており、宇宙船の窓は地球の自然と夕日の映像を映し出しています。もちろん映画は現実ではありません。しかしひょっとするとこれは、宇宙旅行者のメンタルヘルスのために宇宙建築と光のデザインをどう利用するかという、未来の議論のきっかけになるかもしれません。この観点についてどうお考えでしょうか。あなた自身は、光の届かない空間と孤独を経験したことがありますか?

私たちは映画から多くのインスピレーションを得ることができます。うまく行くことと行かないことについて多くのことを学べるのです。私は「Aniara」を観たことがないので、今度観てみますね。

宇宙における明かりという要素を取り扱った作品は多くあります。おそらく、映画は各コマが写真で描かれていて、文字通り光によって作られているからでしょう。一方で宇宙のほとんどの場所には光がありません。建築家として、「建築物において光とは、小さな改善で大きな変化を利用者に与えると期待できる要素のひとつだ」と考えています。光は日常生活で非常に重要な役割を果たしており、どんな空間であってもその雰囲気をがらっと変えることができます。宇宙空間にとって光は異質です。どこに行ったとしても地球にあるような光を見つけることは難しい。だからこそ、私たち建築家が光を灯さなくてはならないのです。

KarlとLunark内のサーカディアンパネルの明かり

── いつの日か、宇宙旅行や火星などの他の惑星への移住はきっと現実となり、訓練を受けた宇宙飛行士ではない「ふつうの人々」にとっても宇宙旅行は身近なものとなるでしょう。SAGAは、デザインやソリューションを通して、そういった「ふつうの人々」にどのようなメリットを提供するのでしょうか?

人々が身体的にも精神的にも健康を損なうことなく、長期間宇宙空間で生活できるようにします。逆に考えればわかりやすいです。つまり、苦しみながらなんとか生き残っている状態では、宇宙空間で安定した生活を送ることは難しいのです。

── あなたが考える宇宙の住居の多くは、タネや植物からインスピレーションを得ていますね。自然から学べる根本的な知恵はどんなものでしょうか。また住みやすい宇宙の家にするには、どのように応用できるでしょうか。

私たちは自然から形や形態について、多くのことを学べます。生物にとってエネルギーと資源を蓄えるのは割にあわないことですが、植物は進化によって効率良く強力な形でエネルギーを内部に蓄える術を得ました。これがまさに私たちが注目している点です。またより心理的な観点から見ると、私たちの生活様式と、建築家としてその家に住む住民のためにどんな形にするべきかを学ぶことができるのです。

Dandelionのプロトタイプに関する情報
Lunarkの1第層、メインルーム
第2層の睡眠用スペースのSebastian
Lunark内のサーカディアンパネル
Lunark pod

Written by Adrienne Hayden(Design Matters
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

Written By

Design Matters Tokyo

Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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