極端なシナリオから創造が生まれる、インクルーシブなデザイン

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。

元記事はこちら:Designing for the Outliers Means Designing for All

Opennは、メキシコ初のインクルーシブデザイン会社です。すべての人が利用しやすいことを重視した空間やプロダクト、サービスのデザインに注力しています。

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メキシコシティに拠点をおくRegina氏とAlejandra氏は、姉妹であり、親友であり、メキシコ初のインクルーシブデザイン会社「Openn」のパートナーでもあります。彼女たちの背景がインクルーシブデザインに取り組む原動力のとなっています。

Opennは包括的な視点をもち、人間中心のデザイン手法をもちいるインクルーシブデザインのコンサルティング会社です。すべての人(例外はありません)のためのデザインプロダクトやサービス、インタラクション、戦略を生み出しています。

Reginaは教育デザインを専門としている教育学者で、長年にわたり学習体験をつくることに情熱を注いできました。人によって学習方法がいかに異なるのか、また、同じようなバックグラウンドをもち、同じようなことに興味をもっていたとしても、それぞれの子どもたちがどのように独自の方法で情報に接するかについて常に向き合ってきました。

Opennの研究セッションのひとつ

Alejandraは人間中心のストラテジックデザイナーであり、彼女は人々の生活をより易しく、より快適なものにするインタラクションをつくることを目指しています。UXデザインに関して、彼女はさまざまな可能性やシナリオを探求することに興味をもっています。そしてデザインプロセスを進めるにつれて、以前は考慮していなかったシナリオが次々と浮かび上がってくることに気がつきました。彼女のキャリアを通じて、すべての人が異なり、それぞれの異なった状況でプロダクトを使用していることを実感してきたのです。

ReginaとAlejandraの学習に関連するデザインへの取り組み

Regina現在の教育システムは堅苦しく、規則や評価の方法、レベル、平均的な生徒の成績に基づいた過度な期待をもっています。生徒はこれらの厳格な評価基準に基づいて評価されるため、多くの学生がシステムに要求されているものに適合しようと苦労しているのです。

教育の分野はデザイナーにとって、とても大きな可能性があると考えています。なぜなら、すべての人に適合し、一人ひとりが自分の才能や学習スタイル、スキルを認識し、重要で役立つ知識を習得できるような新しい学びの体験をデザインする機会があるからです。実際、「違い」は学習者にとって本当は利益のあるものなのです。インクルーシブデザインをとおして、デザイナーはすべての人が楽しめる学習体験を創り出す機会をもっています。

Alejandra:UXデザインにおける一般的な障壁は、多くのプロダクトが「硬い」ということだと気がつきました。プロダクトがユーザーに適応しているのではなく、ユーザーが商品に適応することを常に強いられているのです。インクルーシブデザインは私に、最高のデザインは柔軟性をもっており、個人のニーズや能力にあわせて適応するものだと気づかせてくれました。個々の特性に配慮して、ユーザーが自由にプロダクトをつかうことができるようになるのです。これは大きな挑戦ですが、真に改革的で、すばらしい結果をもたらすのは間違いありません!

極端なケースを想定してデザインする

写真提供:Reddit

Regina&Alejandra:Opennでは、「極端なケース」に焦点を当ててデザインに取り組んでいます。どういう意味だと疑問に思うかもしれません。これは、プロジェクトに取り組んでいるときに、特定の状況でデザインがどのように機能するのかを最悪のシナリオで予測することです。最悪のシナリオを常に考え、「起きうる最悪の事態はなにか?」と自分自身に問いかけることは賢明なことです。プロジェクトが最悪のシナリオに対策できていれば、うまくいかない可能性にはすべて備えることができ、その結果、成功に近づくでしょう。

インクルーシブデザインも同様に機能しますが、ユーザーが直面し得る極端な状況を利用することで、最悪のシナリオを乗り切るだけでなく、さらに優れたデザインにもなるのです。

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。私たちのデザインをつかいたいと思ってくれる人や使う可能性のあるあらゆる人々について考え、その多様な人々の中から、より特殊で困難なニーズをもつ人を特定します。

デザイナーとして、私たちは一般的なユーザーや平均的なユーザーのためにデザインすべきだとよく考えがちですが、これは誤った考え方です。このような考え方では、特定の個人がデザインの対象外にされ、時間の経過とともに彼らは考慮されなくなるだけでなく、デザインから追い出されることになってしまいます。

重要なのは、極端なケースやほとんどの人が考慮しづらい人のためにデザインすることです。彼らのために私たちがデザインし解決すれば、ユーザーの範囲がさらに広まり、よりよい体験を提供することができるはずです。私たちはこれを「カーブカット効果」と呼んでいます。カーブカットは本来、車椅子の利用者のために設置されました。しかし、ベビーカーやスケーター、お年寄り、小さい子ども、大きな荷物を持った人など、ほかの人々もその恩恵を受けることになったのです。

画像提供:sketchplanations.com

すべての人が楽しめる展示づくり

Regina&Alejandra:私たちが気に入ってるプロジェクトのひとつは、メキシコシティで行ったインクルーシブ博物館の展示会です。通常のアプローチでは、スロープやエレベーター、広い通路、高さ、点字、手話などのアクセシビリティへの基準を満たしているかを確認します。しかし建築家やエンジニアがこれらのガイドラインを考慮することは大切ですが、私たちはそれでは不十分だと思っています。

展示会での体験は、コンテンツの展示方法と、人々が展示室を移動し体験を楽しむためにつかうインタラクションによって定義されます。これらは空間デザイナーやインタラクションデザイナー、キュレーターなどの責任です。私たちは博物館が建築的な要件を満たすだけでなく、このような包括性について考えるべきだと思っています。

インクルーシブ展示プロジェクト:メキシコシティの自然史博物館でおこなったOpennのインクルーシブデザイン

私たちのアプローチは、博物館の体験を楽しみたいと思うさまざまな人たちを思い浮かべることでした。そしてその答えは「誰もが楽しめる」こと!

それから私たちは、博物館を利用する多様なグループを観察することで、展示を楽しむときに障壁となるケースを特定したのです。多くのグループがなんらかの障壁に直面しながらも、体験に参加できていることに気がつきました。たとえば車椅子利用者、杖をついている人、補聴器の利用者、知的障害者、移動障害のある人、お年寄り、読み書きできない人、スペイン語が話せない人たちです。

中でももっとも重大な障壁があったグループは、視覚障害をもつ人々でした。展示会のすべてが、みることによって楽しめるようにデザインされていたので、彼らにとって博物館を訪れる意味がありませんでした。

画像提供:Openn

そこで私たちは、さまざまな視覚障害をもつ人々(極端なケース)と協力することにしました。インクルーシブデザインの手法を適用し、現在の展示会を視覚ではなく、ほかの感覚に変える展示を一緒にデザインしました。つまり視覚障害者だけではなく、すべての来場者が楽しめる、新しいインタラクションを取りいれた展示会にリデザインしたのです。

新しい展示会を検証するにつれて、すべての来場者が私たちのプロトタイプのインタラクションを楽しんでいることに気がつきました。彼らは、展示をみるだけではなく、触ったり、聞いたり、匂いを嗅いだりすることで、より惹きつけられるのです。

私たちのデザインは、視覚障害者にとってだけではなくすべての来場者にとってよりよいものになりました。つまり、極端なケースを想定してデザインすることで、あらゆる人が体験できる多感覚ジオラマという、よりよい展示デザインを実現することができたのです

画像提供:Openn

終わりのない極端なケース

Regina&Alejandra:実際には、極端なケースはひとつではありません。多くの極端なケースが存在し、デザインプロセスの過程で新しい極端なケースがでてくることもあります。まるではてしない物語です。なぜならデザインとインクルージョン(包括性)は終わりのない挑戦なのですから! プロダクトやサービスは常に改善され、進化し続けるべきです。

包括性は完璧ではなく、たった一度の試みでできるものではありません。極端なケースを含めることには大きな効果があり、少なくとも新しい個人を体験に含めようと努力することで、デザインはどんどんよくなっていくのです。

私たちがプロトタイプを検証したとき、修正するべき点に気がつきました。展示の高さを調整できるようにすることです。子どもや車椅子利用者にぴったりの高さにあるボタンは、背の高い人にとっては屈まなくてはならず不便でした。また、博物館が混雑すると、展示を探すときに来場者がぶつかりあってしまうので、各区間に展示と触れ合うのに十分なスペースを確保して、一度にひとつの要素に触れることが来場者にとってより快適だということを発見しました。

最終的なデザインで、これらの問題にほとんど対処することができました。しかし私たちは、ほかの問題が発生するであろうこと、このデザインが完璧ではないこともわかっていました。時間が経つにつれて、新しいユースケースを特定し、新しいユーザーグループを含める必要があるでしょう。しかしそれでよいのです。大切なことは、理解し気づくことですから。デザインは進化し改善できなければ意味がありません

画像提供:Openn

サステナブルデザインは、適応可能なソリューションである

Regina&Alejandra:私たちはサステナビリティ(持続可能性)という課題に直面しています。たしかに私たちは持続可能な未来のためにデザインするべきですが、それは環境に限定されるものではありません。サステナブルデザインとは、私たち人間が直面している新たな課題に対応するためにも重要です。私たちは進化し、より長生きし、年を重ね、絶えず変化しています。

デザインは、適応性を核とした特徴を備えるべきです。柔軟性があり、カスタマイズ可能であり、私たちとともに変化し進化する能力をもつことが求められます。もし成功すれば、デザインは人間の多様性に適応し、よりインクルーシブなものになるでしょう。

極端なケースに対応するデザインは、追加の手順や投資、時間を必要としません。現実や多様な社会のためにデザインするという意識と、取り組みがいるだけです。それはとても興味深い挑戦であり、楽しいことです! 

私たちは、すべてのデザインがインクルーシブであるべきだと確信しています。そしてそれが改革の真の源なのです。みなさんの協力があれば、より柔軟で多感覚で、楽しむことのできる、インクルーシブなデザインを作る新しい方法をみつけることができるでしょう。だから、ぜひ私たちと一緒に挑戦しましょう!

Written by Alejandra & Regina Bortoni (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

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Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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