UXデザイナーが燃え尽き症候群を防ぐためにできること

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。

元記事はこちら:The Antidote To UX Burnout is Designing For Users Who Need it Most

仕事や活動に燃え尽きたような気分になるのは、どんな分野でも共通して見られる現象だと思います。この記事では、UXデザインの世界で、有意義なデザインを作ることで燃え尽きを防ぐというご紹介します。

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2022年においてもUXデザイナーは誰もが羨む、比較的満足度の高い仕事であり続けています。しかし、近年この分野における燃え尽き症候群やフラストレーションの顕著な傾向を目にするようになりました。私は長年この業界で働いていますが、初めての傾向です。

私たちの多くがUXの向上を志すのは、誰にとっても使いやすいツールやプロダクトを作りたいと望むからです。よくできたUXデザインはテクノロジーをより安全に、扱いやすく、アクセシブルなものにすることができます。UXがここまで成長したのには、その高い志と、UXに投資することで利益があがることを知った顧客企業が競争上の優位を保ちたいという思惑の2つの要因があります。

(出典:Unsplash)

しかしどうやら、UX自身がその成功によって被害者になり始めているようです。競争の激しい業界にいる企業は、UXデザイナーがユーザーのためになるだけではなく、企業の成長や収益増加という目標達成をより直接的に支援できることに気づきつつあります。業界によっては、ユーザーにとって良よいものではなく企業にとってよいものの方に重点が移ってしまったようなところもあります。

たとえば「エンゲージメント率」を考えてみましょう。多くの企業の利益は、ユーザーがそのWebサイトに滞在した時間の長さと密接に結びついていますから、それぞれのユーザーがWebサイトを訪れた本来の目的よりも、ユーザーを惹きつけてそこに滞在し続けてもらうことが企業の目的なのです。そしてデザイナーがこうしたプロジェクトへの参加を依頼されることはよくあります。

すこし前に私はあることに気づきました。LinkedInがメッセージの中身をみせずに、メッセージをみるためのページに移動するように求めるようになったことです(ちなみにこれは、LinkedInに限ったやり口ではありません)。

この変化はユーザーを自分たちのWebサイトに誘導するという「LinkedInの」目的達成には役立ちましたが、自分宛のメッセージを読むという「ユーザーの」目的にとってはむしろ逆効果です。

最近では、新しい職種の登場もみられるようになりました。「グロースデザイナー(Growth Designer)」です。グロースデザイナーの役割は、「プロダクトマネージャーやデザインチームが、本質的に採用と成長を促進するような製品を構築するのを支援すること 」です。

この変化は避けられないものであり、むしろUXの有効性を証明するものだという人もいるでしょう。『緩やかではあるが避けられないUXデザインの終焉』という記事の中で、Andy Budd氏は時間の経過に伴うUXに関する仕事の変化について説明しています。

「仕事の性質は変化した。初期の多くのプロジェクト、特に代理店が運営していたプロジェクトの多くは、0から1を生み出すような、何か新しいものを作り出すようなものだった。しかし、今では多くのデザイナーが既存のプロダクトをよりよいものにするような仕事に従事している。つまりは多くのデザイナーの着眼点が、システム全体を捉えることから、新たな機能を付け足したり、既にあるユーザーフローを発展させたりすることに移り変わっているのである。」

彼は、今日(こんにち)のデザインの状況を次のように説明しています。

「また、デザインの観点でいえば、デザインシステム、ユーザーリサーチ、競合製品といった十分な足場に囲まれているため、そもそもUXデザインがいかにして今の形になったかという経緯を細かく知る必要がなくなっているのである。」

足場のイメージ(出典:Pexels)

Mark Hurst氏は『私がUXを信用できなくなっている理由』という記事の中で、もっと皮肉なことをいっています。彼は、素晴らしい体験をもたらすどころか邪魔している、悪名高いAmazon Primeの難解な解約手続をとりあげて次のようにいっています。

「Amazonは新しい形のUXを編み出している。サブスクリプションを解約するというリンクだけの1ページであるべきところを、ユーザーをミスリードするための詐欺的なデザインの手口で埋め尽くされた6ページのプロセスにしているのだ

これはAmazonのミスではなく、ユーザーを欺き、搾取し、害を与えるために積極的に取り組んでいる、高度なトレーニングと高い賃金を受け取っているAmazonのUXチームの作品なのだ。今やUXは完全にその役割を変え、かつてはユーザーを助けるものであったのが、ユーザーの利益に反するものとして活発に機能しているのである。すべては利益を増やすために、UXはユーザーを搾取するものになったのだ。」

責任はあなたにある

(出典:Pexels)

UXに関わる燃え尽き症候群と、昨今の企業の成長に過度に力点を置いた風潮および「ユーザーの搾取」のトレンドには対処法があります。その対処法とは、株主や株価に配慮し過ぎないような企業と一緒に有意義な仕事をすることです。

世の中にはあなたのようなデザイナーを求めている、アクセシブルな、公平な世の中、サステナブルな世の中、もっとよい社会を作るために動いているたくさんの企業があります。このような企業との仕事を選ぶことで、その仕事自体のみならず、収入の不均衡や世の中の分断を加速させている企業に手を貸さないという意味でも新たな行動を起こすことができます。

デザイナーとしてあなたはすでに有用であることが証明された、世の中に求められている強力なスキルをもっているのです。すでに富のあるところでそれを更に増やすためにそのスキルを使うのではなく、もっともそれを必要としている人たちのために使うことを考えてください。見返りは小さくなるかもしれませんし、周りの人から見ても見劣りする仕事かもしれませんが、それでも、ずっと満足度が高いはずです。こうした組織の中にいる人たちの中には、あなたが知っているどんな仕事上の関係者よりもひた向きで、熱い情熱を持っている人がいます。

すぐにでも始められる簡単なことが2つあります。

  1. 雇い主のビジネスモデルを理解しましょう。それはビジネスとして正しいのでしょうか? サステナブルでしょうか? 責任あるビジネスでしょうか? その会社が成功した場合に利益を受けるのは誰で、失敗した場合に苦しむのは誰でしょうか?
  2. 自分のデザインやテクノロジーに関するスキルを無償で提供しましょう。たとえば、Design Gigs for Good、 OpenIDEO、 Open Source Design、 UX Rescueのようなところから始めることができます。また、選挙の泡沫候補なども常にボランティアを求めています。
UX Rescue Screengrab

私が先に紹介した『緩やかではあるが避けられないUXデザインの終焉』という記事では、ほとんどの作品がプロダクトやチームにユーザー体験というものを初めて導入するようなものだった時代、つまりUXの黎明期をAndyは「黄金期」と表現しています。このころの仕事はデザイナー個人の満足だけではなく、ユーザーにとっての明らかな進歩であるということで手応えを得やすかったのです。

Balsamiqでの仕事で、いま私が気に入っているのは、私たちのプロダクトを無償で提供しているNPOとのLive Wireframing Sessionsです。いままで気づかなかった人や動物、環境が持つニーズに目を向けさせてくれましたし、そのような相手を助けるために真剣に取り組んでいる名も無き人々と出会うことができました。また、そうした人々のプロジェクトに驚くほどUXのリソースが足りていないということにも気づくことができました。

最近では、The Key to Life Charitable Trustが彼らのWebサイトをリデザインするための1時間のセッションに参加しました。Webサイトを通じて、困窮した若者と無償のカウンセラーやセラピストをマッチングしようという試みです。非常に刺激的なプログラムであるとともに、体験のデザインが成功のカギを握る、驚くべきUXプロジェクトでもあります。このWebサイトを訪れるユーザーはストレスを抱えていることが多いので、デザインを簡潔にし、見やすく、安心させるようなものにすることが重要です。

(出典:Leon Barnard)

過去には、次のようなプログラムのためにデザインされたワイヤーフレームについて学びました。

10年ほど前に私は、誰もが知っているようなテック企業がデザインしたプロダクトと、後から考えられたデザインで作られたプロダクトの間にあるユーザー体験の差について書きました。そのような差が縮まった分野もありますが、テクノロジーの導入が進んだある種の分野ではそれは広がっています(たとえば、洗濯機や冷蔵庫のファームウェア更新のインターフェースなど)。

その記事で私は、「UXデザイナーとして1歩抜け出したいなら、UXが足りていないところに行けばよい」と書きましたが、これはいまでも同じだと思います。ですがいま付け足すとしたら、株主や出資者の影響を受けずに、世の中のためになることをしている人や組織を探すべきだということです。責任は私たち一人ひとりにあります。そして、自分の時間と選択によって、自分の仕事が必要とされている場所で仕事をすることが、変化を起こすことにつながるのです。

(カバー写真出典:Pexels)

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