インドのデジタル革命から学ぶインクルーシブなデザインの実現

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。

元記事はこちら:India’s Inclusive Digital Revolution

インドでは、この多文化的な国に住むすべての多様な人々が参加し、対等に扱われる社会を目指し、デジタル革命の可能性を最大限に引き出す挑戦が進んでいます。

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NikhitaとSwarはインドのサービスデザイン会社、Xeno Co-labの共同創設者であり、人間中心設計に深い知識をもっています。彼らはその知識をもちいて、企業がユーザー中心的な戦略を構築するためのサービスデザインとリサーチプロセスをリードしています。デザインのバックグラウンドをもつ2人はリサーチの専門知識を補い、さまざまな分野のグローバル企業において、ユーザーのインサイトを具体的なビジネス成果に結びつけるサポートをしています。

彼らはインドをはじめに、国内外の新興市場での豊富な経験からデジタルデザインやインクルーシブをテーマに、世界的なカンファレンスで講演をしたり、ワークショップを開催したりしています。彼らの目標は、デザインコミュニティ内でそれぞれの学びを共有することで、すべての人々が参加し対等に扱われる社会について視野を広げ、ポジティブな影響を与えるデザインを構築することを願っています。下記はそんな彼らから寄稿された記事になります。

デジタル革命の現実

北インドの山岳地帯にある小さな村、カンダ村に住む82歳のShriamが、孫とビデオ通話ができるようになったことについて語っているこの動画¹をみると、たった一世代でインドがどれほど大きな変化を遂げたのかを実感できます。

¹参考:Digital India: How India’s digital revolution is connecting millions

以前は手紙のやりとりのために5キロ歩いていました。いまではどんなときもインターネットがつながっています。これは次の世代ではほとんどの人が体験していないほどの大きな変化です。

この変化やエンパワーメント、独立、平等の物語こそが、インドで起きたデジタル革命について語るときに統計を生きたものにします。InstagramやWhatsappを通じて、自宅で商品を販売し、ビジネスを成功させた主婦のストーリーは、民主化されたデジタルサービスが経済的な独立とエンパワーメントを生み出す一例です。すべての路上販売者がUPI決済用のQRコードを表示しているのをみると、UPIはデジタル改革の大きな成功例であり、ほかのグローバル市場に素晴らしいアイデアとして影響を与えていることは明らかです。

このような例は、インドが世界で2番目に大きなスマートフォン市場であり、7億5000人いるユーザーが2026年には10億人に達し、デジタルサービスの導入が進んでいることの影響を示しています。これは、2015年にはじまったデジタル改革の結果として、インドが明確に改革し、キーグローバル市場として台頭していることの証拠です。

インドの小さな食料品店の路上販売者が、複数のQRコードをつかってUPI経由で客からお金を受けとっている
写真提供:Xeno Co-lab

デジタル革命は、インド政府が主導するDigital India2.0による貢献が大きいとされています。戦略的パートナーシップや、データを手頃な価格にし入手しやすくしたReliance Jio、インドのデジタルインフラを構築するために投資したGoogleなど、民間企業が果たした役割を認めることが重要です。これらの取り組みにより、インドのデジタル市場は1兆ドルのチャンスがあると推定されており、いま最大手のグローバルテクノロジー会社が最強の新興市場としてインドに注目しています

インドはチャンスの地である一方で、消費者の行動を読み解こうとしたときに独特の複雑さがあるということに、企業は即座に気がつきました。その多様性の層とニュアンスは、それだけユニークです。そのために、ほかの市場では成功しているであろう製品も、その国独特のニュアンスを十分に理解せずにデザインした場合、失敗するかもしれません

インドにとって多様性がなにを意味するかを理解するためには、その歴史、文化、社会経済的なダイナミクスを深く理解する必要があります。我々は多くの企業が、表面的には類似してみえる問題を解決しようとして、異なる市場からプロダクトをコピー&ペーストするのをみてきました。

たとえば、Uberはインドでサービスを開始したあと、女性向けの安全機能、支払い方法、デジタルアプリに完全に依存することの制限など多くのことを学びました。さらに、当時のインドはインターネット普及率が低かったため、それを理由にUberのサービスの利用は阻害されていたことにも気づきました。

一方で競合であるインドのライドシェアサービスOlaは、すでにそのような特殊な状況のニーズを拾いあげ、それにあわせてデザインをしていました。このコピーアンドペーストのようなUberのアプローチは、インドの消費者がプロダクトを受け入れ導入する適切な戦略とはいえませんでした。

インドに拠点をおくデザインとリサーチのコンサルタントの創設者として、私たちはここ5年間リージョナルパートナーとしてグローバルなテクノロジー企業と連携してきました。これらの企業との仕事をとおして、私たちは「次世代の10億人のユーザー」のデジタル上の行動や理解が、たとえ同じ都市や近隣の出身であっても、デジタルネイティブとは大きく異なる可能性があることを理解しました。

私たちはマイクロファイナンス企業と、金融サービスへのアクセスを広げるためのデジタルツールの開発を共同することで、教育水準や家族構成、性別、社会経済的セグメントが、遠隔地域においてデジタルサービスへのアクセスと理解へ、どのくらい影響を与えるのかを探ることができました。これらの細かいニュアンスを理解することが、デジタルソリューションのデザインにおいて大きな違いをもたらします。サービスを民主化しインクルーシブを促進させるか、インドにおいて存在する格差を拡大させるかどうかを分けるのです。

私たちはデザイナー兼リサーチャーとして、消費者の行動における微妙な違いの理解と共有をおこない、すべての人々を対象としたデザインを可能にするという、大きな力と責任があります。

では、どのように進めていけよいのでしょうか? 私たちの意図が行動と一致していることを確認するためにはどうすればいいのでしょう? インドの複雑さを理解し、デジタル改革の真っ只中で全ての人がつかえるインクルーシブなデジタルサービスをデザインするにはどうすればよいのでしょうか?

多様性の定義と再定義

まず、ダイバーシティに取り組むことが最終目標ではなく、インクルージョンが最終目標であることを認識することが重要です。企業やデザイン・リサーチチームがこの観点から多様性の価値を検討し始めれば、ダイバーシティがインクルージョンの達成にどのように役立つかをすぐに理解するでしょう。ただ単に多様性求めるだけでは意味はなく、それがチーム内や調査対象の人数、ユーザーセグメントのなかであろうと、全員が参加できる環境につながらなければ価値は生まれません。

多様性は年齢や性別、カースト、階級、人種や民族などさまざまな違いを意味し、それぞれがデジタルシティズンシップや体験に対して多大な影響を与えます。「多様性」がインドにとってなにを意味するのか、より具体的には私たちの仕事の文脈でなにを意味するのかを定義することで、その影響や必要性を理解し、デザインを通じてそれらを対応するための具体的な行動指針をたてるのに役立ちます。これにより、プロダクトやサービスを本当に全員が利用できるものにすることができます。

インドでは、ユーザーセグメントをかなり正確に定義する必要があります。なぜなら、デジタル行動や利用状況は都市部から田舎、デジタル環境に遅れて馴染んだ世代からデジタルネイティブ、性別や年齢によって大きく変化するからです。それを超えてより重要になるのは、デザインプロセスを通じて、疎外されたり発信の少ないコミュニティの声を増幅することです。研究を通じて彼らの声が表明され、確実にデザインに反映することが必要です。その声は偏見や思い込みに基づいたものではなく、社会文化の状況を理解に基づいたものであるべきです。

昨年私たちは、世界的なハイテク企業と仕事をしました。その企業は旅行プランという観点からインドの消費者を理解し、自社のグローバルデジタルプロダクトを、インドにとってより適切な方法で開発、構築したいと考えていました。彼らと仕事をするうちに、彼らの仮説とターゲットは年齢、宗教、カーストによって限定された多様性を反映していることに私たちは気がつきました。それは重要なことですが、それ以上に階級や社会経済的セグメント、教育、そしてデジタルサービスへのアクセスなどの多様性が、潜在的なユーザーのデジタル体験により大きな影響を与えています。私たちは、彼らにそれらの要因が重要なことであると理解させることが極めて重要であると気がついたのです。

このプロジェクトにおいて見習うべきもうひとつの点は、「ジェンダーの多様性」を単なるチェック項目として追加するのではなく、コンテキストを理解する必要があるということです。すべての人々が金融サービスにアクセスできる状態を目指してデザインされたデジタルプロダクトを扱う中で、リサーチフェーズでジェンダーバランスを等しくするだけでは、プロダクトは「全員が参加できる」ものにならないことに私たちは気づきました。

社会文化的要因がユーザー個人の習慣に影響し、その結果、私たちのリサーチとデザインアプローチにも影響を与えるのです。たとえば、デジタルデバイスの共有は、金融サービスに対する完全にプライベートな体験や意思決定に影響を及ぼします。これらの独特な事情を理解し、それに基づいてデザインをすることが重要です。これにより、プロダクトの導入、使いやすさ、関連性が確保され、結果として影響を生み出すことができます。

デジタルリテラシーの低いインドの女性が、娘の助けを借りてスマートフォンをつかうイラスト
画像提供:Xeno Co-lab

現地の協力者から学ぶ

企業やデザインエージェンシーのリージョナルパートナーとして、私たちは彼らに多くの文脈的な考察を提供し、最終的な成果物に付加価値を加え、すべてのプロセスを現地にあわせます。私たちは、企業がユーザーの言葉だけでなく、「なぜ」そういったのかを明らかにすることで、理解を深める手助けをしています。リージョナルパートナーはただの「翻訳者」ではなく、グローバルチームが消費者の行動の行間を読み解くことと、「なぜ」を理解することをサポートするのです

またデザインフェーズでは、インサイトを実行可能な機能や具体的なアドバイスに変換することを徹底しています。この国や私たちが働く地域でパートナーシップを築くだけでなく、プロセスや意思決定の所有権を共有する「共同パートナーシップ」を築くことが大切だと学びました。

いうことは簡単ですが、非常に価値のあることです。なぜなら、私たちがデザインしたプロダクトやサービスは、現地の状況と適応し、ユーザーはまるで「私のために作られた」と感じるからです。言語をヒンディー語や地域の言語に変えるだけでは、インドのユーザーはそう感じません。これは、異なる言語が実際どのようにつかわれているかを理解することを意味します。ただビジュアルを変えて「インドっぽく」みせるだけではなく、戦略を変えて、インド向けにデザインされているように感じさせることです。

これらは、リージョナルパートナーの知識なくして達成することはできません。前提や既存の考え方に疑問を投げかけるためには、パートナーシップを活用し、リージョナルパートナーと真に協力することが重要です。

インサイトの仮説フェーズで文化的なニュアンスを理解するために、インド現地のチームと連携して作業するグローバルチーム。
写真提供:Xeon Co-lab

私たちはインド全体でネットワークモデルを活用しています。このモデルでは、国内の各地域からコンサルタントが参加し、地域ごとのインサイトを共有します。これによって、私たちは理解の境界を押し広げ、これらのインサイトを考慮したプロダクトを開発することができます。

たとえば、私たちは南インドで包括的なプロダクトを立ち上げようと開発を進めている、あるマイクロファイナンス会社に協力をしました。そのときに南インドのチームと連携して、その地域の消費者に金融に関する話題をどのように提供するのが最適かを学びました。実際、個人的なお金の話をすることに対する感覚は、インド内でも文化的に異なるところがあります。

インクルーシブを組織の目標として設定する

全ての人が参加できる環境を構築することは、リサーチの目標ではなくプロジェクトや組織としての目標であり、チーム全体で共有されている必要があります。この包括性は、社会的に排除された多様なグループを取り込むという文脈で語られることが多く、リサーチフェーズでもっとも積極的におこなわれています。しかし、包括性はすべてのプロセスにおいて実用可能なアプローチである必要があります。排除されたコミュニティがプロダクトやサービスに関して発したニーズは、どのように扱われるでしょうか? 

これに応えるには、デザインチームと技術チームの協力が必要です。多様性とユニークなニーズを盛り込む責任は、リサーチャーだけに負わせるべきではありません。そのため、デザインプロセスが直線的なものではなく、より協力的なものになるようプロセスを変える必要があるのです。このようなプロセスですと情報の損失はありませんし、インサイトやニーズがデザインに反映され実装されます。これはインドにおいては多様性のために重要ですが、世界的にみても同じことです。

最近のあるプロジェクトで、リサーチチームはインドのさまざまな都市にすむ多様なユーザーセグメントのニーズを理解することを目標にして計画を立てました。そのプロジェクトでは、リサーチフェーズにエンジニアを含むクロスファンクショナルなチームも意図的に招待しました。このようなデジタル体験の多様性を自分の目で見ることは、彼らにとってとても意味のある体験となりました。

彼らはさまざまなニーズとインフラの制約を直接観察し、プロダクトがどのように失敗するのかを学ぶことができました。彼らはこの学びをアメリカのチームに持ち帰ってプロダクトをリデザインし、これらのインフラの制限とニーズに対応することでプロダクトをよりインクルーシブにすることができたのです。

インクルージョン革命

デジタル革命はインドで2015年にはじまりました。それ以来、政府の取り組みと民間のテック企業のイノベーションにより、国はその恩恵を受けるようになりました。いまではデジタルデザイナーやリサーチャーが最前線に立つ環境になっており、この改革が今後社会の動きにどのようなポジティブな影響を与えるかを定義しながら、改革の舵をとっています。

インドは、コンテキストの多様性を理解することの重要性を示しています。つまり、コンテキストの多様性を読み解くことは私たちのノーススターである、真のインクルーシブに到達する手段となるのです! インクルーシブな社会を築くために私たちデザイナーには、一歩ずつ前進し、働き方や、消費者や社会、そしてプロダクトイノベーションに対する考え方を変えていく責任があります。私たちは立ち止まって、私たちのプロダクトやサービスが社会を形成し、体系を変えていくうえで、どれほど大きな影響をもつのかを考え、その影響がポジティブで持続可能であるのかを立ち止まって確認するべきです。

情報源:

  1. Xeno Co-labのブログ『Maximized
  2. デジタルインドの取り組み(initiative of Digital India
  3. Reliance Jio
  4. Googleの投資(Google’s investment

Written by Swar Raisinghani & Nikhita Ghugari (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo

Written By

Design Matters Tokyo

Design Matters Tokyoは北欧と日本をつなぐグローバルデザインカンファレンスです。次回は2023年6月に開催予定。

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