期待と失敗と好奇心と。アジア系の家庭に生まれ、デザイナーになるまで
本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Learning from Failures and Growing Up in an Asian Household
Roy Husada氏は、エネルギッシュでありながら不思議なほど控えめであり、クリエイティブでありながら秩序を大切にしているデザイナーです。さらに彼はクリエイティブなブランドローカライゼーションの代理店であるRival Schoolsの創業者兼マネージングディレクターであり、社交の面では不器用な人物でもあります。
彼はこの会社を立ちあげることに人生のすべてを賭けました。クリエイティビティを通じて人々とアイデアを結びつけるために、決して屈しない情熱をもっています。クリエイティビティを持つことはすべての人に与えられた権利であり、実践に移すことはきっと楽しく開放的なものだと彼は信じています。
彼のキャリアは、ドットコム時代にはじまりました。あらゆるデジタルメディアとインタラクティブデザインが経験の核となっています。彼はデザイン思考を取り入れることが成功の鍵だと確信していました。そしてこの考えは、世界からみても素晴らしいブランドのクリエイティブアートディレクターとなった彼のキャリアに大きく役立ってきました。
Royは、2022年5月14日から15日に東京で開催されたデザインカンファレンス「Design Matters Tokyo 22」で講演をおこないました(こちらで視聴できます)。このカンファレンスは東京で2020年から開催されており、知識とデザインへの情熱やインスピレーションを提供し、世界中のデザイナーをつなげることを目的としています。Design Mattersの信念は、「文化をつなぎ、経験を共有することで優れたアイデアが生まれる可能性がある」というものです。そのためカンファレンスではデザイナーが自身のプロセスや課題、アイデア、さらには失敗談も率直に共有することがあります。
Design Matters Tokyo 22の講演で、Royは以下のようなトピックに触れました。
- 幼いころから自分の得意なことをみつける苦労があったこと
- 自分の情熱や興味のある分野がキャリアの可能性を秘めていることを理解してくれない、厳しい両親のもとで育ったこと
- アジアの家庭における規範や成績へのプレッシャーと、自分自身の願望との葛藤
- 学業の成功は、必ずしも経済的な成功を保証するわけではないこと
- 人生やキャリアを変えるのに遅すぎるということはないが、リスクを冒す必要があること
Royは「両親はほかのアジア系の親ほど厳しくはなかったが、私がやりたかったことを理解してくれなかった。いまでも、あまり理解していない」と、話しました。どこの子どもも『ダンジョンズ&ドラゴンズ』で遊ぶことがどれだけ好きかを伝えようとしたり、自分の仕事を説明しようとしたり、何度両親や祖父母を困惑させたことでしょうか。
多くの人々は、子どものころに「学校を卒業したらなにをするつもりなの?」と尋ねられたときに感じた、あの困惑や不安に共感することができるでしょう。そしていまでも、大人になったらどうなるのかわからないという10歳や15歳といった若い年齢の子どもたちがたくさんいます。
また、人生の中で失敗を繰り返しながら自分の道をみつけ、最後に成功する人もいます。Royのような話は、私たちがもっとよく知っておくべき例のひとつです。
── あなたの成功や失敗はどんなものでしたか?
Roy:この質問で難しいところは、成功とはなにかという共通認識が実際には存在しないということです。私たちは失敗とはなにかということを本当に理解できるのでしょうか? 人々は実際になにを達成しようとしているのかわからないまま、「失敗」という否定的な感情だけを感じ取っているような気がします。
アジア圏の成長過程にともなう、親子関係と期待について考えてみよう
Royの公演は、ピクサー映画の『私ときどきレッサーパンダ(原題:Turning Red)』を思い起こさせました。この映画は、西洋でのアジア人の成長について取りあげています。このアニメ映画は、13歳の中国系カナダ人の少女メイが主人公で、彼女は感情がたかぶったときにレッサーパンダになってしまう呪いにかかっています。メイはトロントで育ち、中国人の母親からの厳しく伝統的な期待に苦しんでいます。母親は学校でメイを監視し、成績は必ずA評価をとり、常に礼儀正しくあるように、などアジアの文化や期待に従わせようとしていました。
──『私ときどきレッサーパンダ』をみたことがありますか?
Roy:まだみたことがないですが、私の「みたい映画リスト」には入っています!
── このアニメ映画で、メイの母であるミンはSandra Oh氏が声優をしています。彼女は以前のインタビューで、「私はこの映画が、アジアのコミュニティで議論のきっかけとなることを願っています。もしあなたが若い子なら、きっと親を失望させるでしょう」と述べています。これはあなたが講演で発言していた内容と同じですね。しかし重要なことは、成長してアイデンティティをみつけることであり、家族と距離をおくことではありませんよね?
Roy:家族とのつながりを大切にしたいという側面はたしかにあります。私の家族もとても仲がいいです。私たちは確実に、お互い支えあっているのです。成長する過程で、両親と対立する瞬間は何度かありました。結局のところ両親は、自分たちが直面した困難を私が経験しないように成長して欲しかっただけでした。おそらく、これはアジア系の家族にとって普通のことなのでしょう。子どもを愛しているからこそ、厳しいのです。いまは私にも10代の子どもがいますが、どんな状況でも親であることは大変です!
── 個人的な経験とはなんですか?
Roy:私の両親はほかのアジアの親ほど厳しくはありませんでしたが、それでもある程度の厳しさはありました。しかし、アジア系の友人はたくさんいたので、さまざまなアジアの親の経験を直接目にすることがありました。私の親友の父親は、息子が一流大学で博士号を取ることを期待していました。もし彼が最低限それを達成できなければ、息子は無価値であると常に示していました。
学問的な成功は、必ずしも人生の成功とはならない
Royが講演で触れていたほか話題は、学業の成功が人生における経済的な成功と必ずしも一致しないこと、そして失敗が人生やキャリアを変化させるきっかけとなりうる、ということです。しかし、そのためにはリスクを冒す必要があります。
── これについてはどう考えていますか?
Roy:私と親しい友人の親はみんな、自分の子どもがトップの成績をおさめて最高の大学に入学したとき、自分の子どもを誇りに思っていました。しかし、博士号という称号はキャリアや人生の成功への絶対的な道ではないように思います。博士号がなくとも人生やキャリアを成功させる道をみつけること、つまり、博士号をもたずとも驚くべきことを成し遂げたり、成功したりすることがよりよい道だと思うのです。
Royの講演より:
「失敗の声に心を奪われて、人生のほかの全てを見失ってしまった」
「成功や失敗について考えることは、私たちに大きな重荷を与えることがあります。それが誤った決断を促し、人生の優先事項を忘れさせることもあります」
── 人生における優先順位はなんだと思いますか?
Roy:平凡で退屈ですが、本当の答えは「家族」です。もっと面白くて、より偽りのない答えは「自分の好奇心を満たすこと」です。なにもないところから信じられないような創造性と遊び心のある文化を育むクリエイティブな会社をつくることができるか、自分だけのユニークな石けんをつくれるのか、なにも知らない国に移り住んで自立できるか、というようなことが含まれています。
物事の大きな枠組みにおいて、失敗はきっとそれほど気にしなくてよい
起業家Jack Ma氏の人生は、失敗を通じた成功のもっとも素晴らしい例かもしれません。彼は小学校で2回、中学校で3回落第しました。そして大学受験にも3回失敗したのです。彼はKFCも不採用でした。ハーバード大学に10回願書を提出し、すべて不合格になりました。しかしいま、彼は世界有数の電子商取引会社のひとつであるアリババの創設者であり、世界でもっとも裕福な人間のひとりです。
これは極端な例かもしれませんが、私たちはときにはとても大きな失敗(または多くの失敗)が、人生を大きく変えることがあるということを自身の小さな経験から、理解しているでしょう。
「失敗を恐れても、楽しむ余裕があれば、たいした問題にはならない。楽しんでいるのならば、少なくとも人生に関心をもっていることなのだ」── Roy Husada
── ほかに伝えたいことはありますか?
Roy:プレゼンテーションでも伝えましたが、もしあなたが失敗して楽しめないのならそれこそ最も最悪の事態です。失敗するのであれば、その中でも楽しむことを忘れないでください。
── 楽しいことといえば、Rival Schoolでなにをしたのですか? いくつかプロジェクトをみせていただけますか?
Roy:残念ながら、最近の仕事のほとんどは秘義務契約の下にありますが、個人的なプロジェクトなら、喜んでおみせしましょう。
2020年サバイバルキット
Roy:これは、クラフトビールやインスタントラーメン、手指用の消毒液をセットにした小さな事業です。パンデミック(世界的大流行)の際に、私たちが心配していることを伝えたくて友人やパートナーに贈りました。商品はすべて国内で調達し、ラベルのデザインを考えるのはとても楽しかったです。優秀なデザイナーと一緒にこれをつくりました。
チームのプロフィールイラスト
Roy:パンデミックの間、私たちは会えませんでしたが、感謝の気持ちを伝えたくて知人の似顔絵を誕生日に描きました。実際は、いろんなスタイルで絵を描いてみる口実が欲しかっただけなんですけどね!
『Bramble berry Tales』
Roy:講演でもこのプロジェクトについて触れましたが、これは結局うまくいかなかった子ども向けの絵本アプリです。しかし、私はこのアプリを誇りに思っています。このプロジェクトは、私がまだカナダに住んでいた頃につくりはじめ、完成まで数年かかりました。ストーリーはブリティッシュコロンビア州の先住民に由来しています。
RoyとRival Schoolについてもっと興味があれば、彼のBehance、Instagram、Twitterをフォローするか、Rival Schoolの公式サイトか、彼の個人Webサイトをみてみてください。
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Design Matters+ではRoyの講演や、これまでのDesign Mattersでおこなわれた200以上の講演をみることができます。Design Mattersのイベントやコミュニティから最高のコンテンツにいちはやくアクセスでき、今後のカンファレンスの割引も受けることができます。
Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo