なぜデザインを脱植民地化しなければならないのか
本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Why We Need to Decolonise Design
私たちはだれかに対してのソリューションが他の人にとってはどのような体験となるのかを常に考えなければなりません。他者の重要な行動の裏にある体験の実態や、その体験が起こる理由をみつけてみましょう。
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デザインの脱植民地化とは、どういう意味か?
植民地化とは、先住民の抑圧体験に根ざしたもので、具体的には先住民の資源の搾取や、西洋社会の考え方をもちこまれることをいいます。
昨今では植民地化という言葉にはあらゆる概念が含まれます。西洋では社会が他国の植民地化のうえに築かれてきたこと、私たちが特権と抑圧のシステムの中に存在していること、自分たちのものと認識している文化の多くが、実は流用されたり盗まれたりしてきたということを認識する、というような一連の考え方が含まれているのです。
デザインに関していえば、脱植民地化とは実践の背後にある西洋中心的な考え方を解体することなのです。ユニバーサルデザインが普及してきた影響もあるかもしれませんが、最近のデザインの中にはあるひとつのソリューションがすべてに当てはまるかのような考え方がよくみられます。教育者でありデザイナーでもあるDanah Abdulla氏は、「デザイナーはカメレオンであるように訓練されているのだ」といいます。つまり、デザイナーは求められるものがなんであれ、適応できるようになっているのです。
しかし、自分たちが向き合うべき受け手の生きた体験に共感できない状況もあります。同時に、彼らは自分たちのすることが中立的かつ普遍的であり、デザインに政治的な偏りがないと信じています。しかし、彼らが行う選択は非常に政治的なものです。あらゆるデザイン上の決断が、特定の人を排除し、また抑圧する可能性があります。あらゆるデザインがなんらかの形で受け手の考えを左右する可能性がありますし、使われる言葉のひとつひとつに歴史的な意味があるのです。
なぜ私たちは考え方とデザイン手法を脱植民地化しなければならないのか
私たちは、社会的、性的、政治的、経済的な不平等を永続させる民族中心的な価値観に根ざした抑圧システムの中で生きています。デザインの価値や歴史は、ある基準や原則を通して教えられてきました。その「なにがよくて、また悪いといえるか」という基準は主にはヨーロッパやアメリカの白人男性デザイナーにより設定されたものです。
この規範の権威が、西洋以外の文化圏で作られた作品を「デザイン」ではなく「工芸」に分類してきたのです。伝統的な作品を現代のデザインとは別のものに分類することで、多くの文化から生まれたデザイン手法を西洋のものよりも劣ったものとしてきました。デザインの脱植民地化が進めば、最終的にはこの「デザイン」と「工芸」という間違った区別を消し去ることができるでしょう。
デザインを脱植民地化するためには、ヨーロッパ中心主義から離れて世界をみてみる必要があります。まずは、私たち自身が物事をよく知り、自分自身を教育することが第一歩です。ですが、西洋の教育システムが依然として非常にヨーロッパ中心主義である以上、脱植民地化された知識を得ることは極めて難しいです。Danah Abdulla氏は、「脱植民地化とは、慣れ親しんだものをシャットアウトすることであり、私たちが存在する現在のシステムを超えたものを再想像することである」と述べています。私たちは、資本主義が植民地化の道具のひとつだということを理解しなければなりません。私たちが日常的に行っているデザイン業務でできることは、デザインの受け手のニーズを改めて考えるようにすることです。つまり、異なる民族の人々が私たちの作るものにどのように受け止めるのかを再考することから始めるというようなことです。
また、西洋社会で「単なる迷信」といわれてきたような多くの土着の習慣が、実は科学的な裏付けをもつものだと明らかにしている研究も多くありますが、誰かひとりによって発見されたり編み出されたりしたものではないために、同等の信頼を勝ち得ているわけではありません。実際、西洋では古代ギリシャ以来、「名のある」科学者によるアイデアであるという理由で信頼する傾向があります。
世界の多くの場所では、知識はコミュニティに属するものであって、アイデアや発見や発明にいちいち持ち主の「名前」はついていません。しかしだからといって、そうした知識が誤りであるとか、取るに足らないものであるということにはならないのです。たとえば、アメリカでは土着の農業や水利技術が、ヨーロッパの征服者によって西洋の技術に置き換えられ、その結果、水不足や水質汚染、生産性の低下がおこりました。最近になってやっと西洋科学は、土地の環境によっては征服者に押しつけられた方法よりも、こうした土着のやり方のほうが有効だったということを認めました。ほかにも、たとえばペルーでは、気候変動によって水不足の危険が高まったため、水量を保つために古くから伝わる技術に回帰しようとしています。
脱植民地化するデザインについてもっと知るためには?
Design Mattersはデジタルデザインに焦点をあてた国際的なデザインカンファレンスです。2022年のカンファレンスのテーマのひとつが、デザインの脱植民地化でした。私たちは時代の関心事であるこのテーマを取りあげて、現状を積極的に変えたいと考えています。デザイン業界では、女性、少数民族、LGBTQ+、体が不自由な人たちの存在感がとても小さいです。Design Mattersでの日常業務を振り返ると、カンファレンスのスピーカーを探しているときに、名乗りをあげたり、デザイン会社から推薦される人はほとんどが白人の男性です。それ自体が悪いことではありませんが、デザイン業界はもっと多様なはずなのです。まだ日の目を浴びていない素晴らしいデザイナーがたくさんいて、彼らの声もまた重要なのです。
カンファレンスではデザインの脱植民地化に関連した発表の1つとして、TypothequeのSyllabicsプロジェクトの話がありました。Typotheque(タイポテーク)は、オランダに拠点をおくタイプスタジオです。彼らは、北米における先住民の言語の再生と保存に向けた取り組みをサポートするために、カナダの先住民文字であるSyllabicsフォントファミリーを発表し、Syllabicsフォントの規格を変更しました。
デザインの脱植民地化について関心をもつべき理由についてはこちらを、文化を超えたインターフェースやWebサイトをデザインする方法はこちらをご覧ください。
(カバー写真:Aurelia Durand氏)
Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translation brought to you by Spectrum Tokyo