Spectrum Tokyo創刊によせて

デザインという言葉の持つ意味が、こんなに大きく変化していくことを、かつてのデザイナー達はどれほど予想していたでしょうか。

変人領域だった「デザイン」

少し前まで、ビジネスサイドから見る「デザイン」は多分に「右脳的」で、直感的・視覚的な職人芸のように見えていました。「芸術(アート)とデザインの違い」みたいなものが論点になるほどに、それは非再現的・非論理的なプロセスで、それを手がける「デザイナー」という人種は、美術系の学校を出ていなければなれないような、ある種「神格化」された存在でした。神格化されていながらも、その非論理性から、ロジカル至上主義市場であるビジネスの世界では、ややアンタッチャブルな領域でもありました。デザイナーというだけでスーツを着てないのが当たり前なんだと。

一方で、そうであるがゆえに、「デザイン」あるいは「デザイナー」は、ビジネスの主流になり得ない時代が長く続きました。ビジネスの現場では、論理的で再現可能であることや、説明責任を果たすことが重要だったからでしょう。

汎化する「デザイン」

ところが、時代がデジタルになり、環境の変化が激化する中で、デザインのもつ問題解決の側面が注目されるようになりました。「デザイン思考」や「UXデザイン」という言葉の流行は、まさに藁にもすがりたいビジネスパーソン達にとって、希望の光だったに違いありません。

デザイン思考がその限界をあらわにし、UXデザインという言葉が当たり前になって専門職じゃなくてもみんなが語れるようになり、この10年でデザインは確かに、ビジネスの主流として認知されるようになりました。イマドキの会社では、CDO(Chief Design Officer)を置く会社も珍しくありません。「デザイン組織への投資を増やす」と回答した企業が半数を超えたという調査結果もあります。

にわかに主流になりつつあるデザインですが、その言葉には今でも、「無から有を生み出す」創造的な、ある種「魔法のような何か」は、期待されているように思います。

デザインの多様性

こうした、環境の変化やデザインへの「期待値」の変化を経て、「デザイン」や「デザイナー」は、どう変わってきたのでしょうか。どう変わっていく(あるいは変わらない)のでしょうか?

Spectrumはそうしたデザインのもつ多様な可能性について光を当てるメディアになればと願っています。

Spectrumとは、光を分光器で分解したときに見える7色の光の帯のことをさします。7色と書きましたが、実際には境目があいまいで、連続しながら変化する1つでありながら無数の光色の集合です。 

「マーケティングとは●●である」「DXとはXXである」

私たち人間には、何かにつけて言葉に定義をつけて、それで安心したくなるような、そんな性分があるように思います。虹を「7色」と定義してしまうように。

Spectrumという言葉は、そんな私たちを笑顔でたしなめてくれます。

Spectrum Tokyoも「デザインとは●●である」と定義して、安心したくなる私たちに、新しい可能性を示してくれることを期待しています。

とかく、「ターゲットをしぼりなさい」と言われるこの世界で、多様性を表現することに挑戦するメディアの船出を、あたたかく見守るだけでなく、是非議論に参加していただけるのを、心よりお待ちしております。

Written By

福井 啓志

フライング・ペンギンズCEO。ITコンサルティング会社「秀玄舎」、オープンソース開発チーム「OTSオーケストラ」の創業を経て、UXデザインファーム「フライング・ペンギンズ」を創業。経営のかたわら、複数社の顧問やCTO/CDO/CIOコーチを務める。

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