専門知識 × AIでコーポレート業務を変える。技術と資産から生まれた「CorporateOn」

AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」などを展開してきたLegalOn Technologiesが、2025年1月に新たにリリースした「CorporateOn」。社内規程やマニュアルなどへの質問や相談に、瞬時に回答を返すAIカウンセルです。法が社会を秩序づけるのと同じく、言葉による方向付けをもってAIに向き合い、その知見を深めてきたLegalOn Technologiesに、コーポレート分野へと領域を広げた背景や、AIの技術の活用における視点をお聞きしました。

吉永悠記 | 株式会社LegalOn Technologies / CorporateOn プロダクトデザイナー、プロダクトマネージャー

フリーのUXデザイナー、UXリサーチャーとして様々な製品開発に携わったのち、起業家として活動。toCアプリの事業売却やD2C事業の経営を経て、2025年にLegalOn Technologiesに入社。コーポレート部門向けの製品「CorporateOn」など、新規事業における設計、 リサーチ、 プロダクトマネジメントを担当している。

野村惇 | 株式会社LegalOn Technologies プロダクトデザイナー

デザイン受託会社にてプロトタイプ実装に軸足を置いたUIデザイン業務に従事し、その後フリーランスやECプラットフォーム事業会社などを経て、2024年3月にLegalOn Technologiesに入社。現職では契約管理ツール開発を対象に、デザインおよびユーザリサーチを行っている。

コーポレート業務の効率化を支援するプロダクト「CorporateOn」

── はじめに、LegalOn Technologiesとそのプロダクトである「CorporateOn」について教えてください。

野村:LegalOn Technologiesは、法的知見とAI分野における高い開発力を持ち、グローバルでビジネスを展開するAIカンパニーです。主力プロダクトは「LegalOn Cloud」で、契約業務のDXを実現するAIプラットフォームとして、先行するプロダクト「LegalForce」「LegalForceキャビネ」などで行っていた契約書レビューや締結後の管理サポートなどを統合的にカバーして展開しています。

吉永:2025年1月に新たにリリースした「CorporateOn」は、これらよりも広い領域を対象とし、コーポレート部門全体への価値提供を目指して開発した新プロダクトです。必要なドキュメントをPDFなどでアップロードするだけで、社内規程などのルールやマニュアルを検索対象とすることができ、それらを参照して問い合わせに対する回答文を自動生成できるのがポイントです。

2025年1月に新たにリリースされた「CorporateOn」

吉永:コーポレート部門には、「あれってどうすればいいんだっけ?」「規程を読んでもわからない」など、従業員の方々から日々さまざまな問い合わせが寄せられます。その対応に時間を取られて、より本質的なことに時間を割けていないという感覚をお持ちの方も多いほか、同じことを何度も聞かれてストレスを抱えてしまう方も多いのが現状です。「CorporateOn」が代わりに回答を行うことで、彼らが時間をより有意義に使えるようになることを目指しています。

ただはじめからコーポレート向けのプロダクトをつくる予定ではなく、当初は経営層の意思決定をサポートするプロダクト案が有力候補で、実際に開発も進めていたんです。

── そうだったのですね!「CorporateOn」に行きついたのには、どのようなヒントやきっかけがあったのでしょうか?

吉永:この経営層向けプロダクトのリサーチや商談の中で、コーポレート系の経営層の方と何度かお話しさせていただくことがあり、その中でいくつか現在の形につながるヒントが見つかったのです。

またそもそもLegalOn Technologiesには、コーポレート部門──たとえば経理部、人事部、情シス部、経営企画部など──での業務経験を持つ、弁護士や公認会計士、税理士、経営コンサルタントなどドメインエキスパートに近い存在のメンバーが経営層にも現場にも多数在籍していることに改めて気づき、その資産を活かせば、ユーザーを理解した良いプロダクトがつくれるのではないかと考えました。

野村:私は「CorporateOn」とは別の開発チームのメンバーなので、転換の様子を外側から見ていたのですが、途中で方針がガラッと変わったのでとても驚きました。「あんなに熱量高く取り組んでいたのにどうしたの?」と思いましたが、お客様の実態を見て学んだ結果だったのですね。

現場のメンバーがお客様から学んで経営陣に提案した結果、双方納得できる方針転換ができたというのは、良い成功事例だと思います。自分たちの思いを込めることとお客様に向き合うこと、どちらからも逃げずに取り組んだことが結実したということでしょう。

社内の資産を活かした「攻めの専門知識」で、従業員側にもアプローチ

── 実際のプロダクトづくりの過程では、ドメインに関する知識・知見をどうキャッチアップしてプロダクトに落とし込んだのでしょうか?

吉永:まずはドメインエキスパートと言えるLegalOn Technologiesのメンバーの業務内容を理解することからはじめました。非常に優秀なメンバーばかりだと自負しており、先進的なコーポレート部門の仕事像を理解するだけでなく、その将来像につながるヒントも得ることができました。

また、取引先のお客様にご許可をいただき、導入検討の段階からユーザーインタビューを行ったりもしました。

これらによって材料が揃ったあとは、イベントストーミング(*)を行い、持っている材料を棚卸ししながら業務フローを可視化して1枚の図に起こします。その図をさまざまな部署に共有することで、開発者の隅々にいたるまで理解が行き渡るようにしました。

* イベントストーミング … Alberto Brandolini 氏が提唱したワークショップ形式のモデリング手法。ドメインで発生するイベントを深く理解することに重点を置き、複雑なビジネスプロセスやドメインの知識を共有、可視化、理解することを目的とする。

── 実際にどのような発見を、プロダクトづくりに活かしたのでしょうか?

吉永:たとえばユーザーは、自社の規程について質問して回答がもらえれば満足するのかと言うと、そうではありません。FAQのチャットボットなどのソリューションは既にありますが、それでは満足していないし、そもそも使われていないケースも多い。それはなぜでしょうか?

理由のひとつは、通常業務もある中で、コーポレート部門の方々がチャットボットの更新にコミットするのが難しいということ。さらにその状況を引き起こしている背景に、そもそもFAQチャットボットがほとんど使われていないことがありました。使われないものにリソースは割けませんから、結果的に放置状態になってしまい、これらが負のループになってしまっていたのです。

そこから見えたのは、管理の手間がかからないことと、従業員の方々にちゃんと使われるものであること、このふたつの視点を持ってプロダクトの設計をしなければならないということです。

前者に対応するために、既存のドキュメントをアップロードするだけで良い仕組みをつくりました。後者に関しては、そもそも従業員の方々はルールを守るためではなく、何かを生産するために働いているので、ルールの検索自体にはあまりニーズがありません。そのため、現場が攻めるために必要な専門知識、たとえば戦略や新規事業を進めるうえで参考にするナレッジを備えたプロダクトにする必要があったのです。

── 専門知識をプロダクトに備えさせるために、どのようなことを行ったのでしょうか?

吉永:ドメインエキスパートの持つ知識・知見、そして長く法務を中心にコーポレート領域に取り組んできた経験がLegalOn Technologiesには蓄積しています。その膨大で広範な専門知識を集約し、体系化して、独自のデータベース「コーポレートナレッジグラフ」としてプロダクトに入れ込みました。

「CorporateOn」は、LegalOn Technologiesの多くのメンバーの協力によって実現したプロダクトであり、僕ら自身の知識・知見という資産を活かしたプロダクトとなっています。

── 今後の機能追加や改善においても、LegalOn Technologiesが有する知識・知見が活きてくるのでしょうか?

吉永:そうですね。実は最近、LegalOn Technologiesのコーポレート部門を事例として発案した機能が、開発ロードマップにあがったところです。コーポレート部門では現在、各部署からの相談や質問への回答を行いつつ、その内容をストックしてAIの学習に活かす動きも行っています。学習においては、チーム内の共有やマニュアル化と、チーム外つまり全社向けのマニュアル作成や更新という、大きくふたつの分岐が存在しています。この取り組みの文化が非常に良いものだと感じ、「CorporateOn」に取り入れるべく機能の開発に着手しました。

重要なのはAIの背景にあるもの。人が有する知識や知見を競争力に

── 「CorporateOn」もAIの技術を用いたプロダクトですが、どのようなAIでどのようなことを実現しているのでしょうか?

吉永:「コーポレートRAGシステム」という、検索拡張生成AIを用いたシステムを構築しています。ベクトルデータベース(*)中で検索を行い結果を出力するのですが、通常のデータベースとは異なり、情報の関連性や属性などを参照する点が特徴です。それらを基に、求められているものがどの次元のどの辺りにあるかを大規模言語モデルであるLLM(*)が解釈し、近辺にある情報から最も関連度が高いものを結果として返すという仕組みとなっています。

* ベクトルデータベース … 非構造化データを多次元ベクトル空間で表現・管理し、効率的な検索を可能にする技術。
* LLM…大規模言語モデルの略。さまざまな自然言語処理のタスクを実行できる。

これにより、従来のようにキーワードがほぼ合致しないとヒットしない検索ではなく、意味や意図を反映した検索結果をはじき出すことができるわけです。

「コーポレートRAGシステム」によって、従来とは異なる検索結果の提示が可能に

吉永:現状、多くの企業はクラウドにマニュアルドキュメントなどを格納し、それを検索して見つけるような仕組みを取っていると思います。Googleなどの検索プラットフォームとは別の場所に自分たちだけの検索環境をつくっていると言えますが、正直かなり不便ですよね。情報が多くなりすぎる、どこにあるかわからない、ルールが煩雑になる…そして結局どうすればいいのか、誰に聞けばいいのかもわからなくなる。それを解決するのが、このシステムなのです。

── AIを活用するという点で、注意していることや会社としてのスタンス・考えがあれば教えてください。

吉永:適切な箇所にAIを活用できる技術力を持つことが今後のソフトウェア開発にとって重要であるのは当然として、会社として継続的に競争力を持って戦っていくためには、専門知識を自社の資産として持っておくことなど、AIの背景にあるものが要になります。AI単体で競争力になるのは短期的な話で、中長期的にはその背景にあるもの、つまり何を活用しているのかが競争力になるはずです。

その点で、コーポレート領域に関する知見は法務領域以上にカバー範囲が広いため整理しにくく、体系的にまとまっていないものも多いのが特徴です。経験を通じて獲得していく部分がかなり多い分野でもあり、過去にどうしていたのかの情報などは、ナレッジを追加されていないAIには生成できません。「CorporateOn」も背景にある専門知識はLegalOn Technologiesのメンバーがつくっているものであり、そういった人間が持つ知識や知見を届ける手段としてAIがある、というのが適切かもしれません。

法務領域を手がける企業としての固持「生成しすぎない」

── AIに関連して、ほかにも将来プロダクトに還元されることを想定してやっていることはあるのでしょうか?

吉永:ひとつは特許の取得です。AIの技術のコモディティ化が避けられないなかで、他社に真似されない、真似できない状態を補強するために、「CorporateOn」に関連して複数の特許を出願しています。

もうひとつは、獲得したデータや生成したデータを加工することです。たとえば「CorporateOn」のためにつくったデータを、「LegalOn Cloud」でも使えるように加工する可能性などが考えられ、それらを念頭において動きはじめています。

── ユーザーに提供するものとして、AIだからこそ注意していることはあるのでしょうか?

吉永:「生成しすぎない」という点に注意しています。LLMは学習に用いたデータやWeb上のデータなどに基づいて回答を生成するため、著作権侵害のおそれがある出力がされる場合があります。この蓋然性は、LLMに饒舌に喋らせて生成量が増えるほど、どんどん増していきます。そうならないよう、我々は、著作権面のクリアランスができている情報、つまり「CorporateOn」に搭載された自社知識や専門知識をもとに、生成をさせています。また、できるだけ文字数の制限をかけて出力させています。これらに加えて、適法な出力を得られるよう、複数の対策を実装しています。

法務領域のAIプロダクトを手がける会社として、著作権への配慮は重要視していると思います。

目指すは「一緒に学び、成長する」存在

── 最後に、今後どのような展望を抱いているのか教えてください。

吉永:2025年は「AIエージェント元年」と言われ、すべてを人間が指示してAIが答える時代から、AIが自分ですべきことを考え、自分で出力内容を評価し、自分で見直してもう一度アウトプットする…ということを繰り返す時代への移行の転換点になるはずです。僕たちも、最終的にはAIエージェントをつくろうと考えています。

野村:「LegalOn Cloud」でも、開発リーダーが以前から「さりげなく先回りして助けてくれる存在になろう」と発信し続けており、開発メンバーみんながその共通認識を持っています。SF映画に出てくる、人間の相棒的な立ち位置のロボットのようなイメージですね。自動で仕事をこなす便利な道具や、超越者として人を導くといったことではなく、人と共に学び、成長する存在であると私は解釈しています。

「LegalOn Cloud」に限らず、LegalOn Technologiesのあらゆるプロダクトでこのコンセプトを実現し、より便利でスマートなAIエージェントへとプロダクトを成長させていきたいです。

もともと契約書にフォーカスしていたのは、契約というものを成功させるためであり、ひいては事業やビジネスを成功させるためです。「CorporateOn」が法務領域から一歩世界を広げてくれたように、法務に近いところから少しづつ領域を広げていって、最終的にはユーザーの実現したいことを実現させる手助けができればと思います。

吉永:コーポレートという分野に関しては、慢性的な人手不足の状況があり、その結果負が雪だるま式に積み重なってしまい、新たなチャレンジがなかなかできないという課題が生まれています。だからこそ、特定業務に関してほぼ人と同等に働けるAIエージェントをコーポレート部門に提供することで、根本的な課題解決ができればと考えています。

またもう一方の利用ユーザーである従業員の方々に関しても、安心して前進できるようなサポートをしていければと考えています。社内規程やマニュアルと業界特有のルールなどは密接につながっているので、将来的にそこまで「CorporateOn」で参照できるようにすることで、その支援を実現していきたいです。

提供
株式会社LegalOn Technologies https://legalontech.jp/
AIカウンセル「CorporateOn」 https://lp.www.legalon-cloud.com/corporateon

Written By

長島 志歩

Specrum Tokyoの編集部員。映画会社や広告代理店、スタートアップを経て2022年よりフリーランス。クリエイターが自らの個性を生かして活躍するための支援を生業とし、幅広くコンテンツづくりやPRなどを行っている。

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