猫様の健康見守りIoTサービス「Catlog」が大切にする、猫様と飼い主さんに寄り添ったデザイン

「猫」の見守りに特化したプロダクト「Catlog(キャトログ)」が注目を集める株式会社RABO。そのデザインの対象は、ユーザーである飼い主のみならず猫にまで及びます。言葉が通じないのはもちろん、ちょっと気まぐれなイメージもある猫。そんな愛すべき存在を理解し見守るために、Catlogの開発チームは日々どのようにデザインをしているのでしょうか?

香林 望 | RABO,inc. VP of Design
株式会社グッドパッチや大手出版社などでUIデザインに携わる傍ら、議論の促進を促すグラフィックレコーディングの実践や講師を経験。猫様のご縁で2019年にRABOにジョイン。好奇心と挑戦心を活かしてプロダクトのみならずチーム全体をモチベートしデザインする。愛猫たちを愛でるのが日々の糧。

80億件以上のデータ解析と機械学習から、愛する猫様の健康状態を知る

── まずはじめに「Catlog」について教えてください。

香林:Catlogでは猫様専用のデバイスと、そこから取得したデータを管理するアプリを提供しています。デバイスには首輪型の「Catlog」とトイレの下に置く「Catlog Board」の2種類があり、それぞれが猫様の活動データを自動で取得。飼い主さんはアプリでほぼリアルタイムに猫様の様子を確認できます。

Catlogは「食べる」「水飲み」「寝る」「走る」など健康に密接に関わる行動データを首元の微細な動きから取得し、24時間365日、行動に変化がないかを見守ります。対するCatlog Boardは猫様がトイレを使うたびに体重と排泄データを取得しており、腎臓などの泌尿器疾患にかかりやすいと言われる猫様のトイレ周りのトラブルやダイエットなどに役立てていただけます。それぞれ機械学習を活用してデータを解析しており、これらを通じてCatlogは猫様がずっと健康でいつづけられるようにサポートしています。

猫様専用のデバイス「Catlog」「Catlog Board」

── Catlogを支えている「バイオロギング(動物行動学)」とはどのような技術なのでしょうか?

香林:バイオロギングは「野生動物に小型のセンサーをつけ、行動データを取得して対象の生態を分析する」というもので、代表の伊豫が大学院で専攻していた分野です。それを自分の家族である猫様にも応用できるのではないかと考え、Catlogが誕生しました。

Catlogの開発には、多くのバイオロギング研究者の方々にもご協力いただいています。また、実際の研究ではごく少数のサンプリングデータしか集まらないところCatlogでは既に80億件以上の猫様の行動データを収集しており、研究シーンでも新たな示唆につながっているようです。

── それだけデータがあると高い精度が期待できそうですね。Catlogの示す内容は、そこで蓄積されたデータから構築しているのでしょうか?

香林:はい、まずはデバイスから得たデータの特徴を抽出してモデル化し、機械学習を用いて解析することで、高い精度での行動判定を実現しています。ただしそれだけでなく、社内のメンバーと暮らしている猫様たちにも協力していただきながら、テストを繰り返しています。個体差による誤差をできるかぎり減らすため、その子らしい行動特性を分かっている飼い主さんがそばにいる状態で検証しており、判定の正確さや個体差の特徴などをしっかりと確認することができます。さらに飼い主さんがアプリから行動判定のフィードバックをおこなうこともでき、それによって機械学習がその猫様に最適化されていきます。

やはり判定の精度はとても重視しています。Catlogをつけてごはんを食べているのに異なる表示がされつづけたら、万一のときに信用できなくなってしまいますよね。サービス全体の信用に直結するため、精度の向上には会社全体で取り組んでいます

──お客様からいただく声なども参考にしているのでしょうか?

香林:お問い合わせにいただいた声を参考にするのはもちろん、飼い主の皆さまから直接データ提供していただく「猫様行動調査」も定期的におこなっています。社内でのテストのみでは限界があるため、より広い範囲でデータを集め、個体差に対応できるようにするのがこの施策の目的です。飼い主の皆さまに猫様の動画を撮って送っていただき、そのときの行動データもあわせて検証することでさらなる精度の向上に努めています。

客観的な数字と示唆で、飼い主さんの判断をサポート

── 健康を見守るプロダクトの宿命として、命の危険を伝える場面もあるかと思います。ネガティブな情報を提示する際に気をつけていることはありますか?

香林データに基づいて伝えること、そしてそれを元に正しい判断ができるよう促すこと、この2つを大切にしています。直感ももちろん大事ですが、「なんか今日トイレの回数多いかも?」という主観的でふんわりした認識では、病院に行くタイミングを逃してしまったり、気のせいだと見過ごしてしまったりしがち。一般的に猫様を動物病院に連れて行く機会は少ない傾向にあり、よほどのことがない限り行動を起こしづらいことが伺えます。Catlogでは「普段トイレに行く回数は1日3回だけど、今日は11回行っています」というように客観的に数字で伝えつつ、飼い主さんが「病院に行ったほうがいいな」と正しく判断できる手助けとなるよう心がけています。

客観的な数字を伝え、正しい判断をサポート

香林:実は昨年の2月に我が家のねこに尿道結石ができてしまったんです。Catlogの表示でトイレ回数が通常よりもかなり多いことに気づき、すぐに病院に行ったことで最悪の事態を免れることができました。

やはり飼い主にとっては「まさかうちの子がそんな大変なことになるはずがない!」と正常性バイアスが働いてしまうものです。だからこそ、データで客観的に状態を示してあげることが必要なのだと強く感じる経験になりました。

示唆の度合いについては社内でも議論を繰り返してきた部分で、デザインも修正を重ねてきました。たとえばグラフ表示は普段はCatlogのベースカラーである黄色を使用していますが、アラートのときは赤色を使って緊急性や重大さが伝わるようにしています。

ただし、毎日不安を覚えながら猫さまと暮らしてほしいわけではありませんし、必要以上に心配させるべきではありません。Catlogがすべきは、万一のときに見逃さないように検知して適切にお知らせすること。焦燥感を刺激したり恐怖心を煽りすぎることがないよう、表現には常に注意しています。

どこまでも猫様と飼い主さんに寄り添った設計

── アナログとデジタルが併用されているのもCatlogの特徴ですね。アナログのプロダクトでは、どのようなことを意識していますか?

香林:Catlog Pendantは猫様が毎日身に着けるものなので、負担が少なく付け心地の良いものをと試行錯誤しています。アクセサリー感覚で取り入れてもらえるよう、ファッション性も損なわないようにしています。

Catlog Boardに関しては、トイレに入る行為を邪魔しないようにぎりぎりまで高さを押さえている点と、元々のトイレを変えなくて済むような設計がポイントです。世の中のペット用スマートトイレはトイレごと変える必要があったり、給電のために置き場所を変えないといけなかったり、猫様に生活様式の変更を強いるものが多いなと感じています。でも猫様は繊細な生き物。「この場所でしかトイレをしない」ということも多々あるため、あくまでいまご利用中のトイレの下に置いて成立するようにこだわりました。これは代表の伊豫自身の経験に基づいたもので、トイレが変わることをストレスに感じる猫様と変えたくない飼い主さん双方の気持ちを最優先しています。

生活様式の変更を強いらない配慮がなされた「Catlog Board」

── アプリのデザインではどのような部分を大切にされていますか?

香林:大切なポイントはアプリのファーストビューに集約されています。

「Catlog」ファーストビュー画面

香林:「健康を見守るプロダクトだから、まずはデータを示した方がいいのでは?」という意見もあったのですが、やはり私たちのサービスの根底には「猫様と離れていてもずっとそばにいる」という思いが強くありました。猫様の行動を24時間見守るということは、アプリを介して猫様とずっと一緒にいるようなもの。まずはそれを伝えたいと考えた結果、現状のUIに着地しました。画面下部の表示で体調に異変がないかもひと目で分かります。

猫様のアイコンは、現実の毛色にはない黄色を使用したり幾何学的な線形を使って抽象化することで、どんな飼い主さんでも「うちの子」の姿を投影できるようにしています。アニメーションしたときに、想像で補完しながら自分の子と近くにいる感覚になってほしいという思いを込めました。

逆に猫様の表現をリアルな描写にしたり、キャラクター化したり、3Dアバター化すると「うちの子」から遠ざかってしまうため絶対にやらないと決めています。「いま寝てるにゃ~」など、猫様の言葉を無理やり代弁するようなこともしません。きっと誰もが「うちの子としゃべれたらいいな」という願望は持っていると思いますが、それを第三者が勝手にやってしまったら「うちの子と違う」と違和感につながり、一緒にいる感覚から離れてしまうからです。

やはり猫様と飼い主さんとの間にはそれぞれの形の絆があって、そこにはちょっとしたファンタジーがあるはずです。第三者が勝手に決めつけるのではなく、一緒に暮らす中で家族として感じとっている言語化できない部分を尊重し、飼い主さんがそれぞれ自分に当てはめられる余地を残したいんです。Catlogは猫様と飼い主さんとをつなぎつつ、それぞれの距離感や関係性を邪魔しない、狭めない存在でありたいですね。

「いつも通り」でも利用してもらえてはじめて、異常時に役に立てる

── 基本的にはそう頻繁に命の危険や異常に出くわすことはないと思うのですが、平常時の表現として意識していることはありますか?

香林:飼い主の皆さまの本来の目的は「猫様と一緒の暮らしを長く続けていくこと」で、Catlogはその目的を果たすためのツール。究極的に言えば、Catlogは猫様の体調変化がないときは「見なくてもいいアプリ」です。アプリのメイン画面で詳細なデータではなく一言で様子を伝えているのも、飼い主さんが仕事の合間や隙間時間にぱっと見て「問題ない」とわかることが大切だから。私たちは猫様と飼い主さんとの時間を邪魔したくないし、もっと安心して猫様と触れ合っていてほしいんです。

きっと猫様が健康なときは存在感のないアプリでいいのだと思います。アラートが来ないほうが、猫様との生活としては幸せなはずですからね。

── 「健康なときは存在感のないアプリでいい」というのは、たしかにそうですね。

香林:ただし、だからといって「使わなくていい」わけではありません。日常的に使っていなければ「いつも通り」にも「いつもと違う」にも気づくことができません。そのためにも、日ごろから「いつも通りであること楽しめるようにする」ことが大切なのではないかと考えています。

そこで先日、「元気スコア」を表示する機能をリリースしました。「元気スコア」は猫様の活動量から計算した数値で、元気でいつづける限り大きな変化がないもの。それを「変化がないこと自体が素晴らしい」と実感してもらえたらと思い、Catlogらしいさまざまな言葉で表現することで毎日楽しんでもらえるよう工夫を凝らしています。

── いつも通りであることを楽しめるように、他になにかおこなっていることはありますか?

香林:直近でリリースした「シェア機能」も、猫様との生活をより楽しくする仕掛けとして開発しました。撮った写真にCatlogのデータなどを自由に配置した画像を作ってシェアできるという機能で、まだ出して間もないですがすでに多くの方にご利用いただいています。

リリースしたばかりながら大きな反響を得ている「シェア機能」

香林:これが私たちの思いもよらない形で使っていただけて、飼い主さんたちのクリエイティビティに溢れた投稿がSNSで広がっています。猫様はお散歩の文化がなかったり、そもそも鉢合わせると喧嘩になることも多いためオフラインでの交流があまりないのですが、こうしてCatlogをコミュニケーションツールとしても使ってもらえるのはとても嬉しいですね。

── 最後に、これからのCatlogが目指しているものはなにか、教えてください。

香林:Catlogは猫様が健康なときは「今日もうちの子は相変わらず元気」「今日も体重は変わらず4.5kg」など「いつも通り健康で、いつも通り変わらない日常」を大切にしながら、猫様と飼い主さんが愛情を深めあうお手伝いができたらといいなと思っています。そして、万一体調に異常があったときにはなによりも早く検知し、飼い主さんをサポートする頼れる存在になっていくこと。猫様は大切な家族です。プロダクトを通じて健康を守りながら、その愛をさらに深めていくお手伝いをしていきたいですね。

取材協力
株式会社RABO

Written By

長島 志歩

Specrum Tokyoの編集部員。映画会社や広告代理店、スタートアップを経て2022年よりフリーランス。クリエイターが自らの個性を生かして活躍するための支援を生業とし、幅広くコンテンツづくりやPRなどを行っている。

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