なぜロゴは文字化けしたのか? 「Gaudiyらしさ」が導いたCI刷新のプロセス

人々が好きや夢中で生きていける「ファン国家」の実現を掲げ、Web3とエンタメカルチャーを掛け合わせた挑戦をつづける株式会社Gaudiy。2023年10月にコーポレート・アイデンティティの刷新を行い、大きな反響を呼びました。今回は、株式会社ケルン タカヤ・オオタさんデザインによるロゴのリニューアルからビジュアル・システムの構築に至るまで、プロジェクトの裏側に迫ります。

タカヤ・オオタ|株式会社ケルン

立教大学 経営学部卒業後、デザイン事務所、スタートアップ企業のアートディレクターを経て、2017年に株式会社ケルンを設立。企業の思想を意匠に変えることをテーマに、アイデンティティ・デザインの設計に取り組んでいる。kern inc.

田中翔|株式会社Gaudiy コミュニケーションデザイナー

金沢美術工芸大学 視覚デザイン専攻卒。広告制作会社、CtoCベンチャーなどを経て、2023年7月にGaudiyへ。今回のプロジェクトでは社内ビジュアル展開のディレクションを担当。

時代を越える普遍的な概念を、みんなが断るようなデザインに

── まずはじめに、Gaudiyについて教えてください。

田中:Gaudiyは「ファンと共に、時代を進める。」をミッションに掲げるWeb3スタートアップです。ブロックチェーンや生成AIなどの技術を活用して、自分の「好き」や「夢中」によって生活が成り立つ経済圏としての「ファン国家」実現を目指し、そのプラットフォームとして「Gaudiy Fanlink」を提供しています。

田中:創業から5年が経ち、組織規模が100名を迎えるこのタイミングで、丸くなることなくミッションの達成に向けて挑みつづける姿勢を示すため、ロゴをはじめコーポレート・アイデンティティを刷新しました。

── ロゴのリニューアルについて、Gaudiy社からタカヤさんへ依頼されたそうですね。タカヤさんはどのようなオーダーを受けたのでしょうか。

タカヤ:縛りとしてはひとつだけ、「今までのクライアントさんなら断るような案だけを持ってきてほしい」というものでした。求めるものを満たすため、その表現が彼らにとってどれぐらいの気持ちなのかをはかる必要がありましたが、「それぐらいの気概のものを」なのか、「本当に断られるようなものを」なのか、正直本気度をはかりあぐねました。

ただ、「断られるレベルの気概」は人によって差があるし、僕の気概がすべてGaudiyのみなさんに伝わるかどうかわからないので、まずは「これなら絶対にみんな断るだろう」という極端なものを持っていこうと考えました。それで怒られたら、「だって言ったじゃないですか」と言おうかなと(笑)。

── 「断られるようなもの」をタカヤさんとしてはどう解釈し、アプローチしていったのでしょうか。

タカヤ:制作の際、まずは全体のコンセプトをつくり、それを形に落とし込んでいくのですが、そのときのギャップが大きければ大きいほど相手は驚くものです。難解なコンセプトにしてしまうと最初から混乱が生じてしまうこともあるため、コンセプト自体は受けとめやすいものにして、形に落とし込むときにみんなの予想をどれぐらい裏切れるかを重要視することにしました。

── 今回のコンセプトは「エンコードとデコード」だそうですね。このコンセプトはどのように見つけていったのでしょうか。

タカヤ:各領域でトップを目指すような方々とお仕事をすることが多いのですが、その人たちにとってふさわしいものは何かを考えると、それは単なる一過性のトレンドだけではなく、領域を網羅できる普遍的なキーワードである必要があります。僕の基本姿勢としても、なるべく大きなテーマを扱いたいと考えています。

コンセプトの提案資料

タカヤ:今回コンセプトとした「エンコードとデコード」は、ネット回線が重い時代に生まれたJPEGやPNGなどの画像圧縮形式にはじまり、最近ではハッシュの暗号化にも使われるなど、Web1.0の時代から今日までずっと基本概念としてあるものです。インターネットという文脈の中で長く使われている概念を取り入れることで、中長期的な運用に耐える強固なコンセプトになるのではないかと考えました。

Gaudiyらしい姿勢を、存在そのもので表現するロゴを

── 「エンコードとデコード」から、どのようなプロセスで今回のロゴをつくりあげていったのでしょうか。

タカヤ:自分の中で「断られそうな度合い」でバリエーションをつくり、3案提案しました。

実際に提案した3案

タカヤ:つくっている中で感じたのは、Gaudiy社の「時代に挑む姿」をシンボルやロゴタイプなどの意匠だけで表現するのではなく、「全体のスタイルとして表現する」「ロゴの存在そのもので挑戦的な姿勢を見せる」という表現方法の方が良いのではないかということです。

結果、前述の3案のご提案となるのですが、保険としてシンボルに寄せたものも含めました。僕は専門家として「彼らはそう言っているけど、本当にそれでいいのか」を考えないといけないし、これらが世に出たときに彼らの名前を傷つけることがあってはいけません。そのため、Gaudiy社がやりたいことを盛り込みつつ、メッセージを伝える媒体として機能することも担保しなければならないという、板挟みな状況でした。

──機能性を担保するために、どのようなことを考えましたか。

タカヤ:「受け入れやすいコンセプトかどうか」はもちろんながら、モチーフの選び方にも注意しました。今回採用した「文字化け」というモチーフは、ある程度デジタルに触れている方なら理解できるものだろうし、はじめは違和感を感じても数回見るうちに馴染むのではないかと考えました。

──文字化けというモチーフが、効果的に機能しているなと感じます。

タカヤ:どれぐらい壊すと読めなくなるのか、そのギリギリのラインはどこなのか、かなり検証しましたね。既成のフォントでは感覚がつかみにくかったので、ゼロからフォントをつくって骨格を理解し、どう壊せば可読性と文字化け感を両立できるのか試行錯誤しました。

ゼロから制作されたフォント

──結果的にこの「文字化け案」が採用されたことを、タカヤさんはどう感じましたか。

タカヤ:僕としては最も採用されないだろうと思っていた案でしたし、もともとの提案としては「バグってない版」と「バグってる版(文字化け案)」の2本立てで使用する想定だったんです。保険としてバグってない版を用意してあり、より企業としての姿勢を表現したいときにはバグってる版を使うというルールでご提案したら、「バグってる版だけで行こう!」って(笑)。その時にはじめて、「オーダーの言葉は本気だったんだな」と気づきました。

やはり普段の制作では「これは受け取っていただけないかな」と考えてしまい、自分で自分に制約を課しているものです。その制約を外すとこんなものができるのかと自分自身も驚いたプロジェクトでしたし、プロジェクトでのやりとりを通じて、Gaudiy社がとにかく難しいことに前向きな姿勢であることを実感しました。

長く使いつづけることのできるビジュアル・システムを目指して

── ビジュアル・システムへの展開についても聞かせてください。タカヤさんはロゴからどう展開を設計していったのでしょうか。

タカヤ:「エンコードとデコード」というコンセプトはそのままに、グラフィックでそれらを示せるものはないか探り、ロゴと同じエレメントを使うものから違うものを使うものまで、幅を持たせていろいろつくりました。その上で、どのようなものであればGaudiy社として一貫性ある展開ができそうか、田中さんに託しました。

タカヤさんが制作したビジュアル・システムの初案

田中:2023年7月に入社したのですが、タカヤさんが設計したものを実際に手を動かし使ってみて、特性を理解した上で、どのような展開に落とし込めるかを探ることが僕の最初の重要なミッションでした。

いただいたビジュアル・システム案は、1対1の正方形を組み合わせたドット調の視覚表現をベースとしたもの。カラーパレットもあったので、それらを用いてnote記事のサムネイルなど、いろいろなパターンを試作しました。

さまざまなパターンを検証

田中:実際にやってみるとポップになりすぎることが多々あったため、Gaudiyらしい知性やクールさ、アカデミックさ、そして「社会に対してバグでありつづける」スタンスを表現するにはどうすればいいか、検証を重ねていきました。このときのゴールは「このビジュアル・システムを使いこなせるようになること」だったと思います。

ちなみにこのプロセスでは、インハウスデザイナー3名で一定時間一緒に作業を行うペアデザインを取り入れました。ビジュアルに対する解釈がずれたままアウトプットをつくることなく、一緒に手触り感をつかむことができたので、このワークは取り入れて良かったなと思います。

── 3人で一緒にワークしたことで、検証も軌道に乗ったのでしょうか。

田中:実はそう簡単には行かなくて(笑)。作業の間に別のデザイン業務もあって2,3週間ほど間があき、あらためて今できているものを並べて俯瞰してみたら、違和感が無視できなくなってしまって……。新ビジュアルのセンターピンであるロゴやPARKさん制作のコーポレートサイトと並べてみて、それまで検証を重ねて「これなら理想とするクールさが出ている」と思えていたアウトプットも、「やっぱりポップすぎる」ということを突きつけられたんです。リリースまであと1か月というタイミングでしたが、この段階で完全に仕切り直すことにしました。

ロゴをセンターピンにあらためて俯瞰してみる

田中:この判断の理由のひとつに、ドットの面と色の組み合わせのみの構成では、長く使っていくうちに表現の幅が狭まって、苦しくなってくるのではないかという危機感がありました。一貫性を持って発信しつづけることも会社としての最重要事項であり、そのためには今あるドット調のビジュアル・システムの中でやりくりする方が良いと思ってここまで検証を重ねてきましたが、将来的に自分たちの首を絞めることにならないよう、表現の幅を広げる方向に舵を切りました。

ここから、このビジュアル・システムを壊して発散させるカオスなフェーズが始まります。序盤で行ったペアデザインをもう一度行い、正方形のグリッドだけでなく、Gaudiy社らしいサイエンス感や知性を感じさせるテクスチャーなども織り交ぜながら構成できないかをひたすら探りました。その上で、良いと思えるものを集めてまとめ、タカヤさんからフィードバックをいただきました。

カオス期のデザイン

── タカヤさんはどのようなフィードバックをされたのでしょうか。

タカヤ:もともと僕が重点を置いていたのは「再現しやすいこと」でした。経験上、スタートアップのインハウスデザイナーの方の特性として、グラフィックよりもUIなどコンポーネント化されたものを展開することに長けていることが多いため、グラフィカルなものをお渡しするのは運用の負担が大きく、使いつづけるのが難しいだろうと考えていたんです。そのため最初の提案では、グリッドに沿って任意の形で削って写真にあてはめるだけで、一貫性のあるデザインを提供できる点をポイントにしていました。

でも検証いただいたものを見ると、自分の想像以上にグラフィックを展開してくれていて。僕、ひたすら「すごい」「かっこいい」しか言っていなかったと思います(笑)。

その上でひとつあるとすると、制約を外していろいろ試すことでグラフィックの完成度は高くなっていくものの、ロゴやWebも含めたひとつのプロジェクトとして見たときに、複雑になればなるほど線としてのつながりが弱まってしまう側面はあるのかなと。そのため、僕からは「何かひとつ、すべてをつなぐ役割があるものをシステム上に入れておいた方が良いのではないか」とコメントさせてもらいました。

── 残り1か月という中で、最終的にどのように仕上げていったのでしょうか。

田中:もともと難易度の高いデザインでしたし、発散して広げたもののひとつに収束させるのが難しく、正直どうしたらいいかわからない状態でした。

でもそのとき代表の石川から、「一貫性は重要だが、ひとつのあり方にこだわらずに常に挑戦し変化する姿勢がGaudiyらしさ。その中で起きる失敗も含めて「バグ」なので、表現においても挑戦をつづけてほしい」というフィードバックをもらったんです。それで、綺麗にパッケージングされたものを目指すのではなく、現段階でできる「Gaudiyらしさ」に挑戦して表現として発散した状態で出そうと切り替え、タカヤさんのアドバイスも参考にしてはみ出すぎている要素についてはバランスを整えながら、最終的なアウトプットに持っていきました。

最終的なアウトプット

ありたい姿を問い、体現する時間として「アイデンティティ」に向き合う

── 今回のプロジェクトを経て、コーポレート・アイデンティティをつくるということについてどう感じましたか。

タカヤ:僕のアウトプットはロゴやビジュアル・システムですが、それはひとつの最終成果物にすぎません。大切なのは、つくる過程でその会社がどういう会社なのか、そのコアにあるものは何なのかを僕自身に問う時間であり、依頼をくれた方々に対して「あなたたちはこうありたいと思っていますか」と問う時間だと思います。自分のやっていることがその会社の存在に合致しているのかを問いつづける作業であることが、「アイデンティティをつくる」ということの大切な要素なのではないでしょうか。

田中:タカヤさんのようなアイデンティティづくりのプロにお願いすることで、会社として考えていることや向かっていきたい方向性を翻訳していただいた感覚があります。半歩先からみてセンターピンを立てていただけたからこそ、その先の未来までを見据えたクリエイティブジャンプを狙うことができたのかなと。

自分にとっては非常に苦しい2か月でしたが、「今後使っていくものを狭めたくない」という想いの方が強かったですし、入社したばかりでまだよく分かっていなかった「Gaudiy社のあり方」みたいなものが、このプロジェクトを通じて理解できたような気がします。

── 最後に、Gaudiy社の今後の展望について聞かせてください。

田中:リブランディングのリリースと同時期に、サンリオ社とのSNSサービスの共同開発や、金融関連の研究開発を行う新会社「Gaudiy Financial Labs」設立についてもリリースを行いました。会社としても、これまではプライベートチェーンとしてGaudiyの中だけでブロックチェーンの仕組みを構築していましたが、パブリックチェーンに切り替えを行い、世界と接続していくフェーズに突入しました。ここからさらに大きな挑戦へと向かう中、ロゴやビジュアルによって、難しい課題に対して挑みつづけるGaudiyの姿勢を表現できたのではないかと思います。目指すゴール「ファン国家」実現に向け、さらに動きを加速させていきたいと思います。

 

 

2023年12月2日(土)、3日(日)に開催される「Spectrum Tokyo Festival 2023」では、株式会社Gaudiyがブース出展を行います。今回のお話はもちろん、プロダクトデザインなどについてもメンバーのみなさんに直接お聞きできます。是非ブースにお立ち寄りください!
https://fest2023.spctrm.design/

 

提供
株式会社Gaudiy

Written By

長島 志歩

Specrum Tokyoの編集部員。映画会社や広告代理店、スタートアップを経て2022年よりフリーランス。クリエイターが自らの個性を生かして活躍するための支援を生業とし、幅広くコンテンツづくりやPRなどを行っている。

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