北欧の老舗デザインスタジオKontrapunktで語る、日本の魅力とデザイン文化の違い

2021年9月、私は北欧のデザインカンファレンス「Design Matters」の運営を手伝いにデンマークのコペンハーゲンへと飛びました。この時期、ちょうどデンマークではパンデミックが減少傾向にあり、すべての制限が解除されたのもあり、コロナなんてなかったかのような街の雰囲気に最初は戸惑いました。

滞在中、コペンハーゲンの老舗のデザイン会社であるKontrapunkt(コントラプンクト)を訪れる機会がありました。同社は東京にもオフィスを構えており、国内だとDenso、三菱自動車、資生堂やアシックスなどのデザインを手掛けている会社です。

私はKontrapunktのPhilipとTroels、そしてDesign Matters主宰のMichaelとランチミーティングをし、彼らが北欧のデザイナーとして日本をどのように見ているか、そして日本企業とのプロジェクトに取り組んでいる間に直面した文化の違いについて話しました。

Kontrapunktはコペンハーゲンの中心部に位置しており、ホテルから自転車で行ったほうが速いとのことで、ホテルで自転車を借りました。デンマークでは自転車での移動が一般的で、どこでも自転車専用レーンがきちんと整備されているのが特徴的です。

小雨が降る中、Design MattersのMichaelと自転車でKontrapunktに向かう

オフィスではPhilipとTroelsが出迎えてくれました。ランチタイムだったので、社内のカフェテリアから美味しい食事を頂きつつ、雑談が始まりました。そのカジュアルトークの一部をお届けします。

左がPhilip、右がTroels
カフェテリアからとってきたランチ。とても美味しかった

なぜ日本という国に興味を持つのか

Philip: 日本は常に私たちのインスピレーションの源なんです。そして、それは世界中の他の多くのクリエイティブな人々にも当てはまると思いますよ。

Ryo: それはどうして? 北欧デザインは日本でも大人気で、憧れの対象にも近いのですが、そんな北欧のデザイナーが日本に対してそう思っているなんて、ちょっと意外です。

Philip: いくらでも説明できると思います。日本といえば、太平洋のど真ん中にあり、2つのプレートの上にあるが故に、何千年にもわたって多くの自然災害に見舞われてきました。また、近年では中国という超大国のプレッシャーがありつつも、世界とは一線を画す独特の文化を守り、育んでいます。

日本に降り立つと、人々の謙虚さにも驚きますが、何よりも数千年もの間に培われたその豊かな遺産と文化を真っ先に感じとることができます。この時間の感覚は、すべてのペースが速い他の国とはまったく異なります。

そして、私が個人的に感じる帰属意識というのもあって、これらの文化、歴史、物語のすべてを掘り下げた上で、どう蘇らせることができるかを考えたいんですよね。少なくともKontrapunktでは、過去の遺産はインスピレーションの最大の源の1つですし、それを最も代弁してくれているのが日本という国なんだと思います。

Michael: でも同時に、デジタル化に対して日本が苦労しているのも、そのためかもしれないね。

Philip: そのとおり。たとえば、アメリカは世界で最も歴史浅い国の1つで、何をするにもペースが速くハイテクな国なわけですが、一方で日本は逆に豊かな歴史があり、特定の技術においてはペースが遅い部分もあるかもしれませんが、まだまだ高度な部分もある。そしてヨーロッパはおそらくその中間くらいのところにいるんですよね。

どちらが悪いというわけではなく、どちら側からも学ぶことはたくさんあると思うし、そういった文化を醸成することには非常に興味ありますね。

ミニマリズムと複雑さの共存

Troels: 日本を語るときに大事な要素として「コントラスト」があると思います。たとえば、日本には静かで落ち着いた雰囲気と美しい自然を備えた高級旅館がある一方で、そこら中がネオンの光と音に溢れ、処理しきれないくらいの情報で混沌としているにぎやかな東京の街があります。そんな眠らない街を有していながらも、また同時に素晴らしい田舎の風景や、書道、食べ物などがあります。このコントラストを体験できるのはとても楽しいんです。

Philip: 確かに日本にいると、あらゆる場所でコントラストを見つけることができますね。本当にクレイジーすぎます。

Ryo: 複雑さにも焦点を当ててもらっているのは興味深いですね。特にデジタルデザインの観点からいうと、デザイナーはできるだけシンプルでミニマルなデザインをつくることに集中する傾向があります。しかし国産品を見ると、必ずしもそうとは限らず、デザイナーは国産品の複雑な構造をあまり誇りに思っていないことがよくあります。おそらく、多くのプロダクトはユーザビリティの点では非常によく設計されていますが、必ずしもビジュアルとして見栄えがしないからでしょう。

ですが、いわずもがな日本のデザインはミニマリズムだけではありません。複雑な情報と対峙し、使いやすいようにデザインできることも私たちの強みだと思うので、二人がそう言ってくれるのはとても励みになります。

Philip: Ryoの言っていることもとても興味深いです。コントラストは、日本に来るときに私たちが常に意識していることの一つでもあります。そして日本のこの物語を語るときには、ミニマリズムのみや複雑さのみを単体に語るのではダメで、重要なのは両方であり、それが本当にバランスを生み出すものとして語らなければ意味がありません。

Michael: しかしデジタルデザインに関して言えば、日本のデザイナーはミニマリストではないことは確かです。それが悪いという意味ではなく、実際に機能する新しい方法を見つけることが課題なんだと思います。もっとリサーチをして、日本のWebサイトでの好事例を見つけ、その新しいスタイルをコミュニティに浸透させるべきでしょう。

Ryo: 私たちは欧米諸国からの手法やスタイルを採用しすぎている気がしています。私たちはデザインをシンプルでミニマムにすることを是とする傾向がありますが、複雑さをポジティブな側面として議論することはあまりしていないように思います。Philipが言うように両方の側面をポジティブに捉え、バランスを取ることで、私たち日本人ならではのデザイン手法があるのではないかと思っています。

Troels: 大事なのは、新しいトレンドやソリューションを受け入れることだと思います。新しいプロジェクトがあるたびに、あらゆる方向からアイデアを受け入れる必要があります。ミニマルなデザインやその他のスタイルのデザインだけをやるのに甘んじてはいけません。特に議論を開きたい場合は、ずっと同じ人と話をするべきではありません。それこそ、コントラストやギャップが大きくなってしまうからです。

これは私たちKontrapunktが得意なことでもあります。プロジェクトを開始するときはいつでも、ゼロから始めて、すべてのプロジェクトを新しい機会と見なします。それぞれが特定のスタイルを持つことは大事ではあるし、素敵なアウトプットが生まれるかもしれませんが、それに甘んじて同じことを続けていると、イノベーションが失われてしまいます。

Michael: それは本当にそうですね。(私たちDesign Mattersは)常に良い事例を見つけて、デザイナーにステージに上がるように仕向けて、なぜそれが良いのかをひたすらに説明し続けてもらうしかないですね。

シェアリング文化という課題

Philip: しかしそうなったときに、日本での最大の課題は「シェア」ですね。知や意見の共有をすることは日本ではとても難しいと感じています。

Ryo: 確かにそうですね。特に大企業や歴史のある企業に関しては、知識を共有はかなり難しいです。

Troels: もちろんそういった守秘義務も問題ですが、社内のチーム内での共有も問題だと思います。

たとえば、ここデンマークで何らかのプロジェクトに携わる場合、誰がアイデアを思いついたのかは関係ありませんよね? それはただのオープンディスカッションのようなものです。でも東京で働いていたときに感じたのは、強いヒエラルキー構造のせいか、従業員の皆さんが自分のやったことを見せることに非常に臆病になっていたことです。

まるでみんなが自分の順番があるかのように話すので、最初は本当にフラストレーションが溜まりました。やがて僕は自分の外国人としての立場を活かして、どんどんアイデアを投げ込むことでようやくディスカッションが始まりました。

私がそうすることが彼らにとっては少しペースが早すぎるのではないかとも思い、少しおっかなびっくりなところもあったのですが、同時にプロジェクトのゲストである私が率先してアイデアを投げ込むことが最適解だとも思っていました。ヒエラルキーの外にいる私だからこそやるべきだと思いましたし、実際そうすることで全員が何かを言える雰囲気を作れました。

Ryo: 素晴らしい。外国人としての立場をフル活用しましたね!

でも皆さんからたくさん学ぶことができるスタイルもある一方で、現在の日本人のスタイルも完全に悪いとは言えない気がします。

日本人は静かで話し方に注意を払うことが多く、話し合いがそれ故に遅くなることもありますが、それは彼らの頭の中で多くのことを考えていることでもあるんですよね。なので彼らを良い方向に突くことで、より巧妙な良いアイデアが出てくることもあるんじゃないかと。それが私たちなんだと思うし、ここでも2つのスタイルでバランスを取ればいいんじゃないかなと思います。

・・・

しばらくして、MichaelとPhilipは別件があり、私とTroelsはもう少し会話を続けました。それはまた別の記事で。

オフィスのベランダからは立派なシティホールが見えました

Written By

三瓶 亮

Spectrum Tokyoのファウンダー。東京のデザインファーム、フライング・ペンギンズにて新規事業としてSpectrum Tokyo、また会社自体のブランド戦略も担当。グローバルデザインカンファレンスDesign Matters Tokyoもオーガナイズ。90年代のパンクロックとテレビゲームが大好き。

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