誰もが発信を業務にする時代。「note pro」はオウンドメディアの旗手となるか

日本を代表するメディアプラットフォーム「note」。そのなかで法人向けにさまざまな機能を提供し、各社のオウンドメディアの構築・運営を支援しているのが「note pro」です。記事を書いて発信することが業務として定着していく過渡期にあるなかで、担当者の課題をどのように捉え、支えているのかお聞きしました。

山崎 凌 | note株式会社 プロダクトデザイナー

制作会社や事業会社でデザイナーとして従事。その後、2023年にnote株式会社へ入社。現在は法人向けの高機能プラン「note pro」のプロダクトデザイナーとして、新機能の開発や顧客のサクセスを支援する体験設計などを担当。

noteの世界観の上に広がる法人向けサービス「note pro」

── はじめに、「note pro」について教えてください。

山崎:メディアプラットフォーム「note」を母体とした、法人向けの高機能プランが「note pro」です。ブランディングや採用、コミュニティづくりなど、幅広い目的をカバーする機能・サポートを提供し、企業がユーザーとつながって関係を深めるための支援をしています。サービスの世界観はnoteに準じており、デザインシステムも同じものを使用することで、noteと一貫したユーザー体験を創出しています。

── noteとnote proで、設計思想において何か違いはあるのでしょうか?

山崎:「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」のミッションの通り、noteはすべての人に開かれたプラットフォームを目指していますが、note proは発信を通じた法人のビジネスへの貢献がゴールであり、この違いがサービスの設計にも現れています。

たとえば、noteではデザインする際にペルソナを定めることがほぼありません。対象を絞ることでユースケースが限定されてしまうと、ある属性の方には使いやすくても他の属性の方には使いにくいということが起こりうるため、そのどちらもカバーすることを目指すnoteにはペルソナというものが適さないのです。

一方、note proには「企業のオウンドメディア担当者」という明確なペルソナがあるのが大きな違いです。ただし企業によって発信の目的はさまざまなので、さまざまなケースを考慮して機能やデザインへと落とし込んでいます。

発信が「業務」になることで、求められるものが変わる

── 企業のオウンドメディア担当者の実態を理解するために、どのような取り組みを行いましたか?

山崎:業務内容をヒアリングしたり、カスタマージャーニーマップを作成したりして、チームで議論を重ねました。

「採用広報」などの企業の発信に関するワードが注目されるようになる中で、都心部のIT系企業・大手企業に限らず、多くの企業が情報発信に力を入れはじめています。これまで全く発信に関わってこなかった人が発信担当に抜擢され、いきなり記事の制作を担当するといったケースも少なくありません。さまざまな業務で多忙を極めるなかで、定期的に記事を書いて発信する作業を組みこんでいただく必要があるため、オウンドメディア運営に関する部分だけでなく、担当者の業務全般とそのプロセスに対しても理解を深めることを目指しました。

担当者の業務を網羅的にまとめて理解を深める

── noteのユーザーと違い、発信が「業務」となると向き合い方も変わりますよね。

山崎:そうですね。noteはいつ書いてもいいし、読むだけでもいいし、いろいろな楽しみ方ができるのが特徴ですが、業務でオウンドメディアを運営するとなると少しおもむきが異なり、執筆や発信にかかる工数の削減や成果の最大化の重要度があがります。noteでは記事を投稿すると「ほめてくれるコメント」を出すなど、定性的な部分を大切にした取り組みによってユーザーのモチベーション向上につなげていますが、note proではその先がより重要で、PVの向上や成果への結実が求められるのです。

noteの「投稿をするとほめてくれるコメント」

山崎:ただし、担当者は執筆経験が豊富とは限らず、オウンドメディアに対する認識も本当にさまざまです。そのため、カスタマーサクセスチームが丁寧にコミュニケーションを取りながら、目標とする記事のイメージや発信の頻度などを提案し、それぞれにあったサポートを行っています。

── プロダクトの機能だけでなく、カスタマーサクセスチームによるサポートが心強いのもnote proならではですね。

山崎:将来的にはそういった部分もナレッジ化して、機能として提供することもできるかもしれませんが、現状は直接コミュニケーションを取る方が効果的だと考えています。特に、中小規模の企業や広報・PRをおひとりの方が担当されている企業では、リソースが不足していたり、社内に相談する相手が少ないという声もよく聞きます。カスタマーサクセスチームが相談相手となって発信の継続を支えるなど、プロダクトの機能で解決していく部分と、人間が担うべき部分のバランスを意識しています。

インハウスエディターチームの知見を活かした「AI執筆サポート」

── 工数の削減や成果の最大化を実現するために、どのような機能をデザインされたのでしょうか?

山崎:担当者の「書けない」を解決するために、AIを用いた機能を3つ提供しています。

ひとつめが「AIアシスタント」で、執筆画面上でチャット形式のAIを呼び出して相談できる機能です(2023年4月より全ユーザーが利用可能に)。ふたつめが「AIレビュー(β)」。公開設定画面上でAIが記事をチェックし、配慮が必要な表現があった場合に自動でアラートを出すというものです。そして、記事執筆に苦戦している担当者にとっておそらくもっとも助けになるのが、録画データや音声データを元に、AIが文章の成形や土台となる文章の生成まで自動で行う「AI執筆サポート」です。

note社としてAIを使って業務効率化に取り組んできた経験から、ユーザーへの価値提供にもAIを活用できると考えました。担当者の困りごととしても「記事の正解がわからず、執筆のハードルが高い」「文字起こしが面倒」「業務中に執筆の時間をとれない」という声が多かったため、その部分にAIを活用すべく開発を進めてきました。

── 担当者が抱える課題を踏まえ、AI執筆サポートではどのような体験の提供を目指したのでしょうか?

山崎:企業の発信ではインタビュー記事を制作するケースが多いですが、制作は取材、文字起こし、構成案作成、編集など手順が多く、担当者の負担が大きいことに課題がありました。そのため、フォームから取材データを送信して取材形式や参加人数を入力するだけで、いい感じの記事案を生成できるようにしました。AIへの慣れや距離感もさまざまだったので、プロンプトの調整など悩ませてしまうポイントを極力減らすことで、誰でも迷わず使える体験を目指しました。

簡単なステップだけでAIが記事案を生成してくれる「AI執筆サポート」

── 企業ごとの個性が記事に現れるように、考慮した点はありますか?

山崎:企業の魅力や個性は、そもそもの生の声に宿る部分が多分にあると思うので、お手本記事の共有などを通じて「取材段階で何を聞くとよいか」をレクチャーしたりしています。これは、あくまで人力でのサポートです。

AI執筆サポートでできることとしては、「文字起こし」「Q&A形式のまとめ」「構成案」「仮原稿」の4種類のアウトプットをセットで提供することで、担当者が自身の執筆レベルやスタイルに合わせて選べるようにしました。書くことが得意な方であれば、文字起こしから文章を組み立てて自分のイメージに合わせた編集ができますし、苦手な方であれば、ある程度形ができている仮原稿を微調整すれば、すぐに公開することができます。

ちなみに開発段階では、note社内のインハウスエディターチームからフィードバックをもらって、4種のアウトプットを出力するプロンプトのブラッシュアップを行いました。本職の方々からさまざまな視点で意見をもらえたのは、とても良かったですね。

── どのような意見やフィードバックがありましたか?

山崎:文章量や文体についてのフィードバックがありました。

文章量については、各インタビュー時間に対して適切と考えられる原稿の文字数などのフィードバックをもらいました。それにより、たとえば、1時間ほどのインタビューのデータであれば、3,000~5,000文字くらいの原稿が作成されるように調整していきました。実際にプロンプトを細かく変えながら、読む人の集中力が保てるように、長い文章になりすぎないようにしています。

文体については、原稿をつくる際に話し言葉をそのまま文章にしてしまうと読みにくく感じるという課題がありました。うまく書き言葉に変換しつつ、読みやすい文体になっているかインハウスエディターチームからフィードバックをもらい、硬い文章でもラフな文章でもない、ちょうどいい塩梅を探っていきました。

── AI執筆サポート全体として、どのような部分に最もこだわりましたか?

山崎:技術がものすごいスピードで進化し、1ヶ月後にはもっと高性能なAIが登場する可能性があるなかで、機能をどこまで固定するのか、どこまで更新をかけるかの判断が非常に難しく、その検証のために、まずは素早くリリースしてフィードバックを得ることを大切にしました。たとえば、AI執筆サポートの(α)版では、データをアップロードするフォームを、内製ではなく外部サービスのものにすることで、開発にかかる工数を押さえました。noteとしては珍しいことですが、素早く検証を行うための判断でした。

長期的な目線を持つことで、noteと世界観を共有する

── noteとはさまざまな面で相違点もあるnote proですが、プラットフォームとしての一貫性を鑑みて、やらないと決めていることや、やるかどうかの議論をしたものなどはありますか?

山崎:note proの機能が、法人ユーザーだけに閉じた機能にならないように意識しています。短期的にはそうであっても、長期的にはすべてのユーザーに開放されても問題ない形で、汎用性を持って展開できるデザインや実装方法をとるようにしています。これが、ひいてはnoteという世界観の一貫性を維持することにもつながっていると考えています。note proからnoteへの展開だけでなく、noteの機能をnote proに転用するケースもあるので、双方で活用できるような開発を心掛けています。

また、note proの記事を優先的にプラットフォーム上で目立たせる、といったことは行っていません。優遇によって短期的な成果にはつながるかもしれませんが、note全体のレコメンドの仕組みが損なわれ、サービス全体の体験性に影響を及ぼしてしまうからです。

大切なのは、長い目で見てクリエイターへの還元ができること、サービス全体で成長できることであり、開発においてもその点を重要視しています。note proでのオウンドメディア運営においても、1か月で成果が出るものではなく、半年、1年と継続しながら企業と読者がコミュニケーションを重ねていくものだと考えており、その点もnoteと一貫しています。

── noteの世界観が、note proにもしっかり根付いているのですね。

山崎:note全体としてのスタンスに関わる部分でもうひとつ。AIを活用したさまざまな機能が実装されましたが、AIはあくまで発信の負担を軽減して伴走してくれるツールであり、創作を奪うものではなくサポートするものだとする考え方を徹底しています。機能がどれだけ良くても、使う人にポジティブな印象を与えるものでなければ、実際に使ってもらえるものにはなりません。クリエイター視点に立って、気持ちよく使えるものであることを大切にしました。

オウンドメディアが「自分ごと」になる未来のために

── 成果を求める企業のニーズに答えるための機能や施策はありますか?

山崎:記事内のリンククリックや検索流入経路などを分析して情報提供するなど、アナリティクスデータの出し方や見せ方に力を入れています。継続的に効果的な発信を行うには、データを見ながら振り返りを行い、次に活かすことが重要だからです。

ただし、そもそもオウンドメディアで情報発信すること自体、まだまだ多くの企業にとっては「よくある業務」ではないんですよね。note proに類似するサービスもほぼないですし、PDCAを回しながら継続していくナレッジが、実はあまり一般的なものではないのかなと。

── 確かに。あるとしても、これまで主に把握していたのは制作支援会社側だったりしますよね。

山崎:担当者のなかにはオウンドメディアのアナリティクスデータ自体に触れた経験がない方も多く、データを提示しても、重要な点を見過ごされてしまうこともありました。そのため、データのラベリングなどは、実際に担当者に見ていただいて反応を確認しながら変更を重ねています。

たとえば「読者の興味」という、自分の記事を読んでくれている人がどんなことに興味を持っているのかがわかる分析機能があります。もともとは、「読者属性」という名称で開発を進めていましたが、担当者がデータを見て改善につなげられるようにストレートに伝わる機能名に変更し、どのようにデータを活かすかなどの説明文も加えることにしました。

担当者がわかりやすいものを目指し、アナリティクス画面も改善

山崎:担当者のなかには普段は執筆・発信などの業務を行っていない方も多いため、「これで伝わるだろう」と僕たちが考える言葉の選び方が最適とは限りません。だからこそ直接声を聞いて、調整していくフローが必要なのです。

総じてオウンドメディア自体、まだまだ担当者が自分ごと化しにくいケースもあることを受け止めて、取り組む必要があると考えています。

加えて、企業の情報発信は労務や総務業務のような「Must have」なものではなく、「Nice to have」なものだと思います。そうでありながらも、普段の業務にプラスして取り組んでいただく必要があるわけです。

であれば、工数削減や発信のハードルを下げるというメリットは「数%楽になる」程度ではだめで、「圧倒的に楽になること」が必要です。普及しているBtoBサービスはMust haveが一般的ななかで、Nice to haveなサービスであるnote proに求められるのは、圧倒的な業務変容をもたらせるものであること。そのことを常に念頭に置いて、これからも機能開発や改善に臨んでいきたいと思います。

── 最後に、今後の展望についても教えてください。

山崎:発信を続けていただくことはもちろん、今後は法人のビジネス成果に貢献するという点をさらに強化していきたいと考えています。noteという大きなプラットフォームの集客力や、そこに存在する多くのクリエイターのナレッジを、今まで以上にnote proに還元していくことで、PVの先にある成果へとつなげていければと思います。

提供 note株式会社
note pro サービスページ https://pro.lp-note.com/

Written By

長島 志歩

Specrum Tokyoの編集部員。映画会社や広告代理店、スタートアップを経て2022年よりフリーランス。クリエイターが自らの個性を生かして活躍するための支援を生業とし、幅広くコンテンツづくりやPRなどを行っている。

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