「なりたい自分」は日米でどう違う?海外ユーザー8割の「REALITY」が向き合う多様性

アバターを使ったライブ配信を楽しめるアプリとして、日本のみならず海外でも人気を博している「REALITY」。徐々に一般的になりつつある新しいエンタメ、新しいコミュニケーションとして、彼らはどのようなことを大切にしているのでしょうか?デザイナーの山本さん、海外展開を担当する岩朝さんにお話を伺いました。

山本宗学 | REALITY株式会社 Platform事業本部 Product部 プロダクトデザインチームマネージャー

観光系スタートアップを経て、1人目UIデザイナーとしてREALITYに入社。趣味は料理で、最近は山椒を使った料理にハマっている。

岩朝 暁彦 | REALITY株式会社 Platform事業本部 Global Strategy部 部長

コンサルティング企業、株式会社ディー・エヌ・エーを経て、2023年にREALITYに入社。入社後は、ライブ配信事業の国内事業責任者を経て、現在は海外事業責任者。

アバターと共に「なりたい自分で、生きていく」未来の実現を目指す「REALITY」

── まずはじめに「REALITY」について教えてください。

山本:REALITYは、誰でもスマホ1台でアバターの姿になってライブ配信やゲーム配信、チャットなどバーチャルなコミュニケーションを楽しむことのできるアプリです。

スマホ1台でアバターの姿になって、ライブ配信やチャットなどを楽しむことができる「REALITY」

山本:私たちは「なりたい自分で、生きていく」というビジョンを掲げています。人は肉体の制約から解放されたら、もっと自由に自己表現やコミュニケーションを楽しめ、新しい自分の可能性を発見できるはずです。そう考えて、REALITYはアバターでの配信に特化しています。

今ではVTuberという言葉が当たり前になりましたが、サービスリリース時から一貫して「誰でも簡単にアバターを使って生活できる」世界を目指してきました。

── 初心者にとって配信のハードルが低いことを特徴として掲げられていますね。どういった設計や機能でそれを実現しているのでしょうか?

山本:敷居を下げて「気づいたら配信に参加していた」状態へと誘う機能を多数備えています。たとえば、誰かが行っている配信にゲスト参加できる「コラボ配信機能」。参加すると視聴者と交流できるので、意気込んで配信することがなくとも「視聴者からのコメントに反応したら、みんなが喜んでくれた」などと疑似的に配信者の体験を味わうことができます。

他の人の配信にゲスト参加できる「コラボ配信」

岩朝:他社のライブ配信アプリでは、配信者と視聴者でユーザーが明確に分かれていることがほとんどです。その場合、配信者が他の人の配信を見にいくのはある意味営業活動のようなもので、楽しむためではありません。

一方REALITYは、配信者と視聴者を明確に区別できないぐらい混ざりあっていることが特徴です。

そのため、配信者も一般的にVTuberからイメージされる姿とは少し異なります。自分のことを芸能人のような特別な人だと認識しているケースは稀で、ただREALITYの中で知り合った友だちと話しているうちに自然に配信者になっていたという感覚の方が多いです。この点が、REALITYのユニークなユーザー体験だと考えています。

ユースケースの横展開で、多様な楽しみ方を歓迎する

──REALITYのサービスづくりのプロセスや考え方において、特徴的な点は何ですか?

岩朝:たとえば「配信」というひとつのユースケースを突き詰めて、よりリッチに、より高度にという方向で「縦に機能を積んでいく」のではなく、さまざまなユースケースに向けて「さまざまな機能を横に展開する」ことでユースケースを拡張していくような開発のアプローチをとっていることでしょうか。

たとえば、一般的な配信機能である「ブース配信」以外に、部屋のセットを斜め上から見下ろして箱庭のような楽しみ方ができる「ルーム配信」があります。そこで部屋の模様替えをしたり、洋服をコーディネートして独りで楽しんでいる方もたくさんいらっしゃいます。ユーザーがこちらに流れる分当然ブースでの配信率は下がるわけですが、それもひとつのユースケースだと考えています。

さまざまな楽しみ方が生まれている「ルーム配信」

岩朝:2022年に追加した、チャットから友だちに「ビデオ通話」をかけられる機能は、もはやライブ配信でさえありません。それでも、SNSのように配信者と視聴者との間の境界を曖昧にした楽しみ方ができる点が受け入れられています。

──多様なユースケースを生む機能があることで、サービスにはどんな影響がありますか?

岩朝:さまざまなユースケースを入り口にしてユーザーに入ってきてもらい、楽しむ中でまたさまざまなREALITYの使い方が「発見」され、それを入り口としてさらに幅広いタイプのユーザーが入ってくる……という良い循環が生まれています。

山本:もちろんREALITYをライブ配信する場所と捉え、お金を稼いだり他者からの承認を得ることを目的としているユーザーもいます。私たちはそのために必要な機能も用意していますし、それもひとつのあり方だと思っています。

ただし根底にあるのは「アバターを使ったコミュニケーションや自己表現の場の提供」なので、ライブ配信だけを軸にしていたら生まれないような機能を多数備えているわけです。それが結果的に、今のような配信者と視聴者とがいい案配でグラデーションになるような関係性をつくれている理由だと考えています。

──とはいえREALITYとして守りたいラインであったり、サービスとして一貫する軸も必要だとは思います。どのように考えていますか?

岩朝:そこはまさに苦心しているところです。SNS軸もあればライブ配信軸もあり、さらに着せ替えや箱庭を楽しむアバターサービスとしての軸もあり、あちらを立てればこちらが立たずという状況がどうしても発生してしまいます

たとえば「アバターや部屋の模様替え」ひとつとっても、配信中にしかできないようにするのか、配信中でなくてもできるようにするのかの判断が必要で、ライブ配信軸とアバター軸との間にコンフリクトが起こっていると言えます。こういった部分に関しては定期的に見直しを行い、少しずつチューニングしているところです。

──機能の仕様を決める際もそうですし、そもそもどの機能を実装するのか優先順位を決める際にも多様な軸のユーザーの存在を考慮する必要がありそうです。

岩朝:ユースケースが多様である分ユーザーも多様であり、あるユーザーから見たときに、自分にとってあまり有用ではない機能のリリースばかりが続くと満足度が下がるかもしれません。そのため、バランスを大切にしています。全体として見たときに、過度にある軸だけが必要以上に満たされていたり、反対に満たされていなかったりしないように、ユーザーの満足度や不満度、重要性についてのバランスが一目でわかるように、毎月プロット図をつくって確認しています

毎月つくっているプロット図

岩朝:この図では、意見の重要度とそれに対する要望の強さについて、項目別にプロットしています。こうすると、たとえば「アバターに関する施策を実施すると、アバターに関する項目のリクエスト度が下がる」など状況が可視化されるわけです。この図を参考にしながらバランスをとって施策を繰り返すことで、リクエストが来ているものとみんなが満足しているもののばらつきを収束させるようにしています。

求めるものは原体験に起因する?日本と海外で異なる楽しみ方

── 海外のユーザーも増えていますが、日本とはどのような違いがありますか?

山本:ライブ配信軸でいうと、海外ではコラボ配信など誰かと一緒に配信する比率が日本と比べてもかなり高いです。それ以外に、ビデオ通話の利用なども圧倒的に多いですね。

岩朝:アメリカ市場を例にあげると、彼らのライブ配信の原体験はTwitch(Twitch Interactivが提供するライブストリーミング配信プラットフォーム)にあります。対して、日本の場合の原体験はニコニコ動画ではないでしょうか。この原体験の違いが、ユーザーの期待の違いに大きく関与していると考えています。

Twitchでは対戦ゲームをプレイしながらのゲーム配信が多く、インタラクティブな配信の中で他者のリアクションも含めたコンテンツを楽しむものです。ゲームという刺激に対して配信者がリアクションし、その様子をオーディエンスが楽しむという二重構造になっています。そのため、配信者に対して視聴者が反応できる刺激の元がないと配信が続かないのが、アメリカをはじめとした主な海外の特徴です。それが、コラボ配信やビデオ通話の利用につながっているのでしょう。

一方でニコニコ動画は、クリエイターが投稿した動画に対して視聴者が各々でコメントして応援したり、いじったりします。つまり配信者に対してではなく、視聴者同士が刺激しあえる構造です。そのためライブ配信でも、その場での人と人とのコミュニケーションが続くことが、配信の原動力になっているように見受けられます。この原体験の違いが、大きなユースケースの違いを生んでいるのではないかと考えています。

── 原体験に起因して配信体験に求めるものが異なるという考え方は、おもしろいですね。どうやってその違いを見つけたのでしょうか?

岩朝:チームにはアメリカとカナダに長く住んでいるスタッフがいて、彼らとのコミュニケーションの中でわかることもたくさんあります。また、彼らが現地でユーザーインタビューする中でも、「REALITY、ここが変だよ」という話をたくさんもらうんです。そのコミュニケーションこそお互いのギャップが判明する瞬間であり、さらに話を聞いたり調べたりしていく中で、先ほどの原体験の違いのようなポイントが浮かび上がってきます。

ただし違いがあるからといって、「そんな使い方、想定の範囲外なんだけど」と否定するつもりはなく、さまざまな楽しみ方を歓迎しています。日本生まれのサービスだからといって日本風を強制するのではなく、僕たちの固定観念を飛び越えていくような体験をつくれたらと思っています。

より多様な「なりたい自分」に応えるために。アバター大型アップデートの背景

── 24年5月末に、アバターに関して大型のアップデート「REALITY Avatar 2.0」がありましたね。さまざまな民族的・文化的背景やアイデンティティが表現できるようになったそうですが、この施策の背景や狙いについて教えてください。

山本:現在、ユーザーの約8割は海外の方です。そんな中で、徐々にアバターに対して「もっと自分の顔や体格に近づけたい」「REALITY上のアバターと自分自身にギャップが大きすぎる」といった要望をいただくことが増えてきたんです。私たちとしても、もっとさまざまな国や地域の方々の求めるものを実現していきたいと考えた結果、今回のアップデートに至りました。

5月末に行われた大型アップデート「REALITY Avatar 2.0」

── アバターに対する反応は国毎に違いそうですが、実際はいかがでしょうか?

岩朝:国単位で語るのも難しいのですが、やはりいくつかの傾向はあります。

たとえば、一般に黒人とくくられる方の中にもさまざまなルーツを持つ方がいて、肌の色にも違いがあります。リリース当初は肌色が10色しか選べず、「自分のアイデンティティが表現できない」という意見をいただきました。現在では肌色数を30に増やし、今後は肌色の自由化なども検討して、すべての人が自分自身を正確に表現できるようにしたいと考えています。

それとはまた別の観点で、海外では自分のありたい姿を人間以外のもので考えている方も多数いらっしゃいます。悪魔や宇宙人、動物のキャラクターなど、人間を飛び越えたアイデンティティを持つキャラクターが、私たちが想像する以上に人気を博しているんです。

── そのような違いもあるんですね。

岩朝:これも原体験に紐づくものだと考えています。日本では、アニメやマンガなど子どもの頃に触れるエンタメ作品に登場するキャラクターはほとんどが人間ですが、アメリカで放送されている子ども向けのテレビ番組では、『ミュータント・タートルズ』『ザ・シンプソンズ』など宇宙人や動物、記号的なキャラクターやデフォルメされたキャラクターなどが多いんです。「なりたい自分」を思い浮かべるときに、子どもの頃に夢見たものや楽しんだものが影響するのは、普遍的な現象なのではないかなと。

── そういった多様な「なりたい自分」を叶えるためのアップデートなのですね。

岩朝:そうですね。ただしこういった深いニーズは、表層的なペインとして現れることはほぼないので、拾いあげるのが非常に難しいです。「最近、なりたい自分になってないな」なんて思わないじゃないですか。「なりたい自分」というような深層のユーザーペインを自覚するようになるには、やはり長い時間使っていただき、多くの方と配信を通じて触れあっていただく必要があります

長い時間使っていただくとなると、やはりまずは基本的なサービス体験における心地良さなど、手が届く部分の設計が大切になります。ベースとなる体験を整えつつ、長期的な視点で深いニーズに対する価値も積み上げていく必要があり、とても難しいものづくりに取り組んでいるなと自負しています。

さまざまな「なりたい自分」への想いを実現できるように

海外での成功は、各市場と愚直に向き合うことでしか掴めない

── 現時点において、海外展開の感触はいかがでしょうか?

岩朝:はじめの頃は市場の成熟度、プロダクトの提供価値、受け止め方に日米でギャップが大きく「アメリカ市場で一定のポジションを獲得するのは厳しいのではないか?」と弱気になることもありました。歴史的にみても、日本のサービスがアメリカでメジャーなポジションを得た例があまりなかったことも不安材料でした。ただその時は、日本の仕様でそのまま輸出してハマるかどうかばかりを考えていたようにも思います。

考え方に変化があったのは、やはり現地スタッフと一緒に一つひとつユーザーの声を拾うことで、各地域のユーザーが評価するポイントを学び、日本ではあまり重視されていない部分を大事にしていることに気づいたり、先ほどの原体験の違いのような話をできるようになってからです。

日本発でグローバルアプリを目指すということは、そのまま輸出して各市場にぴったりはまるかどうかの戦いではなく、各市場における戦い方を愚直に学んでいって、少しずつ自分たちが得意な領域でプラスアルファを増やしていくことだと考えています。「それぞれの市場に合わせて細かく調整しなければいけない」と頭ではわかっていたつもりでしたが、汗をかいてやってみて、ユーザーの生の声として指摘をいただいて、やっと「まったくできていなかった」と気づくことができました。

全世界ダウンロード数は1,500万を突破(2023年11月時点)

── 海外では今、サービスの成長の中でどのぐらいのフェーズにいるのでしょうか?

岩朝:まだまだアーリーアダプターにも入っていないと考えています。「日本ではそのフェーズの頃に、こんなことをやった」という経験が参考になることはありますが、同じようにすればうまくいくかというと……そう簡単ではありません。

だからと言って、ランダムに何でも試していけばいいわけではなく、どの順序でどのような検証をしていくべきか熟慮しています。現地のローカルアプリをベンチマークすることで市場開拓において重要なことがわかるのか、はたまたREALITYのユニーク性を信じてそこはユーザーに聞けばいいのか。日本での成功体験をいったん脇に置いて、多様な選択肢の中からとるべきアクションは何かを考えるフェーズに差し掛かっています

── 今後のアクションにおいては、どのようなことを重視していますか?

岩朝:大切なのは、REALITYのビジョンである「なりたい自分で、生きていく」に立ち返り、それを海外の方が具体的な遊びや体験としたときに何を期待するのか、そしてその期待を越えていくにはどうしたらいいのかを考えることです。結局はユーザーの声を聞いて、欲するものを愚直につくっていくしかありません。多様なユーザーの期待がある分コンフリクトが起きることもありますが、どういうアクションをどういう順番で進めていくべきか、しっかりと考えながら選択し続けていきたいと思います。

取材協力
REALITY株式会社

バーチャルコミュニケーションアプリ「REALITY」

Written By

長島 志歩

Specrum Tokyoの編集部員。映画会社や広告代理店、スタートアップを経て2022年よりフリーランス。クリエイターが自らの個性を生かして活躍するための支援を生業とし、幅広くコンテンツづくりやPRなどを行っている。

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