選択肢を増やすための結婚式DX、『ゼクシィオンライン招待状』の挑戦

日本で形成されてきた冠婚葬祭の文化にいま、少しずつデジタルの選択肢が増えています。葬儀DXやブライダルDXの会社も増え、ビジネスとしても成長している分野ではありますが、トラディショナルな文化をデジタル化することは、便利に感じる人もいれば、昔からあるものを変えることに不安を感じる人もいるのではないでしょうか。

そんな中、株式会社リクルートが運営する総合結婚メディア『ゼクシィ』では、挙式するカップル向けに「オンライン招待状」サービスを提供しています。リリースされた2023年には2023年日経優秀製品・サービス賞 日経MJ賞を受賞するなど話題のサービスですが、すでに文化として出来上がっている結婚式の招待状をデジタル化するにあたって、どのような工夫や苦労があったのか。冠婚葬祭DXのリアルをプロダクトマネージャーの八木さん、川端さんにお聞きしました。

八木 彩夏 | 株式会社リクルート

インフラ系IT企業にてPMとしての勤務を経て、株式会社リクルートに2018年入社。『ゼクシィ』にて各種サービスにPdMとして参画。オンライン招待状プロジェクトは立ち上げから携わっている。

川端 彬子 | 株式会社リクルート

筑波大学・大学院にて情報デザインについて学び、リクルートに入社。HR領域・結婚領域(特に家族結婚式・少人数結婚式領域)にPdMとして携わる。2022年に育休を取得し、復帰後はゼクシィオンライン招待状のPdMとして、WEB招待状の認知拡大や結婚領域SaaSとしての新規価値検討・開発をおこなっている。

ゼクシィとは?

ゼクシィは婚活から結婚式、妊娠出産まで、結婚から派生するライフスタイルにまつわるコンテンツやサービスを展開している株式会社リクルートのブライダル情報サービス。結婚相手を探すための総合婚活サービス『ゼクシィ縁結び』、式場探しや結婚準備情報のオンラインプラットフォーム『ゼクシィ』、妊娠出産をサポートする情報を提供している『ゼクシィBaby』がある。ブライダルアドバイザーと対面で話せる『ゼクシィ相談カウンター』も全国に展開。

結婚式のDX、なぜ招待状からなのか

── ゼクシィはカップルのライフスタイルに合わせていろいろなサービスを展開されていますが、この中で一番新しいのが『ゼクシィオンライン招待状』なんですね。これはどういったサービスですか?

八木:結婚式を実施するカップルがゲストへ向けて招待状をオンラインで共有し、ゲストは出席または欠席をオンラインで返答できるサービスです。このサービスは導入している結婚式場を通して利用するものなので、挙式する会場で導入されていれば、利用することができます。

LINEやメールを通じて招待状を送ることができるだけでなく、式の雰囲気に合わせたオリジナルデザインの招待状を制作することもできますし、あわせてご祝儀もオンラインで送ることが可能です。

── 結婚式準備のタスクはいろいろあると思うんですが、そのなかでもなぜ最初に招待状をデジタル化したのでしょうか?

八木:理由としては大きく2つあります。ひとつは式場が決まったあと、結婚準備の最初のタスクがゲストの招待になるためです。そして2つ目は結婚式を挙げるカップルを調査した結果、特に手間のかかるタスクとして挙がっていたのが招待状だったので、顕在化しているニーズのここから始めようとなりました。

── 具体的にはどういったタスクがあるのでしょうか?

八木:全体を通して、カップル、ゲスト、そして会場のプランナーさん、それぞれに負荷がかかるタスクが多いんです。

こちらの図のように、カップルやゲストを行き来する工程が多くあります。招待状のデザインを決めたり、住所を印刷したり、切手を貼ったり、細分化するとさらにタスクが多くなります。住所が間違っていて届かなかったものなどがあれば、また住所を調べて再送したり、欠席者が出た場合は違う人に招待状を送って席を埋めたりと、実は想像以上に手間のかかる作業なんです。そして、この図では省略されていますが、実際はここにプランナーさんとのやりとりも複数発生します。

── そう言われてみると、細かくて手間のかかる作業や、カップルとプランナーさん側でのやりとりがかなり多く発生するものなんですね。

川端:自分の結婚式では紙の招待状を送ったのですが、招待状の種類や細かいチェック項目が多く時間がかかりました。招待状は数百以上の種類があり、手触りやデザインなどを現物を見ながら確認して決めていき、封筒の宛名印刷では間違えると知らない人に届いてしまう可能性もあるので、最終印刷された内容に問題がないか一つ一つ確認していました。

私自身、招待状にこだわりを持って取り組んでいたので満足ではあるのですが、全部もしくは一部をオンライン化するという選択肢があれば、もっと便利になるかも、と身をもって感じました。

── オンライン化する一番のメリットはどういったところでしょうか?

川端:私が思う一番のメリットは、カップルと会場で常に最新の参加者リストが共有されていることです。挙式準備の際に一番大変だと感じたのは、プランナーの方とのやりとりでした。呼びたいゲストのリストから、どのゲストが出席または欠席かの確認のためエクセルファイルでやり取りしたり、テキストで指示したりと混ざることもあって、最終的に同じリストを見て話ができているのか不安に思うことがありました。

オンラインのデータベースがあればゲストが入力したものがすべてリアルタイムで共有される状態になります。お互い常に最新のデータが見られるだけでもかなり安心感があるのではないでしょうか。

ゼクシィオンライン招待状』 使い方ガイドより引用

八木:双方が最新のデータを見られている状態が確定しているので余計な確認作業が必要なく、浮いた時間をそのままおもてなしの検討に当てられるのは、デジタル化するメリットですね。コミュニケーションが改善されることで割ける時間が大きく変わりますので。

また、オンライン招待状だとデザインもカスタムしやすく、楽しみな気持ちを持ってもらいやすいのも良いところだと思います。紙で招待状をもらうのも嬉しいですが、デジタルだと気軽に前撮りの写真を載せられるので、嬉しさを共有できる演出ができるのも良いところです。

── 招待状だけでなく、ご祝儀のオンライン受付もセットになったサービスですが、ご祝儀のオンライン受付にはどういったメリットがあるのでしょうか。

八木:ゲストが出欠回答をした後、ご祝儀を事前にオンラインで受付するか、当日会場に持参するか選択できます。オンラインで受付する場合、そのままクレジットカードで決済ができる機能です。結婚式を実施するカップルが希望する場合に使える機能です。

── ご祝儀袋や新札を用意しなくていいのは、助かるゲストが多そうですね!

八木:コロナ禍で非接触が推奨された際に取り入れられた、という経緯もあります。ゲストも助かりますが、カップルも名簿と紐づけられて計上しやすかったり、受付での紛失リスクが軽減されたり、オンライン決済によるメリットは大きいです。

私も友人の結婚式で受付係をした経験があるんですが、意外とやることが多いんですよ。ご祝儀を受け取って、芳名帳を書いてもらって、席次表を渡して、その他お車代などの特別な対応がないかの確認をして……。預かったご祝儀は受付係が挙式中ずっと肌身離さず持っていないといけない場合もあります。責任重大なので手放しに式を楽しめないこともあるかと思います。そこがオンライン決済になっていると、カップルも受付担当者も安心して式を楽しむことができると考えています。

使いやすさと従来の文化を融合させたこだわりのUIデザイン

──サービスを作っていく中で、特にこだわった部分はありますか?

川端:UIの使いやすさは特にこだわった部分のひとつです。

招待状に必要な情報の入力は想像以上にたくさんありますし、手紙の文面から会場の住所や電話番号など間違えられない情報ばかりで、気を張る作業です。その工程をステップを刻むことで入力しやすくしました。

ゼクシィオンライン招待状』 使い方ガイドより引用

案内文の部分はある程度例文を用意し、イメージに近いものを選択してもらうことで工数が省けます。また、会場の住所は会場側が用意したものが自動で連携し、極力自分で入力しなければいけないところを削減しています。そこは会場と提携している強みでもありますね。

加えて、サービス内で使っている言葉にもこだわりがあります。「新郎新婦」「花嫁、花婿」はウエディング業界でよく使われている言葉なのですが、より多くの方に使っていただけるようデザインしたく、「カップル」や「パートナー」、「お相手」などニュートラルな言葉を選んでいます。

── 招待状のビジュアルデザインについては、どのようにデザインしているのですか?

川端:ここはかなり調査を重ねて、厳選した40種類を用意しました。求めているイメージのデザインがない、前撮りの写真にマッチしたデザインがない、といったことが起きないように、それぞれのニーズに対応できるくらいの種類を揃えました。ただ、多すぎると選び切れないので、トレンドに即した40種類をご用意しています。かっちりしたものやカジュアルなものなど、多様なデザインがあり、それをゲストごとに送りわけすることもできるので、それはデジタルの利点ですね。

クラシカル、ナチュラル、和風などさまざまな種類のデザインを用意。自分の前撮り写真を使用できる
ゼクシィ オンライン招待状』より引用

手間が減れば、おもてなしにもっと時間をかけられる

── 結婚式の文化的な作法やマナーは多いですが、デジタルにするのに特に気を遣った部分はどういったところですか?

八木:ユーザーが不安に思う部分を理解し払拭することが、非常に大切だと考えています。手間を省くことやコストの削減が失礼にあたるのでは、と思う方もいますし、手書き、手渡し、手作りなど、時間をかけてやったほうが思いが伝わる、という考えをお持ちの方もいらっしゃいます。

また、結婚式は多くの人の人生の中でも特に大切なイベントなので、なにか新しいことをやるのが不安、少しでも違和感があるのは嫌だと感じるものです。なので、新しいことを取り入れることを躊躇する方が多いのではないでしょうか。「本当に失礼かはわからないが、わからないことはやめておこう」という思考になり、それが不安につながるようでした。

── そういったユーザーの不安に対して、どのように取り組んでいますか?

川端:まず、オンライン招待状のWebサイトや動画などには、便利で効率的な点以外にも「招待状にかかるお金が削減されたりその準備の手間を省けることによって、さらにおもてなしを充実させられる」というメリットも伝えています。実際、削減されたコストでゲストの料理やギフトを豪華にすることも可能です。また、オンライン招待状を導入することによって、返送やご祝儀の手間などゲストが助かることも伝えるようにしています。

そのような不安要素はゼクシィが行うリサーチデータから拾い上げて、プランナーさんや自社のメディアを通じて不安払拭につながる考え方を発信しています。使い始めていただければ、納得していただけると思っています。

参考:ゼクシィ 結婚トレンド調査2023

── 実際にオンライン招待状を使った方からはどのようなフィードバックを受けましたか?

八木:第一印象で「デザインがかわいい」というのはよく言ってもらいます。あとは、「設定が難しいのかと思っていたけど、やってみたら簡単でした」「使いやすかったです」などの意見が多いので、手間を削減することに寄与できているんだなと実感しています。

予想してなかった感想では、参加するゲストの人数が増えたという声ですね。オンライン招待状にすることで招待状を送るハードルが下がり、より多くの方にお声がけできたり、欠席が出たときに紙招待状よりも送り直しが簡単なので、別の候補の方を招待したりしやすいようです。

川端:意外なところだと、カップルから「電車通勤中のようなスキマ時間でも招待状を作ることができました」という意見もありました。想定してなかった使い方ではあるんですが、従来はカップルが揃って紙やWEBサイトを見ながら招待状を決めるという作業が、スマートフォンだけでお相手とチャットなどで会話をしながらタスクを完了できるからこそですね。「どこでもできるのが良い」と言ってもらえるのは想定外でした。

選択肢を増やし、文化をなくさないために

─ 今後結婚以外にもさまざまな冠婚葬祭がデジタル化されていくと予想されますが、伝統的な儀礼の文化をデジタルにするにあたって、おふたりはどのような点に気をつけるといいと思いますか?

川端:これまでの伝統的な文化と、新しいデジタルの文化、それぞれを尊重しながらサービス価値を上げていくことが大切だと思っています。どちらも良し悪しはありますし、これまでやってきたことを否定して、すべてを覆して文化を作り直したいというわけではなく、あくまで別の選択肢として私たちのサービスがあると思っています。

また、伝統あるものをデジタルにしていくにあたり、すべての人が一気に使い始めるのは難しいことです。私たちのやっていることも、少しずつ広まっていけばと思っています。

八木:手法がアナログでもデジタルでも、本質的な価値はかわらないものだと思います。すべてをデジタルに置き換えたいというわけではなく、選択肢を広げるという考え方です。それぞれの良さを伝えた上で、まずは選択肢を増やしていきましょう、という思いを持つのは伝統的な文化をデジタル化する上で共通して大切なことだと思います。デジタル化してみんなが使いやすくなれば、文化自体を守ることにもつながると思います。

川端:カップルにとってはお世話になった人をおもてなしをしたい、お祝いをしたいということが根本にあって一番大事なところです。なので、本質の部分を大切にしながら、効率化したいと思うところは効率化して、おもてなしのレパートリーを増やしていきましょう、というのは強く考えています。今後もさらに機能価値を広げていき、より充実した結婚式のための機能拡張を企画しています!

── ゼクシィの結婚式DX、今後の機能にも期待です。八木さん、川端さん、ありがとうございました!

参考リンク

ゼクシィ オンライン招待状
川端さんのSpectrum Tokyo Festival 2023での登壇資料

提供

株式会社リクルート

Written By

野島 あり紗

Specrum Tokyoの編集部員。マサチューセッツ美術大学を卒業後、ゲーム系制作会社やデザイナー向け人材サービスのスタートアップに従事し、2021年に独立。デザイン界隈のフリーランスとして現在は各種デザイナーの採用、執筆編集などを行う。好きなものはラジオと猫。

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