あらゆるエンタメを包み込む、U-NEXTのユニバーサルな設計思想
NetflixやAmazon Primeなど強豪が乱立するサブスクリプション型配信サービスの中で、右肩上がりの成長を続けている「U-NEXT」。日本発で多様なエンターテインメントを届ける彼らは、そのプラットフォームをどのようにデザインしているのでしょうか?
中島健|株式会社U-NEXT CX本部/プロダクトオーナー Senior Product Owner Lead
SIer、コンテンツ配信のベンチャー企業を経て2013年にU-NEXT入社。U-NEXTサービス全般のプロダクトオーナーとして従事。
平田章|株式会社U-NEXT CX本部/プロダクトデザイナー
2017年新卒入社。大学では情報学について学び、コンテンツ生成の研究をしていました。web: hira.page
鈴木カアイ|株式会社U-NEXT CX本部/プロダクトデザイナー
日本およびカナダ・バンクーバーでの複数社のスタートアップでの業務を経て2022年入社。Twitter: @kaaiszzz
佐野裕美|株式会社U-NEXT 広報
キネマ旬報を経て2014年U-NEXT入社。2017年より広報を担当。
400万人が利用する「いつでも、なんでも見れる場所」
── まずはじめに、「U-NEXT」について教えてください。
佐野:U-NEXTは定額制のコンテンツ配信プラットフォームです。レンタルビデオ店のようになんでも見られて、さらに自分の好きなときにいつでも見られるサービスをと2007年にスタートし、現在約400万人の方にご契約いただいています。Web版とアプリ版があり、デバイスとしてはテレビやスマートフォン、タブレット、パソコンなどでお楽しみいただけます。
佐野:2020年まで最も力を注いでいたのが、コンテンツのラインナップ数です。サービスの価値を感じていただくポイントとして、「見たい作品はすべてある」状態を目指して拡充してきました。
現在はこれに加え、さらに2つの戦略を打ち出しています。ひとつが「オールインワンエンターテインメント」で、映像以外にもスポーツや音楽、電子書籍などさまざまなジャンルが楽しめること。もうひとつが「オンリーオン」で、「U-NEXTでしか見られないコンテンツがある」こと。これら3つを軸に事業を進めており、現在映像コンテンツは33万本、電子書籍は94万冊を配信しています。
ジャンルの垣根を越えやすい設計で、エンタメの楽しみ方を広げる
── それぞれに特化した競合サービスもある中で、横断的にさまざまなジャンルを扱っているのが特徴的ですね。
中島:たとえばあるアニメを見た後、原作マンガを探したり、主題歌を聞いたり、出演声優さんの別作品を見たりするのは、人間の自然で普遍的な欲求に基づく行動だと思うのですが、実はその「当たり前」に応えられる環境を提供しているサービスはありそうでないんです。ひとつのコンテンツをきっかけにジャンルを越えて広がる興味関心を尊重し、自然に接続できるようにサービスを設計しています。
── 多ジャンルを扱うにあたり、デザインとしてはどのようなことに注意していますか?
中島:1つのアプリ内において、ジャンル横断して一貫した操作方法を維持するようにしています。何かに特化したUIが生まれてしまうと、そこだけの「世界」が生まれてしまい、そういった「世界」がいくつも存在するとユーザーが迷子になりやすくなってしまうからです。どのジャンルでも同じ場所に同じような再生ボタンがあり、同じように関連作が表示されるUIに統一することで、どのジャンルであろうと迷わず直感的に理解できるようにしています。
中島:実はジャンル毎にアプリを分ける可能性について、議論がなかったわけではありません。でも別アプリとして分けた瞬間に、ユーザーからすると「存在しないもの」になってしまう。そのため、ひとつのアプリとして成立するようUI/UXを考えています。
平田:電子書籍はもともと別のアプリだったのですが、その頃はユーザーにとって「存在しないもの」になってしまっていました。統合した途端に見てもらえるようになった経緯もあり、ひとつのアプリですべてのジャンルを提供することは大切なコンセプトとなっています。
あらゆる趣味嗜好が共存するために必要なニュートラルさ
── U-NEXTならではの設計思想はありますか?
中島:ユーザーの趣味嗜好が多岐にわたるので、「なるべくニュートラルに」ということを意識しています。
これは弊社のロゴの周囲にあるジオメトリック(幾何学模様)にも込めている想いで、我々は「どこの層にも属さない」ようにしています。以前のロゴは緑や青だったのですが、今は黒をベースにしており、それはつまり「色がない」ことを意味しています。コンテンツというものはやはり、何かしらファンがついた瞬間にアンチが生まれてしまうもの。私たちはすべての趣味や嗜好を尊重するゆえに、どこにも偏らないし、もっというと「そこにいない存在」だと考えています。ユーザーにとってはコンテンツを見ることが目的であって、「たまたまそのインターフェイスがU-NEXTでした」ということなのです。
中島:ロゴに限らず、サービスの設計思想としてとにかく「色をつけない」ようにすることで、結果的にさまざまな趣味嗜好層を包含できる。幅広いお客さまに向き合うからこそ誰の味方でもない、というスタンスをとっています。
鈴木:UIデザインにおいても「ニュートラルに」を意識していて、ボタンのワードひとつにもこだわっています。たとえば他社では「追っかけ再生」や「タイムシフト」などとされているボタンを、U-NEXTでは「追いかけ再生」としています。「追っかけ」はすこしカジュアルすぎる印象があるので、敢えて丁寧な言葉を選択しました。
中島:「タイムシフト」だと、何を指しているのかわからない方もいるはず。微妙な違いですがそこが大切で、特定の層に寄せてしまうとそれ以外の層が離れてしまい、それではブランドとしてのビジョンと噛み合わなくなってしまいます。できるだけニュートラルにすることにこだわって議論した結果、この言葉に行きつきました。
── 色を出さなかった結果、「U-NEXTを使っているという実感を持たれない」といった懸念はありませんでしたか?
中島:我々の選ばれ方としては、「とりあえずU-NEXTに入っていればなんでもある」という形が大多数です。そのため自分たちの存在を主張するのではなく、「来ていただければなんでもござれ」という姿勢を貫くことで、結果的に選んでいただけているのかなと思います。
必要な人が必要な情報を得られれば、それ以上は押しつけない
── 400万人ものユーザーがいたら視聴のスタンスにも違いがありそうですが、どう対応していますか。
中島:視聴にたどり着くまでには「自分で探すか、与えられたものから選ぶか」という違いがあるため、「能動的に見る部分」と「受動的に見る部分」を大きく分けて画面を構成しています。このふたつのスタンスは大きく異なるものなので、能動的に探している人に不必要なレコメンドをしてニーズと合わないとイマイチな体験になってしまうし、レコメンドすべき場所でレコメンドがないのも良い体験とはいえません。ユーザーが能動的に作品を探そうとしてアクセスしたときと、なんとなくU-NEXTをつけたとき、それぞれに対して一番最適な「探しやすさ」を提供できるよう模索しています。
── そういったユーザーの行動特性を理解した上で、敢えてやっていないことはありますか?
中島:まずそもそも不必要に語りかけることは控えています。本当に効果的なもの以外は「押しつけられている」ように感じるだろうと考え、作品プロモーションのプッシュ通知などを頻繁に送るようなことはしていません。
平田:作品に関する情報の出し方も同じで、サムネイル以外の「評価(星の数)」「作品詳細」などの情報はユーザー全員にとって必要なものではありません。そのため、どのぐらいの割合のユーザーが必要としている情報かに応じて目立たせ方を調整し、情報の階層を分けています。
中島:「隠れているけれど、知りたいと思ったときにはそこにある」ようなつくりですね。また、ライブ配信へのコメントや作品へのレビュー投稿など、ソーシャル的な機能に関しても、そこからある特定の属性の色が大きく前に出てきてしまうのを避けるため、敢えてつけていません。
佐野:かつて独占配信作品を獲得したときは、「プッシュしたい」という想いが強くなってしまい、サービス内で過度にPRしたこともあったんです。その時は、不用意に押しつけたことでアンチを生んでしまった可能性について社内で話し合いました。そういった失敗の歴史を重ねてきたからこそ、大切にしたいニュアンスがさらに明確になってきたのかもしれません。
サービスの中の人の愛と情熱が、コンテンツとの出会いを演出する
── 押しつけはせずとも、何かしら見ていただく工夫は必要なはずです。どのようなことをされていますか?
平田:すべての作品に「キャッチ」「見どころ」「ストーリー」などのテキスト情報がついているのですが、「賢者さん」と呼んでいる各ジャンルのコンテンツに精通した外部の方にお願いして、これらをすべて書いていただいています。
佐野:これらのテキストは通常権利元から頂いたメタデータをそのまま掲載することが多いのですが、視聴体験を損ねたくないという理由から賢者さんにすべてリライトしてもらっています。もちろんここでも一部の層に特化したような内容ではなく、幅広くお伝えできて、且つポイントがわかるように心がけています。何十万というコンテンツがあるのにずっとこの形でやり続けているのは、いい意味で変態的かもしれません(笑)。
中島:特定の色は出さずとも機械的にならないように、「サービスの中にも人がいる」感じを醸し出すことは意識していますね。レンタルビデオ店にあった「12月のおすすめは『ホームアローン』で、来月は…」というようなコミュニケーションの雰囲気をうっすらと感じさせられたらなと。
鈴木:それをさらに押し進めたものとして、コンテンツへの愛をU-NEXTから発信するWebメディア「U-NEXT SQUARE」を最近新たに立ち上げました。コンテンツにまつわる小噺や深掘りするインタビューなど多彩な内容を揃えています。検索からU-NEXT SQUAREに来てそのままU-NEXTで本編を見ることもできますし、本編を見た後により詳しく知りたくなってU-NEXT SQUAREで読むということもあるかと思います。
中島:これらをずっとやり続けているのは、私たちがやりたいからです。U-NEXT SQUAREに関しては、賢者のみなさんから「サービスで表示される1-2行の文章だけでは紹介しきれない!」という声もあり、その熱意をアウトプットいただく場としての意味合いもあります。
── ニッチなテーマも含めて「特集」をたくさん組まれているのも印象的です。
佐野:まさにレンタルビデオ店の棚のような、「なぜそこに目をつけた?」と気になってしまうような特集を現在5,000ほどつくっていて、サービス内でレコメンドしています。
中島:この特集はまさに人間の感性でつくっているものです。特集は、ある意味彼らの視点を活かしたWebマガジンとも言えるかもしれません。もちろん作品を見てほしいのは大前提ですが、ふと眺めるだけでも楽しいもの。特集を通して「こんな作品があるんだ」と知ること自体がひとつのエンタメなのではないでしょうか。
開発、デザイン、ビジネスが成り立ってはじめて「体験」となる
── U-NEXTのビジョンを実現するために、組織はどのようになっているのでしょうか?
中島:弊社のチーム体制として特徴的なのは、まず映像や電子書籍などのさまざまなジャンルに対してモノづくりのチームが分かれていないことです。ジャンル横断してすべてをひとつの開発チーム、デザイナーチーム、プロダクトオーナーチームでつくっているので、ニュアンスがぶれることもほぼありません。
ジャンル毎にモノづくりのチームがついて動く体制にすれば、スムーズに行く部分もあるかもしれません。でもそうなってしまうと、お客様にとってはジャンル毎にサービスが分断されて、よくわからないものになってしまうはず。これが私たちの考える一番のバッドシナリオなので、そうならないようにということはメンバーにも浸透しています。
事業部で見ても開発、デザイン、ビジネスと組織上は分かれていますが、マインドセットとしてはひとつの共通したものを持っています。それは、サービスの体験とはこの3つが成り立ってはじめてつくられるものだということ。「何ができるか」という技術的な視点と「何をしたいか」というビジネスとしての狙い、そして「どう表現するか」というデザインの視点、この3つのどれかが欠けても成立しないんです。
この考え方と体制により、フィードバックのサイクルを早く回すことができています。もちろんエラーすることもありますが、そのリカバリーの速さが結果的にお客さまの使いやすさにもつながっているのではないかと思います。
サービスを使いこなせるように、自然にユーザーを誘いたい
── 会員数も着実に増え、ビジョンに向けての動きも加速しているように感じますが、今課題に感じていることはあるのでしょうか。
中島:機能面でいうと、実はまだまだ「能動的に探す」部分ではやりたいことができていません。具体的にいうと、現在は「2000年代 アメリカ アクション」のような、Googleで行うような自然な探し方ができないんです。これだけのコンテンツをもっと活かすために、ブラウジングの検索軸、絞り込み、並び替えの強化といったところを一番の課題として、現在バックエンドの改修を進めています。
ふたつめが、「U-NEXTポイント」の認知が行き渡っていない点です。月額が高い分、映画のチケットや電子書籍の購入に使える1200ポイントが毎月付与されているのですが、それをうまく活用できているユーザーがまだ少数です。そもそも持っていることすら知らない、またはポイントを何に使ったらいいかわからないというのが、多くのユーザーさんの現状です。
今後はより一層それらをうまく使ってもらえるような自然な流れをつくり、満足度の向上へとつなげていきたいと考えています。U-NEXTというサービスをうまく使いこなしていただけるようお客様をレベルアップさせていく、さらにそれを自然にやるというのは実はとても難しい挑戦でもあります。
鈴木:ポイントや機能の活用を訴求するにも、他のサービスでよくやっているようなUI/UXをそのままU-NEXTに持ってくるだけではどこか不自然で押しつけがましくなってしまうはずです。いかにそれらを排除して自然でニュートラルなコミュニケーションを実現できるか、まさに今設計を進めているところ。短いサイクルでいろいろな実験をしてトライアンドエラーを重ねながら、すこしずつ感触を掴んできています。
取材協力
株式会社U-NEXT