「患者中心主義」とビジネスをつなぐ。医療業界を変えるUbieらしいデザインとは

症状を入力するだけで適切な医療へと案内してくれる「ユビー」をはじめ、医療業界の前進を目指してさまざまな事業を展開するUbie株式会社(以下、Ubie)。プラットフォームとしての存在感を増す中で、それぞれの事業でどのようにデザインの視点を取り入れているのでしょうか。

村越 悟|Ubie株式会社 Ubie Product Platform / Product Designer

制作会社、事業会社、スタートアップ経営、コンサルティングファームなど幅広い経験を有するプロダクトデザイナー。直近はアクセンチュア株式会社で金融機関のDX戦略における体験デザインなどをリードしたのちに、2021年よりUbie株式会社に参画、デザインの力で人々を適切な医療に結びつけることにチャレンジ中。

今田紀美Ubie株式会社 Ubie Pharma Innovation コミュニケーションデザイナー

クリエイティブ統括として事業会社、ブランディングプロデューサーとして制作会社に従事した後、Ubie Pharma Innovation BI開発・プロモーション担当者として入社。

適切な医療を実現するためのプラットフォーム「ユビー」

── まずはじめに、「ユビー」について教えてください。

村越:Ubieは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに、患者が適切に情報を得た上で医療が受けられるよう、症状検索エンジン「ユビー」を通じてサポートしています。気になる症状から関連する病名と適切な受診先を調べることができ、月間700万人以上の方々に利用していただいています。

また医療従事者の方に対して、診療の質向上を支援する医療機関向けサービスパッケージ「ユビーメディカルナビ」を通じ、業務負荷の軽減と診察のさらなる質を向上させるための支援を行ったり、製薬企業が持つ疾患・治療啓発につながる情報を生活者・医療機関に提供し、早期かつ適切な受診や診療業務の支援を行っています。医療に関わるこれらのステークホルダーが「ユビー」や「ユビーメディカルナビ」というプラットフォーム上でつながることで、全体を適切な医療へと導き、その質を上げていくことを目指しています。

患者や医療従事者がつながるプラットフォーム

── 理想とする医療を実現するために、どのようなことを大切にされているのでしょうか。

村越:特に「患者をなるべく早く受診行動に移すこと」、そして「医療につながる医師とのコミュニケーションをつくること」を重要視しています。

前者については、適切な医療にたどり着くまでの一連の行動変容の起点として患者の受診行動が重要であり、その行動を喚起するためにも、患者に適切な情報を提供することが必要です。

後者についても、「患者もある程度症状に関する情報を持って診察室に行く」状態をつくることが重要です。医師から一方的に話を聞くのではなく、患者側から「この病気の可能性はないですか?」と質問することができれば、医師と患者が一緒に解決策を探すようなコミュニケーションの形が生まれるのではないかと考えています。

症状検索エンジン「ユビー」の利用者は月間700万人を越える

── たしかに、病院で自分から先生に積極的に質問することは少ないですし、先生の見解に頼りがちな傾向はありそうです。

村越:もともと「インフォームド・コンセント」と言って、「医師が適切な医療情報を提供し、患者はそれに同意した上で医療行動に移る」という考え方が根付いていましたが、最近では「シェアード・ディシジョン・メイキング」へと移り変わりつつあります。これは「患者自身もある程度情報を持って医師と議論をした上で、一緒に治療計画を立てて意思決定をしていく」というもので、医師と患者との間の情報格差をなくし、医療行動について双方が同じ視点に立って会話できるようになることを目指す考え方です。

Ubieとしてもその状態が理想だと考えています。情報の格差を埋めるには、患者が医学的な情報を持つことと、医師がその患者について情報を得ることが共に重要です。当社がそれを支え、医師と患者の間の協力関係を一定の基準でつくれないかと模索しています。

診察室の現実を知り、深いコミュニケーションの場に変える

── Ubieは患者だけでなく、医療従事者の方々や製薬会社など多岐に渡るステークホルダーと向き合っていますね。それぞれ、どのようなやりとりをされているのでしょうか。

村越:たとえば医療機関と向き合う「ユビーカスタマーサイエンス」という組織では、さまざまな職種のメンバーが病院やクリニックなどの現場に定期的に足を運んでいます。首都圏近郊だけでなく、地方に伺って医師の方とお会いすることも少なくありません。

病院やクリニックのビジネスの肝は、「患者をどう連れてくるか」「来院された患者に質の良い医療体験を提供できるか」の2点です。質の良い医療体験には「診察室に入った段階ですぐに問診内容を見られること」「患者の情報が分かりやすくまとめられており、判断がしやすいこと」などが重要で、常に対話を重ねながら改善につなげています。

向き合う対象や事業内容から組織が構成されている

── 病院やクリニックの先生からは、どのようなフィードバックをいただくのでしょうか。

村越:Ubieに在籍する医師が問診内容の設計を行っているのですが、「この病気と関連性があると考えるならこの質問もした方がいい」「こういう聞き方の方がいい」など、さまざまなフィードバックをいただきます。

また、現場で受付から診察の様子まで観察させていただくこともあります。ユビーメディカルナビは受付から診察までのオペレーション全体に関わるプロダクトのため、やはり現場を知ることが重要です。現場では、ディスプレイの配置、患者と向き合う体勢、診察時間の中で患者を診ている時間と問診表を見ている時間の割合なども観察しています。

医療機関向けに提供している「ユビーメディカルナビ」

── 村越さんは、現在は製薬事業のプロダクトデザインを担当されていますが、以前は症状検索エンジン「ユビー」などを担当されていたそうですね。どのような気づきがありましたか。

村越:「患者は伝えたいことをほとんど言語化できていない」ということに気づきました。何の準備もなく診察室に入り、聞かれて思いついた順番にしゃべるということがほとんど。それでは先生が医学的に知りたい情報を提供できているわけがないし、先生の方から情報を取りにいくにも限界があります。診察室では深いコミュニケーションが行われにくい現状を実感しました。

だからこそ、「医師に適切に情報を伝えるには、どのような観点を持ち、どのような言い方をしたらいいのか」を患者に伝えること、そして患者自身がアクティブに情報を取りに行く行動を引き出すことに尽力しています。

── 受診行動を引き出すためには、なにが必要なのでしょうか。

村越:重要なのは「体の不調に心当たりがある」と思ってもらうことであり、そのための情報の与え方です。医師に診てもらえれば判断を仰ぐことができるので、そのためにもできるだけ情報を提示して心当たりに気づかせて、「こんなのネットで見たんですけど……」と医師に伝えるという行動を引き出すことが重要なんです。

今田:患者が情報を適切に入手できていないことで症状が悪化してしまうことに対して、医師の方もどこまで介入していいか悩んでいるのが現状です。当社が両者をつなぐ手段を提供していきたいですね。

デザイン経営の知見を活かし、患者中心主義の浸透を促進

── 協業を行うなど、製薬会社とも密に連携していますね。

村越:従来、製薬会社と患者との間には医師が介在することもあって距離がありました。疾患啓発のパンフレットをつくっても、直接渡すことができなかったんです。ユビーのプラットフォーム上には患者となりうる方の情報が蓄積されており、情報提供という形で生活者の方に渡すこともできるのが、製薬会社にとっての価値の一つでもあると考えています。

今田:その他、製薬会社が外に向けて情報発信していく際のコミュニケーションのデザインについても支援しています。

── 製薬会社の方々は、どのような課題意識を持たれているのでしょうか。

今田:Ubieも推進している「ペイシェント・セントリシティ(患者を中心に考えられ行われる医療の考え方)」について、「社内で推進するのが難しい」という声をお聞きしています。考え方には賛同しつつも、「どんなビジネスメリットがあるかわからない」「どう売上につながるのかが見えない」など、ビジネスとの接続に苦労されている印象です。

そこで、製薬会社の皆さんが社内でその浸透を進めやすいよう、「ペイシェント・セントリシティ アセスメント」という、ペイシェント・セントリシティの実現度を測る指標を先日発表しました。実現度の判断は非常に難しいものですが、そもそも指標がなければ進め方もわからないはずなので、このアセスメントをものさしとして活用いただけるよう提案しています。

「ペイシェント・セントリシティ アセスメント」で定められた12項目

村越:他にもペイシェント・セントリシティについて発信するために、定期的に製薬会社向けにカンファレンス「Ubie Pharma Summit」を開催しています。

やはり企業単体では発信しにくい部分もありますし、一部署の担当者から組織全体に波及させていくには高いハードルがあるため、悩んでいる方も多かったと思います。そんな中で僕たちが場を用意することによって、ペイシェント・セントリシティをテーマに製薬会社が壁を越えて連帯し、業界一丸となって実現のために何ができるか議論する環境をつくれたことは、大きな一歩だと感じています。

500名以上が参加した「Ubie Pharma Summit」の様子

── 大義名分とビジネスとの接続は、非常に難しいテーマでもありますね。

村越:実はそこに「デザインと経営の接続」というテーマと近いものを感じています。ペイシェント・セントリシティの考えは企業として持つべきものだと思う一方、「具体的にどう数字に現れるのか」と問う人も当然組織にはいるはずで、どうビジネスに昇華できるのか、事業活動全体から見て定義する必要があります

そのためには、企業ごとの風土を汲み取りながら、組織内で協力しあって文化にしていく必要があります。ペイシェント・セントリシティ アセスメントの中でも「カルチャー醸成」「組織活動の最適化」という項目があって、「いかに波及させていくか」という観点を組み込んでいるのですが、そういった点でもかなり「デザインと経営の接続」というテーマに近いものを感じています。

事業成長を支える「ユーザー体験の番人」たれ

── ペイシェント・セントリシティ推進の支援においては、Ubieがどうデザインと経営とを接続させているのかという視点も参考になりそうですね。そもそも、Ubieではデザインをどのように捉えているのでしょうか。

村越:「人間の心理に深く向き合うこと」だと考えています。どういう行動があり、どういう判断があり、どういう心理状態があってこうなっているのか、さまざまな変数の中で意思決定して行動変容が起きる、そのメカニズムに徹底的に向き合うことを大切にしています。

たとえば、明らかに治療を変えた方がいい人は一定数存在しているものの、その人たち自身が「変わり時だ」と認識していないという問題があります。どうすれば自分ゴト化されるのか、その認識のメカニズムを理解することが、結果的に適切な医療に結びつくわけです。

理解すべき対象は患者だけではありません。医師の方がどう患者に向き合い、どんな問いかけをしているのかといった点についても理解する必要があります。

── Ubieらしいデザインを実現していく上では、どのような課題がありますか。

村越:Ubieはデザイナーも含め全員が事業運営に関わるフラットな組織のため、事業を推進する力が非常に強いぶん、デザイナーである自分自身も「事業的な姿勢になりやすい」という難しさがあります。

Ubieはデザインに対する理解が深く、経営とかなり近い位置にある組織でもあるため、ともすればその力を悪い方向に作用させることもできてしまいます。そういった背景を持ってしてもデザインの力を正しく活かせるよう、デザイナーは常に「ユーザー視点に立つ」ことを意識し、ユーザー体験の番人であることが大切だと考えています。デザイナーは「患者や医療従事者などのステークホルダーに対して、どんな価値を提供できるか」という視点を絶対に失ってはいけないんです。

Ubieは成長フェーズに入っており、だからこそデザイナーが注意を怠らず、「事業も成長させるし、ユーザー体験もより良いものにしていく」という意識を強く持たなければいけないなと感じています。

── そういった環境で、デザインの力を最大限に発揮するために心がけていることはありますか。

今田:企業としての爆発力を生むために、「どのようにしたら実施可能か」から考えることを大切にしています。細かく見直して改善して……というプロセスももちろん大切ですが、やはりスタートアップとして革新的なものを生みだすには、アーティスティックな考え方も必要です。一般的にビジネスではそういったことが避けられがちだからこそ、そこに可能性が眠っているとも考えられますし、Ubieではもっとそこに挑戦していきたいと思っています。

村越:僕自身としてもずっと「デザインと経営の接続」をテーマとして持っており、「デザイナーがユーザー視点をもちつづけながら、直接的に事業成長に貢献できるようなインパクトをもたらせるか」に挑戦しています。

個人的には、「患者の行動変容を起こす仕組みをつくること」こそがUbieのコンセプトの実現、そしてステークホルダーへの価値提供にもつながるのではないかと考えています。さらに、そのプロセスで得たインサイトを製薬会社にも共有して患者への理解を深めることで、業界に対してより大きなインパクトをもたらせるはずです。

── ありがとうございます。最後に、Ubieの今後の展望について教えてください。

村越:僕が入社した2年半前とは違う会社かと思うほど、Ubieは変化しました。プロダクトのバリエーションもプラットフォームの規模も大きくなり、これまで個別最適で走り続けてきた事業全体がつながって点から線になる兆しが見えてきて、今後はそれを面として広げていくというフェーズにさしかかっています。患者のユーザー体験をプラットフォームの体験へと昇華していくことが可能となった今、Ubieでデザインをするということは、これからが一番おもしろいタイミングだと思います。

 

 

「Spectrum Tokyo Festival 2023」Day 1となる2023年12月2日(土)のトークセッションに、Ubie株式会社よりプロダクトデザイナー 畠山 糧与さんが登壇します。「デザインで、人の命は救えるか」をテーマに、畠山さんが感じる未来の兆しについてお話しいただきます。是非こちらもお楽しみに!
https://fest2023.spctrm.design/

 

提供
Ubie株式会社

Written By

長島 志歩

Specrum Tokyoの編集部員。映画会社や広告代理店、スタートアップを経て2022年よりフリーランス。クリエイターが自らの個性を生かして活躍するための支援を生業とし、幅広くコンテンツづくりやPRなどを行っている。

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