国境を越えた遊び心とインタラクティビティに情熱を注ぐUXリサーチャー、Chee Eun Ahn
人にはそれぞれ思想や世界観があり、その元となるインスピレーションやルーツがある。一見ひとつひとつはランダムな点に見えても、それらは線となっていまの活動のなにかの糧になっているはずだ。だから、さまざまな人が異なるルーツを持ちさまざまなデザインをするのだ。
・・・
今回は、日本文化に多くのルーツを持ち、韓国で活躍するUXリサーチャー、Chee Eunさんのルーツを探ります。彼女はUXリサーチャーでありながら、職種の枠組みを超えるほどデザインへ深い探究心を持っています。
Chee Eun Ahn
Bucketplace | UXリサーチャー LinkedIn / X
韓国でインテリアデザインのプラットフォームを運営する会社。Bucketplaceで、ユーザーリサーチャーとして従事。学士課程で産業デザイン、修士課程ではヒューマン・コンピューター・インタラクション(HCI)を学ぶ。卒業論文のプロジェクトは人間と動物のインタラクションをテーマに、人と猫が対話できるライブストリームシステムを構築した。
1. 仕事やものづくりへの哲学、こだわりはなんですか?
デザインはよく問題解決だと言われており、どのように問題を解くか、最良の解決案を見つけようとします。これには一定は同意しますが、私はデザインは内なるものから生まれるとも考えています。つまり、これまで存在しなかった新しい体験を提供することです。デザインは問題解決である一方、私は創造的な側面があると考えています。
遊びのあるインタラクティブなデザインを作るのが好きで、その一例として、修士論文のプロジェクトでは創造的でまだ世の中にないような研究テーマを探しました。結果、研究テーマは「アニマルコンピューターインタラクション」となりました。
また動物が好きなんですが、中でも特に猫が好きで、ライブストリームで猫を観ていたときに、テクノロジーを介して猫と会話したり交流できたらもっと楽しいだろうなと思いました。それをきっかけに猫のためのライブストリーミングシステムのプロトタイプを作りました。猫向けのシステムを作るのは難しい試みでしたが、リサーチとデザインの繰り返しの作業はとても楽しかったです。
私がこの研究テーマを選んだ動機は、単純に楽しくて遊び心にあふれていて記憶に残る体験を作りたいと思ったからでした。それがいつも私のデザインの核にあると考えています。
2. あなたが仕事をはかどらせるためにやっていることや、愛用しているものがあれば教えてください。
カフェのほうが集中しやすいので、カフェに行ってコーヒーを楽しみながら仕事をすることが好きです。ソウルのヨンサンにドトリ(https://www.instagram.com/dotori_yongsan/)というカフェがあります。 あまり仕事向きの環境ではありませんが、このカフェはとても居心地が良く、かわいらしい動物のぬいぐるみがあり、センスを感じる場所です。
このカフェはジブリ映画のような雰囲気があります。カフェのキャラクターがトトロによく似ており、館内で流れる曲もほとんどがジブリのものです。また、お店の名前「ドトリ」は韓国語で「どんぐり」を意味します。
それ以外にも、趣味として絵を描くことや楽器を学ぶことなどの創作活動が好きです。
3. あなたが影響を受けた人は誰ですか?
私がもっとも影響を受けた人は、学部時代の教授です。
私が通った学校は工科系の学校で、最初は材料工学(マテリアルサイエンス)を専攻していたのですが、しばらくしてそれが自分には合わないと気づいたんです。ものづくりが好きで産業デザインに興味があったので、専攻を変更しました。
初めて受講した産業デザインの講義でこの教授に出会いました。教授は遊び心のあるデザインとインタラクションの世界に導いてくれた人です。彼の研究チームが出した代表作のひとつに「TransWall」という透過プロジェクション型のインタラクティブウォールというものがあります。
私は教授が見せてくれたプロジェクトや他のクリエーターの作品にとても興奮し、心躍る気持ちになりました。本当に印象に残るものでした。
教授は日本でも勉強していたため、彼が見せてくれた多くの作品は日本のものでした。チームラボによって作られた作品や明和電機によるデジタル楽器「オタマトーン」など、これらの作品は私にインスピレーションを与えてくれました。
中でも、2003年に小嶋秀樹氏により開発された「Keepon」は印象に残っています。これは、障害を持つ子供たちのコミュニケーションスキルの学習、発達を支援するためのロボットです。Keeponはとてもかわいらしく、子供には最適で、こうしたターゲットを意識した要素を取り入れたことで製品にまったく新しい意味を与えていると思います。シンプルですが、影響力は大きいです。
4. あなたのデザインや考え方のルーツとなったコンテンツはありますか?
今の私のルーツになっている要素は2つあると思います。
ひとつは、小学校時代ドイツに住んでいたころ、よく行っていたIKEAです。お店に行くと机やかわいいおもちゃなどを買って、帰ってきたらいつも自分たちで組み立てていました。私は両親を手伝って家具を組み立てることがあり、それがものづくりに興味を持つきっかけとなりました。いまでもIKEAの魅力的なデザインはいつも私のデザインの基盤となっています。
シンプルで軽やかな色合いのミニマルスタイルがすごく気に入り、派手でエネルギッシュな色合いよりも、穏やかで優しい色合いに親しみを感じます。それが私の好みのテイストです。
ふたつ目のルーツは、ピクサー映画で、いまでもトイストーリーやモンスターズインクなどを観てすごく楽しんでいます。これらの映画の中で一番魅力的な部分は、細部に込められたアイディアです。たとえば、トイストーリーでも細部まですべて設計されているところが魅力だと思います。
また、子供たちがドキドキするような怖い話や驚きの要素をエンターテイメントに変えている点も好きです。モンスターズインクでは、エネルギーを得るために子供たちを怖がらせなければならないという発想は、子供たちからするとまったく新しい視点です。当時、子供だった自分はその発想に心を奪われ、興味を持ちました。これをきっかけに私も奇抜なアイデアを考えるようになったと思います。
5. 10代の頃に好きだったものやハマっていたことはなんですか?
10代の頃に「NARUTO -ナルト-」を誰かに教えてもらい、それ以来日本のアニメに夢中です。
特に熱中したアニメは「涼宮ハルヒシリーズ」です。これは有名な日本のアニメシリーズで、日本の高校を舞台とした作品です。主人公の涼宮ハルヒが「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人・未来人・異世界人・超能力者がいたらあたしのとこへ来なさい。以上!」と自己紹介する場面が印象的でした。
主人公のハルヒは常にスリルと冒険を求める少女であり、これに私はとても共感を覚え、心のどこかで彼女と重なる部分があるように感じていました。他のキャラクターも好きで、アニメだけではなく韓国語に翻訳された小説はすべて購入し、読んでいます。
また、「エンドレスエイト」という有名なエピソードを見たときに、見た目はまったく同じで微細な違いしかない8つのエピソードの台詞をすべて覚えようとしたことさえありました。
6. 最近「いいデザインだな〜」と思ったサービスやWebサイトと、なぜ良いと思ったかを教えてください。
「Baemin」という韓国のフードデリバリーアプリがあり、Baeminの提供するサービスデザインがすばらしいのでこのアプリを使っています。彼らは誰もが気づかなかったシンプルな問題を見つけ出し、それを解決しました。
Baeminは韓国のフードデリバリーの課題を解決したサービスです。もともと韓国ではコロナ前からフードデリバリーが一般的でした。現在、市場には多くの競合他社が存在していますが、Baeminは先駆者の一社です。私がまだ小さいころ、見知らぬ人と話すことが怖く、ピザデリバリーに電話をかけることに抵抗を感じていました。また、韓国ではデリバリーサービスを行っている近所のレストランのパンフレットをとっておくことが当たり前で、特に新たな場所に引っ越したばかりの時は、そういう情報がほとんどありません。
しかし、これが習慣化されていたため、誰もそれを解決することを考えたことはなく、みんながその不便さを感じていました。それに対しBaeminのシンプルでも効果的な解決策により、人々の生活を変えたことに感心しています。