絵とは猛烈に複雑なデザイン。絵柄を問わないイラストレーター、Hama-House
人にはそれぞれ思想や世界観があり、その元となるインスピレーションやルーツがある。一見ひとつひとつはランダムな点に見えても、それらは線となっていまの活動のなにかの糧になっているはずだ。だから、さまざまな人がさまざまなデザインをするのだ。
・・・
今回は、イラストレーターとしてさまざまな企業のイラストを手掛けるほか、アニメーションやスケッチなど毎回多様な手法を用いて作品を形にするHama-Houseさんのクリエイティブルーツに迫ります。

Hama-Houseさん
イラストレーター・アニメーター金沢美術工芸大学卒業後、Sony PCL入社。SONY QRIO、ROLLYのモーションプログラマー他、デザイナー、ディレクター業を経て独立。現在はイラストレーターとして様々な企業イラストを手がける他、アニメーター・プランナーとしてNHK Eテレ/デザインあneo「だし」シリーズを制作・レギュラー放送中。
1. 仕事やものづくりへの哲学、こだわりはなんですか?
宮崎県の漁師町で生まれ、兵庫県のヤンキーエリアで育ったので、そういったデザインやイラストレーションから遠い世界の人たちにも「おもしろい!」と言ってもらいたい、そんなことを考えながら日々制作しています。
感度の高い人々に向けたエッジーな作品制作も素敵ですが、「変わったコード進行だけどすごく聴きやすいJ-POP」のような絵やアニメーションをつくることを目標にしています。

美術大学を出て映像会社に入った頃は「ノイジーでアートっぽい凄いものをつくるぞ!」と意気込んでいましたが、「見たことのないアプローチだけど、みんながすぐにわかるもの」をつくることが一番難しくておもしろいのでは、と思うように徐々に変化していきました。
結果的に「間口の広いものをつくる」という自身の嗜好が商業媒体とうまくマッチしたおかげで、イラストレーターとして生活できています。
ちなみに僕は職業としてはイラストレーターなのですが、絵柄へのこだわりは薄く、内容に応じて絵のタッチを変えられるよう技術の幅を広げることに関心があります。
自主制作のループアニメーション『Email rally|メールの応酬』には世界中から何千とコメントをいただきましたが、「絵が素敵」のような絵柄に関するコメントは一つもありませんでした。そういう状態こそ、自分のコンテンツの理想の着地感だと思っています。

https://www.instagram.com/hamahouse/reel/Cq40ZJXr2_4/
2. あなたが仕事をはかどらせるためにやっていることや、愛用しているものがあれば教えてください。
この仕事をはじめた頃からずっと、世界堂で知らない画材を買って試すことをライフワークにしています。最近試して気に入ってる画材はこの白墨液です。

僕は普段のスケッチで色付きの紙を使うので、白の画材を日常的に試していて、この白墨液は濃淡の加減や雑味感がほど良く、最近のお気に入りです。
赤青白の3色で色付きの紙に描くシリーズをつくっているのですが、白墨液の白は割と活躍してくれてます。

3. あなたが影響を受けた人は誰ですか?
ひとり目は、フランスの漫画家Moebiusさんです。『AKIRA』の大友克洋監督や、イラストレーター・漫画家の寺田克也さんも影響を受けたと公言していて、『フィフス・エレメント』のコンセプトデザインなど映画作品にも多数関わっている方です。
彼が生前最後に来日したとき、明治大学で行われた講演を見に行きました。靴から服、髪の毛まで全身真っ白の出で立ちで登場した彼は、まるで神のように光を放っていました。しかも第一声が「私はすべての絵描きに嫉妬しています」と。やはり人前でたくさん話している人は、掴みになる枕詞を持っているものです。その場にあったサインペンで即興で漫画を描いて見せてくれたりと、本当にかっこよかったのを覚えています。
彼から大きく影響を受けたのは、絵の練習をしはじめた頃です。海外旅行に行く友達にお願いして彼の本を買ってきてもらい、1冊まるまる模写したりしていました。今も自宅に数十冊は置いてあります。

もうひとりは、カナダの作家 Norman Mclarenさんです。特に衝撃を受けたのはこちらの作品です。
1960年代の作品ですが、とにかくアイデアがすごい。わかりやすくて尺も短いし、ミニマムな規模感なので「頑張ったら自分にもつくれるのでは?」と思わされます。椅子と自分を用意して、あとは最後のアイデアさえ思いつければつくれる……でも、このアイデアはまず出てこないです。初めて見たときには、もう自分にやれることなんて残っていないと思うほどの衝撃を受けました。自主制作アニメーションでは、この作品をいつか到達すべき基準として目標に据えています。
彼の作品に共通するのは、毎回さまざまな手法にトライしていることで、僕はそこに共感しています。自分の型を持たず、あくまで手法はアイデアを実現する手段として毎回変えている方です。アイデアがあり、その実現に向けてさまざまな手法を開発する、そこに僕はとても影響を受けています。
4. あなたのデザインや考え方のルーツとなったコンテンツはありますか?
『ムッシュ・カステラの恋』という2000年頃の映画です。アートコミュニティの人々が「アートはわかる人にしかわからない」という選民思想を貫いてる存在として出てきます。その中で、太っていて服もダサいとなじられていたおじさん社長が、細かいことはわからないけど一番純粋にアートや絵を好きだったという物語です。

僕がこの作品を見たのは、ちょうど美術大学を卒業して映像会社に就職し、「エッジーな人たちに向かって、エッジーなものをつくるんだ」と意気込んでいた頃です。だからこそ、雷に打たれたかのような衝撃を受けました。おしゃれな人の集まりの中にいる一見すごくダメな人が、実は最も真っすぐな人だった……そんな映画だったからです。
この作品との出会いがきっかけで、「エッジーな人たちのためにものをつくらない」ことを大切に考えるようになりました。これが、僕のものづくりの指標になっています。
5. 10代の頃に好きだったものやハマっていたことはなんですか?
小学校高学年〜高校時代は、アガサ・クリスティにハマっていました。推理小説はある意味パズルのようなもので、読者にある程度オープンにヒントを与え、最後の伏線回収に向かって組み上げていく構造物としてのおもしろさが好きです。文章の良し悪しももちろん大事ですが、全体の設計図で勝負するのがおもしろいなと思っています。
彼女の作品の中でも特に好きなのは、『ナイルに死す』や名探偵ポワロシリーズの最終話『カーテン』、有名なものだと『そして誰もいなくなった』などです。本当にたくさんの作品があります。
子どもの頃は小説家になりたくて、物語全体を俯瞰しながら読むのが好きでした。自分が書くならどう書くか考え、こうやって伏線を張っているのではないかと想像しながら読み進め、それが気持ちよく裏切られるのかどうかという作者との攻防戦のような感覚で読んでいました。
6. 最近「いいデザインだな〜」と思ったサービスやWebサイトと、なぜ良いと思ったかを教えてください。
昔からヨーロッパ漫画収集が趣味で、今活動している人で好きなのはManuele FiorさんやDavid Prudhommeさん、新しめの作品でお気に入りは『Mademoiselle Else』です。見てから買う人には、関東だと板橋の海外漫画専門店「MAISON PETIT RENARD」がオススメです。

そもそも「デザイン」の問いに対して絵を挙げたのは、僕が絵を「線・面・グラデーションで出来た猛烈に複雑なデザイン」と考えているからです。
テイストのはっきりしたイラストは “描くときのルールがはっきりしたイラスト”とも言えます。人気のあるイラストは、その絵をつくる時のルール構造が人気、とも言い換えられます。線、面、グラデーションの組合せルールに独自性があり、他人では再現が難しく、かつ共感性が高ければ、その絵は人気イラストになりえます。
興味深いのは、ルール構造が明快かつ再現度100%だと、今度はなぜか「デザイン的すぎて」絵が魅力的に見えなくなってくる点です。それを避けるため、イラストレーターは“人間的揺らぎ”を絵のルール内に計って混ぜるのですが、その配合作業も、ある種「デザイン」と言えると思っています。
先日のSpectrum Tokyo Festival 2024でも話しましたが、シンプルデザインに飽きたり、行き詰まりを感じているデザイナー様、イラストレーターになる道はいかがでしょうか? 線一本から始まる猛烈複雑デザインワールド、森羅万象すぎて飽きるには人間の寿命が全然足りない世界…楽しいですよ!
関連リンク
Hama-Houseさん ホームページ https://hama-house.com/
X https://x.com/hamahouse
Instagram https://www.instagram.com/hamahouse/
Written By
