ミニマムにマキシマムを追求するアイデアルデザイナー、綿貫佳祐
人にはそれぞれ思想や世界観があり、その元となるインスピレーションやルーツがある。一見ひとつひとつはランダムな点に見えても、それらは線となって今の活動のなにかの糧になっているはずだ。だから、さまざまな人がさまざまなデザインをするのだ。
今回はミニマルなデザイン思想を持ちながらも限りない可能性とアイデアルな未来を描くデザイナー、綿貫さんのクリエイティブルーツを探ります。
大学卒業後、IT系事業会社を経て現在はQiita株式会社所属。CX向上グループにてエンジニアコミュニティサービス「Qiita」のデザイン、チームのマネジメントを担当。個人でもWebサービスやアプリを開発。
1. 仕事やものづくりへの哲学、こだわりはなんですか?
僕、「イデア論」が好きで。イデア論というのは「この現実世界にあるものは、完璧な姿の影、コピー、模倣品みたいなものであって完全なものではない」という考え方です。
例えば頭の中で円を思い浮かべてくださいと言われれば、パッと浮かびますよね。でも現実世界で再現しようと思うと、たとえコンパスを使って描いたとしても少し歪みますし、どれだけ高精細なプリンターで印刷したとしても繊維とインクの物理的な制約でナノメートル単位でにじむんですよね。頭の中では真円を思い浮かべられても、現実世界の制約では再現できない。
でもイデア界には完全な円があるんですよ。人間がその像を頼りに、現実世界の物理制約の中でできる範囲のものを作っているというのがイデア論なんですが、ちょっとロマンがありませんか。絶対たどり着かないんだけど、イデアに向かってあがき続けようというか。届かないのはわかりつつ、今日90%できたなら、明日は99%、明後日は99.9%で〜みたいな話をしたいんです。
完璧にはできないことはわかっているが、今この状況で100%に向かうにはじゃあ何を変えれば良いんだとか、どこをアップデートすればいいんだといった気持ちを忘れないようにしたいと大学生くらいの頃から思っています。
2. あなたが仕事をはかどらせるためにやっていることや、愛用しているものがあれば教えてください。
僕、生活能力がゼロだし、弱点が多いんですよ。目が弱いし、音にも弱いし、味覚も弱いし……。なので、そういった自分のへぼい部分とちゃんと向き合って、お金やテクノロジーで解決しようと努力してます。
たとえば僕、ノイズに弱くて、気に食わない音が流れてるとすごいダメなんですよ。今だとZoomとかで年中イヤホンで音を聞くことになるんですけど、人に良いマイクを買ってくれというのも申し訳ないので、ノイズキャンセルアプリのKrispを自分で買ったりとか。
あとはすごい些細なことなんですけど、Macの上部のメニューバーにアイコンが増えていくのにすごくイライラしちゃうんですけど、あれを隠すだけのBartenderというアプリがあるんですよ。ただアイコンを隠すだけなんですけど、それを買ったりだとか。
掃除は面倒くさいけど、掃除されていない部屋にいると気が散るのでルンバに任せよう、とか。色々僕なりに工夫しています。
3. あなたが影響を受けた人は誰ですか?
人生のステージごとにちょっとずついるな、という感じなんですけど、高校受験の時に親に言われたことはすごく覚えています。
受験期に勉強する気が起きなくて、もう勉強しなくて良いかな?という話を親にしたんですよね。そしたら「東大に行った人があとからバンドマンとかになることはできるけど、ろくに勉強していない人が、ある日急に医者とか弁護士になりたいとか言っても無理があるし、何もないんだったら勉強しておいたほうがいい」といったことを言われまして。確かに自分の人生の可能性を最大限に広げておける手札を選んだほうがいいな、と妙に納得して。
また、普段からも「やりたいことがあるなら、犯罪とか人を傷つけたり悲しませることでなければ全部やったら良い」というような親で、そういった考え方は今の僕の根底にあるし、影響を受けたと言っても良いような気がします。
4. あなたのデザインや考え方のルーツとなったコンテンツはありますか?
社会人になってからは勝手にnoteの深津さんの発信を見ながらデザイン出身の人でこんなに全体的に考えてできるんだと刺激を受けたり、delyの坪田さんとお会いする機会があって、そのときもデザイナーって閉じこもりがちだけどそんなんじゃ社会に対しての貢献が少ないから、もっと出ていかないといけないと思うんだよねというお話を聞いたりして、そういうことを僕自身も考えるようになりましたね。
デザインに関する解像度って大学入るまで、「これかっこいい」とか「これ好き」くらいにかなり感覚的だったんですね。ですが大学に入って、当時の先生に色々「この本読め」と色々な本を貸してもらったことでだいぶ自分のデザインの考え方が形作られていった気がします。
中でもタイポグラフィに関する本はよく貸してもらってたりして、当時この本だったか覚えてはいないんですが、今手元にあるものでいうと「文字とタイポグラフィの地平」とか「欧文書体デザインの世界」とか、こういう本ですね。
元々イラストとか書いてたのでタイポグラフィに特段興味があったわけではないのですが、その先生と関わった最初の授業がタイポフラフィの授業だったんですね。そのときにバスの時刻表を作る課題があったんですが、作って持っていったら先生に全然ダメだぞって言われて。「この感じだったら、多分この書体に変えてみて」とか「ここはポイント大きくして、ここは小さくして」とかアドバイスもらって、言われたとおりにやったら本当にすごくかっこよくなって。ほぼ文字しか変えてないのにこんなに変わるものか、文字ってすごいんだなと感動して。それからはすごい書体が好きになって。
僕、街中で「ゴナ」を見つけるとテンション上がるんですよ。写研という歴史ある会社のフォントで今はもうないんですけど、古い建物とか駅の看板とかにはまだ残っていたりするんですよね。僕は名古屋に住んでいるんですけど、名古屋駅周辺でゴナのある位置は大体知ってます。
5. 10代の頃に好きだったものやハマっていたことはなんですか?
絵を描くのは好きでしたね。中学の時にクラスの友達の中でも少年ジャンプ系の絵を描くのが少し流行った時期があって。『ONE PIECE』や『NARUTO』や『BLEACH』とかですね。僕はまあまあ上手で、周りの友達と比べることはあまりなかったんですが、友達のお母さんにすごく上手な人がいて仲間内でもすごい話題になって。「こんなに上手にかけるんだ、すごいな、やってみたいな」となってすごい対抗意識を燃やして練習し始めたんですよね。今思うと完全に謎なんですけど。
で、練習していてうまくなった頃に、友達から女の子のイラストを描いて欲しいという需要が高まりました(笑)。一番依頼があったのは『To LOVEる』のキャラの絵ですね。当時、スマホとかもないので、手元にイラストをおいておく手段として僕が活躍するという。描いてあげるとみんなすごく喜ぶので、褒められと練習のサイクルが発生して、もうずっと描いてるんですよね。カワイイ女の子を描くと、周りの男性からの支持が上がるので、どんどん上手くなっていった気がします(笑)。
その良いサイクルに乗ってからは自然と練習するようになったし、徐々に模写じゃない絵とかも描き始めたりしましたね。今思えばこのあたりから努力する癖がついたし、アウトプットしてフィードバックを得るサイクルもこの頃学んだ気がします。
6. 最近「いいデザインだな〜」と思ったサービスやWebサイトはなんですか?
いいデザインのためのデザインだな、と思っているのは「Figma」や「Framer」や「UXPin」などに代表される最近のデザインツールですね。アプリケーションの意匠と言うより、社会の設計として良く設計されたサービス、という意味ですごく良いデザインだと思っています。
デザイン界隈にいて思うのは、すごく閉じた世界だなと思っていて。知見の共有があまりないし、みんなで作るというよりかは個人プレイになっちゃっている。それがこれらのツールによってもっと開かれていって、集合知となって、巨人の肩の上に乗って良いものをどんどん作っていくような未来が出来たら良いなと思っています。
あと、サービスやWebサイトじゃないんですけど、最近は遺伝子っていいデザインだなとすごく思っています。遺伝子ってA、T、G、Cと4つの塩基しか無いのに、その数とか組み合わせの数によってこれだけのいろいろな生物が生まれて、しかも時折エラーが起こることによって変化が起きて次の世代へと進化していくんですよね。最小限な構成でありつつ、最大限の可能性を秘めていて、且ついまを生きていくためのバリューも備えているのがすごいなと。
ミニマルで唯一の正解みたいなのに収束していくのは面白くないんですよね。可能性がなくてつまらないし、そこで終わってしまう感があって。「あとどうすんの?」「一生それ続けていくの?」みたいな気分になってしまう。
あくまで構成はミニマムなんですけど、最大限の多様性とか可能性を探りたい、という感じですね。自分の日々のデザインもそうありたいなと常に思っています。
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関連リンク
Meety:綿貫さんが所属するQiitaではデザイナーを募集しています。デザインシステム構築や新規イベントのクリエイティブ作成など、刺激の多い仕事がたくさんあるそうなので、気になる方はぜひMeetyでカジュアルにお話してみてください。