いつだって回りには創作を介した対話があった。UXデザインディレクター、湯口りさ

人にはそれぞれ思想や世界観があり、その元となるインスピレーションやルーツがある。一見ひとつひとつはランダムな点に見えても、それらは線となって今の活動のなにかの糧になっているはずだ。だから、さまざまな人がさまざまなデザインをするのだ。

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今回はものづくりを積極的に行うご両親や同人誌カルチャーから影響を受け、2000年代初頭からWeb制作やサービス開発、コミュニティ運営に取り組んでいる湯口りささんのクリエイティブルーツを探ります。

湯口りささん
株式会社フライング・ペンギンズ UXデザインディレクター/デザインエンジニア

Web制作会社や事業会社を経て、現職の株式会社フライング・ペンギンズではUXデザインおよびコンサルティング業務に従事。B2B向けのサービス・UIデザインが得意。日々テクノロジーとデザインを通じてサービス開発を支援している。Adobe Community Evangelistとして東京でAdobe XDユーザーグループを運営。

1. 仕事やものづくりへの哲学、こだわりはなんですか?

クライアントや協業する方の情熱を引き出し、その情熱を育てることを大切にしています。

私は受託制作の経験が長いのですが、一緒に仕事をするクライアントが必ず高いモチベーションを持っているわけではないんです。スタートアップの場合は明確にやりたいことがあることが多いんですが、大企業ですと「会社からなにかしらの課題を与えられてはいるけど、なにから取り組んでいいかわからない」という方もいます。会社からの指示で急にWeb制作の配属になってしまった方、結構多いのではないでしょうか。そういう方は情熱がないわけではなく、知らない領域だから距離があるように感じているんだと思います。

そういった理由から、自らファシリテートして相手の情熱を引き出し、育てていくことも円滑にプロジェクトを成功させるために大切だなと感じています。まずは開発を通じてどう課題を解決するか、エンドユーザーにはどうやって使われるか、状況を整理し可能性を具体的にしていきます。

ある程度できることがわかると「あれもやってみたい、これもやってみたい」とさまざまな要望が出てきて、お互いの熱量が整ってくるんです。「こういうことをしてみたいんですが、良い方法はないですか?」と相手から聞かれるようになったころにはチーム感が増していますし、そこから可能性を広げていくことができるようになります。

2. あなたが仕事をはかどらせるためにやっていることや、愛用しているものがあれば教えてください。

実は年々こだわりがなくなってきています。昔はいろんなものにこだわっていたのですが……。

以前は自分でパソコンの設定をカスタマイズして使うのが大好きでしたし、使うものにもこだわりがあったんです。専門学校で講師をしていたときは当時の重たいMacBookとA4サイズのWacomのペンタブレットを持って県をまたいで通っていました。重すぎて何度か階段から落ちた記憶があります(笑)。それでも「どれだけ重たくても自分の道具でやりたい!」と思っていたんですよね。

しかし、いまではツールもガジェットもその場にあるものでやればいいと思っています。こだわりを手放したきっかけも講師をしていたころに遡るんですが、生徒はみんなデフォルトの設定でパソコンを使っているんですよね。なのでカスタマイズしすぎて標準状態を知らないと、教えることが難しくなっちゃうんです。パソコンを新しくするたびに再設定しなければならないコストもかかりますし、わざわざやらなくていいかと思うようになってきました。

仕事柄、便利なツールは紹介できるように知ってはいるんですが、ひとつのツールに固執しないようにしています。共同作業するときは特に柔軟に相手に合わせられたほうが良いと気づきました。

3. あなたが影響を受けた人は誰ですか?

あまりロールモデルは作らないタイプですが、強いていうなら両親からは影響を受けていると思います。父は早くからパソコンに興味がある方だったので、90年代前半にはすでに家でパソコンに触れられる環境にありました。エンジニアリングをしている父をみて育ったので、当時は少なかったデジタルでのデザインも仕事になりそうだな、ということに早く気付きました。

母はお金を稼げるレベルで手芸がすごく上手で、ハンドメイドのものを売ったり、手作りキットを作ったりノウハウの本を執筆し、販売するようなこともやっていました。このように技術でお金を稼ぐことを間近で見ていたのが自分のキャリアにも影響しているかもしれません。総じて「作ること」が自然にある環境で、それが自分のルーツになっています。ちなみに母はいまでも好奇心や創作意欲が強く、スタンプを工場生産するためにAdobe Illustratorを勉強し、発注先をアリババ経由で探しているパワフルな60代です(笑)。

湯口さんのお母様制作物:プラバンとビーズで作られた髪飾り
湯口さんのお母様制作物:トールペイント

湯口さんの母、湯口千恵子さんのWebサイトはこちら

4. あなたのデザインや考え方のルーツとなったコンテンツはありますか?

2000年代のWebコンテンツでしょうか。個人がWebサイトを持てるようになった時代で、とても楽しかったですね。

Photoshopの講座を公開しているグラフィックデザイナーのサイトは、説明がうまく面白かったのでよく見ていました。インターネット上のお絵かきコミュニティも盛んな時代で、それぞれが自分のWebサイトでテクニックを共有していた時代です。当時からWebサイトが好きというよりは情報を得ることが好きだったのかもしれません。自分の知見をまとめて公開することもやっていて、雑誌で取り上げてもらうこともありました。

そうやって情報交換できるコミュニティや学べるコンテンツがずっと好きなので、いまでも自分から発信したり、イベントを開催したりしています。FireworksやXDなどの好きなツールをもっと使いこなしたい、利用人口が増えて欲しいという思いは昔から変わりません。コロナ禍で開催が難しい時期もあったのですが、2022年12月には2年ぶりにAdobe XDのイベントを行いました!

5. 10代の頃に好きだったものやハマっていたことはなんですか?

10〜20代のころは、とにかく同人誌作りに夢中でした!

主に好きなゲームの二次創作をしていたのですが、一番好きなのは「マリーのアトリエ」でした。アトリエシリーズの初期のタイトルで、当時ゲーム雑誌で紹介されているのを見て一目惚れしたんです。主に漫画を描いて製本していたのですが、当時はまだデジタル作画が普及していなかったので「スクリーントーンって高いなぁ」と思いながらも集めていましたね、懐かしい(笑)。

マリーのアトリエ

同人イベントにもよく出ていたので、印刷や製本、グッズの作成、設営などの知識も自然に身についていきました。そういった経験は意外と仕事でも活かせたので、やっていてよかったなと思うことが多かったです。また、イベントの日程から逆算して漫画制作の計画を立てなければならなかったので、それが自分のプロジェクトマネジメントの基盤となっているのかもしれません。

6. 最近「いいデザインだな〜」と思ったサービスやWebサイトと、なぜ良いと思ったかを教えてください。

ごく最近のものというわけではないのですが、Pinterestが出てきたときは衝撃を受けました。画像のレイアウトがグリッドでもなく、横に並んでいるわけでもなく、これは画期的だなと。そのあとPinterestのサービス開発現場ではデザイナーとエンジニアが実装まで綿密にやりとりをしながら作ったと書かれた記事を読んで、感銘を受けました。

PinterestのUI(2022年10月現在)

また、最近ではこのデザインがいいというより「こういう理論が働いているからこんな設計になるんだ」ということに面白みを感じます。たとえば、GoogleやAppleも数年前からアイコンフォントのシステムを公開しています。アイコンの太さや色を変えられるジェネレーターなんですが、デザインとシステムの融合といった感じで面白いですよね。

Google Fonts − Introducing Material Symbols

関連リンク

Adobe XD User Festival 2022

2022年12月3日に開催された、湯口さんが運営されているAdobe XDユーザー向けのイベントです

Written By

野島 あり紗

Specrum Tokyoの編集部員。マサチューセッツ美術大学を卒業後、ゲーム系制作会社やデザイナー向け人材サービスのスタートアップに従事し、2021年に独立。デザイン界隈のフリーランスとして現在は各種デザイナーの採用、執筆編集などを行う。好きなものはラジオと猫。

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