荒砂智之、畳職人・和裁師の両親とhideが教えてくれたこだわりの美学

人にはそれぞれ思想や世界観があり、その元となるインスピレーションやルーツがある。一見ひとつひとつはランダムな点に見えても、それらは線となって今の活動のなにかの糧になっているはずだ。だから、さまざまな人がさまざまなデザインをするのだ。

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今回は畳職人と和裁師の両親から、そしてロックスターのhideから両極のインスピレーションを受けたUIデザイナー、荒砂智之さんのクリエイティブルーツを探ります。

荒砂智之さん
デザインスタジオ KOEL UIデザイナー Blog / Twitter

大阪芸術大学卒業後、複数のデザイン会社にてWebデザイナーとして活躍。2020年よりNTTコミュニケーションズのイノベーションセンターのデザイン部門、KOEL所属。UIデザイナー兼マネージャーとして勤務。プライベートではデザイナーコミュニティ「Designer’s HYGGE(デザイナーズ・ヒュッゲ)」を運営。

1. 仕事やものづくりへの哲学、こだわりはなんですか?

数年後にどうなっていたいかを目標にして、自分の行動を組み立てています。10年ぐらい勤めた前職の制作会社を辞めたときに、「自分がなにを大切にしていたんだろう」と振り返って気づいたことをブログにまとめました。

荒砂さんの個人ブログより(http://tomoyukiarasuna.com/baigie-learning/

全部で9項目にまとめています。書いてあることは特殊なことというよりも、やるべきことをやるといった自分にとっては当たり前のことが中心です。行動軸とマインド軸に分けて、気を付けていきたいところを書き出しました。

9つのうち、ここ数年特に大事にしていることは「戦略を持つこと」です。組織を作る上でもチームメンバーをマネジメントして、成長を促していかないといけない責任があるので、数年後を見据えた長期的な戦略はよく考えています。

2. あなたが仕事をはかどらせるためにやっていることや、愛用しているものがあれば教えてください。

仕事をはかどらせるために、睡眠を2回とることを意識的にやっています。脳の働きに関する本で「脳は自分が起きているときに詰め込んだ情報を睡眠中に整理する。そして、朝起きたときが一番脳内の情報が整理されている状態になっている」と読んだことがあります。この状態を一日のうちに2回作れるように、昼寝を習慣化したんです。

この数年でリモートワークになって、昼寝がとてもしやすくなりました。会社で働いているときは社内で昼寝する姿を見せられませんでしたが、今はお昼ご飯を食べた後の15分間、必ず真っ暗な部屋で寝ています。そうすると頭がすっきりするので、睡眠をうまく活用して効率的に働けるサイクルを意識しています。

また、息抜きとして子どものおもちゃ作りも楽しんでやっています。コロナの影響で家にこもる時間が増えた中、なにかやれることがないか探し始めたのがきっかけです。おもちゃは小さいものだと手軽に作れるので良いですね。飽きずに遊べるように、少しギミックを加えて工夫して作っています。

100均で売っている角材で作られたお寿司のセット。シャリとネタが別々になってて、磁石でペタッとくっつくようになっています
子どもに「お寿司屋さんになって」と言って、これをぽんと出して「へいらっしゃい」って言うんだよと、ごっこ遊びをしたらすごく喜んでくれました

特にうちの子どもは車が好きなのでトミカを使って遊べるおもちゃをたくさん作りました。まず「こんな感じかな」と手描きでラフを描いてをイメージしながら、ときにはIllustratorなどで簡単に製図することもあります。

最近は息子がヒーローものにハマっているので、変身ベルトを作りました。結局、あまりクオリティがよくなかったのでSNSにはあげなかったんですが……。息子の注文の難易度が上がってきて、制作が難しくなってきました。

3. あなたが影響を受けた人は誰ですか?

自分の根幹には、職人としてものづくりの仕事をしていた両親の影響が大きくあると思います。

父は畳職人で、自宅の裏手には大きな畳工場がありました。工場内には畳を作るための巨大な機械がいくつもあって、常にガシャンガシャンと大きな音を響かせていました。畳は藁(わら)とスタイロフォームという発泡スチロールを組み合わせて作るのですが、その材料が大量にある工場は少年時代の僕にとって恰好の遊び場でした。

倉庫いっぱいに積みあがった藁の中に潜り込み、兄弟と近所の子どもたちと一緒に藁をかき分けながら「こっちは誰々の秘密部屋」「こっちは〇〇する場所」など相談しながら秘密基地を作りました。そんな場所で内緒でお菓子を食べたり、自分たちのおもちゃを持ち寄ったりする中で、なにかを作りだす面白さを体感していたのかもしれません。

また、母は和裁師(着物を縫う人)なんです。母の部屋には針、糸、ミシンといった和裁の裁縫道具、生地となる布、着物などがすごく沢山あって、チクチクと布を縫う母の姿を常に目にしていました。成人式近くになると、近所のお姉さんの着物を仕立てることも多く、実際に母が着付けをする姿もよく見かけました。

両親共に職人という家庭環境で育ったのは、少なからず自分がものづくりに関わる仕事をしていることに影響しているように思いますね。今となっては、両親がプロとしてのこだわりと責任を持って自分の仕事に取り組んでいたことを、想い出の節々からも感じることが多いです。

4. あなたのデザインや考え方のルーツとなったコンテンツはありますか?

今まで数多くのものから刺激を受けてきたので、これ!というものを選ぶのは難しいのですが、特に10代の頃に衝撃を受けた人として、バンド「X JAPAN」のギタリスト、hideさんが挙げられるかと思います。当時見ていたテレビの中で、赤・ピンクの髪でギターを弾く姿はとてもセンセーショナルでした。

X JAPANのギタリスト“HIDE”、ソロアーティスト“hide”
(画像引用元:https://www.hide-city.com/profile/)

サイケデリックな模様を自分自身で施したギター、独自のファッションセンス等、当時の自分には衝撃的にかっこいい存在として目に焼き付きました。お小遣いを貯めて買ったCDは、当時10代だった僕にとっては実際のモノとして手元に置ける宝物の一つでした。そして彼のCDは特にお宝感がありました。

たとえば、1993年に彼がソロデビューした際のシングルCDジャケット。2枚同時に発売されたんですが、緑と赤のCDを両方買って並べ、交差法(寄り目にして対象物よりも手前に焦点を合わせる方法)で眺めると、瓶の中に居るウィルスらしきhideの姿が立体的に見えるギミックが隠されています。

hide「50% & 50%」 hide「EYES LOVE YOU」 (荒砂さん私物)

また、翌年の1994年に発売された彼のファーストアルバムは、映画「エイリアン」のクリーチャーをデザインした世界的な造形作家、H・R・ギーガーがメインビジュアルとなる鉄仮面(実は腕時計で作られている)の制作を担当しています。そして初回盤はこの鉄仮面に立体的なプリントが施されており、目の部分は穴が開いていて、中を開くとhideの顔が出てくるギミックが含まれています。

hide「HIDE YOUR FACE」(荒砂さん私物)

その他にも彼のCDにはこうした「ちょっとしたアイデア」が盛り込まれているものが多いんですが、きっとファンを喜ばせるためにこだわり抜いてモノづくりに取り組んでいたと思うんですよね。hideに限らず、こうした作り手のこだわりに触れる中で、自分もなにかしら作ったものを受け取る人に、驚きや喜びを感じてもらいたいと思うようになったような気がします。

5. 10代の頃に好きだったものやハマっていたことはなんですか?

なにかに特化してハマったという記憶があまりないんです。僕の地元は京都府福知山市というところなんですが、その中でもすごく山奥の学校でした。中学校の全校生徒が15人ぐらいで、保育園の頃から中学卒業まで、クラス替えがない状況だったんです。一番近くの本屋さんに行くのも車で30分ぐらいかかるし、情報を得るにもテレビかラジオぐらいしか選択肢がない場所でした。

よくある話ですけど、普通であることが不幸、みたいなマインドに陥ったこともあります。「なんで自分はこんなに普通なんだろう」と。hideさんのような、すごく華々しいクリエイターになりたい気持ちはあるのに、自分は平凡だなとガッカリすることがありました。「普通」って、なんでしょうね。複雑な物事の表裏を見て捉えるということが苦手だったのかもしれないです。

でも、尖っていない普通の感覚を持っているからこそ、今の仕事ができているとも思います。僕がやっているUIデザインやビジュアルデザインなどは、複雑なものをシンプルに伝える仕事です。物事を自分が感じたまま素直に受け止められるところが、自分のデザインに活かされていると思うことも多々ありますね。

6. 最近「いいデザインだな〜」と思ったサービスやWebサイトと、なぜ良いと思ったかを教えてください。

ルクミーという保育施設向け総合ICTサービスです。私が勤めるKOELの中でグッドデザイン賞に関する勉強会があり、そのときに知って興味を持ちました。ルクミーは保育業務のデジタル化を図って保育士の負担を減らし、子どもと向き合う豊かな環境を整えることを目的とされています。

私にも幼い子どもがいますが、保育士の方々は子どもたちの命を預かるという大きな責任を背負いながらも、日々細々とした対応に走り回られていて、とても大変なお仕事だと常々感じていました。

そんな状況にもかかわらず、たとえば連絡帳やお知らせは紙でのやりとりが中心、いろんな手続きもそれぞれ独自サービスで契約されていたりと、管理する保育士側、サービスを請ける保護者側、双方共に大きな負担を強いられていることが多くあります。ルクミーはそういった保育現場にある細かな対応・作業を総合的にデジタル化することで、先生をはじめ、親や子どもにとって良い体験をつくるサービスです。

この事例は保育という私にとって身近な領域なんですが、まだまだユーザーの目線に寄り添ったプロダクトやサービスを作れていない領域、今までの価値観や新しいものを導入するハードルが高い領域は数多くあります。今のデザイナーはこうした逆境と向き合いながらも、利用者の声を代弁し、より良いものを作っていくことが大切なんだなと、改めて感じさせられた事例です。

関連リンク

Designer’s HYGGE(デザイナーズ・ヒュッゲ)

デザイン好きなら、年齢・職業・経験・社会人/学生など一切不問、誰でも参加できるオンラインコミュニティ。現在約200名の方が登録されており、毎月月末に参加者同士でオンラインワークスペースに集まってゆったりと雑談する会を継続的に開催中。ご興味ある方は荒砂さんのTwitter宛にDMでご連絡ください。
荒砂さんTwitter:https://twitter.com/tomoyukiarasuna

Written By

三栖友理香

決済に関する新規事業の立ち上げ、法人営業に約6年間従事。想いを形にする仕事がしたいと思い、異業種から転向した駆け出しデザイナー。

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