デザインと出会い、こだわりの強さを長所に変えたデザイナー、岡本勇樹
人にはそれぞれ思想や世界観があり、その元となるインスピレーションやルーツがある。一見ひとつひとつはランダムな点に見えても、それらは線となっていまの活動のなにかの糧になっているはずだ。だから、さまざまな人がさまざまなデザインをするのだ。
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今回は、スタートアップでの経験を経てデザイナーとして活躍の幅を広げ、現在は独立して株式会社LIBERATEを経営する岡本勇樹さんにインタビューしました。
岡本勇樹さん
株式会社LIBERATE CEO / ビジネスアーティスト / デザイナー新規事業のサービスデザインや既存事業のグロースハックなど、事業設計~ビジュアルデザインまで一気通貫で行うデザイナー。前職はヘルスケアアプリのスタートアップでデザイナー・プロダクトマネージャーとして、アプリ・SaaS・DtoC・広告(媒体側)・アライアンス・株主案件等、多様な領域に携わる。2022年1月に独立し、ベンチャーから大企業まで幅広くデザイン支援を行っている。
「主な実績」グッドデザイン賞(FiNC, 2019) / IF DESIGN AWARD(NEC A-ARROWG, 2020) / ヤングライオンズ プリント部門 国内予選ファイナリスト(2023)
1. 仕事やものづくりへの哲学、こだわりはなんですか?
中途半端が嫌いで、常に自分が考えるベストを出すようにしています。事業であれば、成果や成長に結びついているか。デザインであれば、人の心が動く設計になっているか、ちゃんと使われることが想像できるものになっているか。微妙だなと感じる部分があると、絶対に放っておけないんです。放っておくと、ずっと頭の片隅に気持ち悪さやもやもやした感覚が残り続けてしまうので、パフォーマンスにも悪影響を及ぼします。そのため、突き詰めて考え切ることのできる環境でなければむしろやらない、と自分の中では決めています。
このこだわりが強い完璧主義的な気質は、幼い頃からずっとありまして、細かいことに対して「こうだったらいいのに」と思うことが多く、友達に「こうやらないとダメだよ」と言っては疎ましがられることが何度もありました。当時はそんなこと言っても相手にされませんでしたが、大人になってこの気質がデザイナーという仕事とうまく結びつき、ある意味正当化されたように感じています。
理想・エゴを、ロジックを組んでわかりやすく伝える手段を得たとも言えますし、良くないと思ったことに対し、デザインによって正しく設計・修正ができるようになったとも言えます。同じ指摘でも、デザイナーとして伝えることによって説得力が増す部分もあるかもしれません。「こうだったらいいのに」と思っていたことを、ようやく自分の手で創り、動かし、表現できるようになったので、幼い頃からの伝えたい願望が職業・カタチになっているなと感じています。
ただ、自分だけでできることは限られているので、さらなる完璧を追い求めるには、他の誰かと一緒に良いデザイン・仕組みを社会に実装していく必要があります。そのために組織をつくったり、居場所をつくったり、関わった人たちに良いデザインの素晴らしさを伝えていくなど地道に取り組んでいき、人が生きやすい世の中を創っていきたいです。
2. あなたが仕事をはかどらせるためにやっていることや、愛用しているものがあれば教えてください。
はかどらせることよりも、いかに面倒なことを排除して無理なくやるかを考えています。無理をしながらやっても大抵うまくいかないし続かないので、手間を減らすことを考えるようにしています。
たとえば、仕事になった途端にデザインのインプットをはじめるのではなく、普段からInstagramを活用し、少しでも気になったらフォロー。いい投稿を見つけたら保存済み機能でカテゴリー別に保存。Webデザインやロゴ、フォトグラフィー、インテリアなど、さまざまな事例を日常生活の延長線上で無理なく収集しています。いざとなったらPinterestももちろん活用します。
他にも、Chrome拡張機能の「Panda」を活用して、Behance、Dribbble、Awwwardsを常時3カラムで新規タブに表示していつでも見れる状態にしています。それぞれのサイトに行って毎回見るのは面倒なので、ふとインプットしたいと思った時にその場で気軽に触れられるような導線をつくっています。
ちなみに、この「面倒を避ける」という特性は、そもそもの人間の特性だと考えています。伸びているサービスや人気のゲームなどには、人を動かすためのさまざまな仕組みが取り入れられており、基本設計として、期待する報酬が行動のハードルを上回った時に人は行動するので、手間や面倒を極力排除していたり、短いスパンで報酬を得られるような設計がなされているのです。そう考えると合理的なインプット設計だと思いませんか?
話を戻すと、もう一つPandaがつくっている「Designer Daily Report」というサービスも活用しています。基本的にはPandaと似ているのですが、時間になったら自動的にブラウザのタブが開くのが特長です。デザイナー向けのニュースやアワードを受賞したサイトなどが表示されるのですが、その無理のないセレンディピティ的な体験も気に入っています。
他にも気になったメルマガは全て登録するなどもしていて、「FRAME」はイケてる海外店舗の外観・内装などが見れておすすめです。
本当はもっともっと面倒をなくしたいので、Instagramのフォロー数や受信するメルマガが一生増えていきそうです(笑)。
3. あなたが影響を受けた人は誰ですか?
3人紹介させてください。
ひとり目は、芸術家の岡本太郎さんです。同じ苗字ということで興味を持ち、はじめのうちは「いい絵だな」ぐらいしか感じていなかったのですが、さまざまな展示会に行ったり、『自分の中に毒を持て』などの著書を読んだりするうちに、強烈に惹かれていきました。
彼は私にアートの概念を教えてくれた人物です。それは思想を表現することであり、如何に社会に伝えることができるか。彼の「自分の中にある毒すらもさらけ出しながら、人生を通して熱中したもの、爆発したものが輝きである (多少自分の解釈も含みます)」といった考え方は、私自身の軸となる考えと共通するものだと感じています。自分の会社のロゴデザインも、実は岡本太郎さんからインスピレーションを得ています。
ふたり目は、株式会社CRAZY代表の森山和彦さんです。高校3年生の頃にセミナーに登壇されているのを見にいって以来の知人なのですが、「社長はこうあるべき」という考え方や、組織のあり方に対する固定観念を壊してくれた方であり、私の思う「あるべき会社の姿」は森山さんからの影響を多分に受けています。彼の仕事への向き合い方、つくりたい世界に対する考え方、社員を家族のように想う考え方など、今までもこれからも参考にしていくと思います。
参考:https://www.crazy.co.jp/people/kazuhikomoriyama
3人目が、株式会社FiNC Technologiesに勤めていたときの同僚の湯通堂圭祐さんです。現在は独立して株式会社SevenDayDreamersの代表をされていて、仲のいい先輩後輩みたいな間柄です。私が、こだわりが強いゆえに指摘することが癖になっていて、期待したようにならずに怒りばかり溜めていた頃に、「人に期待することをやめなくていい。期待通りに行かなかったら、その次の期待値を調整すればいいんだよ。」という言葉をもらい、それが金言となって今も私に寄り添ってくれています。それまでは「お前は人に期待しすぎ。お前みたいにみんなができるわけじゃない。もっと周りに優しくなれ。」と言われることが多かったのですが、それらとは異なる視点で捉えるアプローチを教えてもらいました。そういった視点の切り替え方というか、手法の手数を持つみたいなことも同時に教えられました。
このお三方はもちろん、本当にたくさんの方々に出会い、支えられてきました。出会った方々から受けてきた影響、そして吸収してきたさまざまな考え方が、自分の中ですっと1本の柱のようになってきているのを感じています。
4. あなたのデザインや考え方のルーツとなったコンテンツはありますか?
美意識のようなものが芽生えたのは、高校生の頃にファッションに興味を持ってからです。それまでファッションになんて全く気を使っていなかったし、自分で服を買ったことさえほとんどなかったのですが、ある日の待ち合わせで駅前のポールに腰かけていた友達の格好があまりに格好よくて衝撃を受けたんです。黒いハットのツバの右側にタバコを、左側にはキジの羽をさして被っていたのが「めちゃくちゃイケてんな!」と(笑)。
当時は「何者かになりたい」と強く思っていた時期だったこともあり、ファッションならそれが表現できるのではないかと感じました。それからいろいろと古着を買ってみたりして自分らしさを表現をしてみたら、ちゃんと周囲から反応が返ってくる。それが嬉しくて、どんどんのめり込んでいきました。
ちなみにその友達が着ていた服やハットは「ART COMES FIRST」というブランドのもので、イギリスの有名老舗テイラー「Savile Row」で修行したアメリカ人のSamと、イギリス人のShakaというふたりの黒人がつくっているブランドです。黒人のパンクやロックの精神と、英国紳士のカルチャーをミックスしたオリジナルな着こなしが魅力で、ライダースジャケットの上からスーツを着たり、英国紳士のシンボルであるハットにキジの羽やドル札などのストリートなどの要素を足したり。Punk Tailorと謳うふたりが纏う空気が最高で、これこそがコンセプトなんだと今になっては思います。当時はコンセプトという言葉を知らなかったので、ただただ「格好いい!」という衝撃と共にものすごく心を動かされました。
5. 10代の頃に好きだったものやハマっていたことはなんですか?
昔からずっとゲームとアニメが好きなのですが、ゲームは特に子どもの頃から「ポケットモンスター」が好きで、ポケモンと共に生きてきたとさえ感じています。今でも新作が出たら必ずプレイしますし、最近ではポケモンカードゲームもやりはじめて、妻と一緒に楽しんでいます。RPG(ロールプレイングゲーム)やFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)など、難しかったり過激だったりするものはあまりやっていなくて、他にもあげるなら「ロックマンエグゼ」シリーズなどは全部やりましたね。
アニメは深夜アニメをよく見ていて、一番好きな作品は「日常」です。ゆるふわなギャグ漫画のテイストなのですが、世界観がいい意味でくだらなくて、難しくないところがおもしろいです。他にも「イナズマイレブン」などが好きで、結構くだらない系が好きですね(笑)。
あと実は中学3年の時期にAKB48にもハマっていました。推しもいましたし、握手会にも行ったことがあります。アイドルはいろいろな人に夢を与え、救ってくれる存在だと思います。
共通するのは「みんなが夢を目指して頑張る世界」というか、現実の嫌なことが全て存在しないような世界観です。もちろん多少は存在しますが、人がたくさん死んだり、人の悪意が前面に出てきたりすることがなく、ヒーローや勇者が最後に勝つ世界観が好きなんです。
正直、私自身はこれまでの人生の中でさまざまな悪意に触れてきましたし、あまり家庭環境も良くなかったので、自身の原動力は夢や好奇心などではなく不安や不満からくるものが大きいと思っています。ただやっぱり社会全体としては、これらの物語のように悪意にさらされることのない環境をつくっていきたい。そうすることで誰もが「不可能なんてない」と思える世界をつくっていきたいですね。それこそが、LIBERATEのビジョン「Nothing is Impossible.」です。
6. 最近「いいデザインだな〜」と思ったサービスやWebサイトと、なぜ良いと思ったかを教えてください。
最近はMidjourneyやStable Audioなどの生成AIを使っているのですが、デザイナーとして危機感を感じる半面、その体験の素晴らしさも実感しています。
Midjourneyは、これまで非常にコストがかかる行為であった写真撮影やアートディレクションを誰にでもできるようにした点などに、大きな価値を感じています。素晴らしく精度の高いプロトタイプを得ることができるので、事業開発をする人、ブランドをつくる人にとっては、今後必要不可欠なものになるのではないでしょうか。既に作業効率化の段階は過ぎてクオリティをあげるフェーズに入っており、本当に衝撃的な体験だと感じています。
ただし、AIが人々の職を奪いその生活を危ぶむのであれば、それは社会を良くする仕組みではあっても、人々の生活を良くする仕組みではないのかもしれないと思っています。
とはいえ今後AIがなくならないとすると、より一層、人に受け入れられるような「コンセプト」を持った事業・サービスが重要視されるようになります。
この間、TBWA\HAKUHODO・CCOの細田高広さんが書かれた『コンセプトの教科書』という本を読んだのですが、コンセプトのつくり方を体系的に説明していて、誰でも使えるぐらいの粒度にまで落とし込まれていてとても良かったです。それ自体が素晴らしいデザインだと感じました。是非、全てのデザイナーにおすすめしたい本です。
今ある仕事はどんどんAIに置き換わり、雇用が減少すると、新しいものを生み出さなければいずれ人の生活が危ぶまれます。デザイナーはコンセプトを創出し、事業・サービス・モノなどをデザインすることにより、未知の素晴らしさに気づかせ、新しいマーケットをつくり、雇用を生んでいくことができると考えています。私は、経済発展や日本の国力に繋がるようなデザイン・仕組み・流れを創りたい。そのためには組織を大きくし、成果や実績を出し続けないといけないと感じています。
これからも頑張っていきたいと、インタビューを受けて改めて感じました。
関連リンク
株式会社LIBERATE Webサイト:https://liberate-group.com/